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第一話 死にたがりのシャッター
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しおりを挟むボールは木々にぶつからなかったが、どうやら青年に直撃したらしい。背中を撫でる彼に、真希はしゃがれた声で平謝りだ。
今、真希は彼の後について駐車場へと向かっている。
憚りなく泣き崩れた真希に、青年は手を差し伸べてくれた。訳は聞かず、こんな所からは早く出た方がいいと、先導を務めてくれたのだ。
登山者とは呼べないカジュアルな服装は、鬱蒼とした木々の中で見るからに不自然だ。それは真希にも当てはまるのだが。
普段の真希なら、もう少し慎重になって、男の後にはついていかなかったはずだ。それなのにこうして彼の辿る道を頼りに引き返しているのは、ロディが警戒していないことが一番の理由だ。それとともに、もしかしたら彼も同じなのかもしれないと、どこかで思っているからだろう。妙な親近感、いや、シンパシーか。
何者か気にも留めなかった。
駐車場に着いて、打ち捨てられた倉庫のような建物のシャッターを、彼が押し上げるまでは──。
錆びたシャッターが、いかにも重そうな音を立てて開く。
「今、明かりを点けるから」
とりあえず休んでいきなよ、と彼は言う。
真希は今更ながら、のこのことついてきたことを後悔し、急に背筋が冷たくなるのを感じた。
ロディが吠えもしなかったからって、彼が善人であると、何を根拠に言えただろう。もしかしたら殺人鬼かもしれない。殺されなくても、酷い目に遭わせられるのかもしれない。どうしてそこまで考えなかったのだろう。不安の影がようやく追いついて、凄惨な未来図が真希の頭を瞬時に巡った。
そして同時に、ひどく渇いた笑みが溢れる。死にたいはずなのに馬鹿だなぁ、と自嘲した。
真希の背後で、シャッターが軋んで鳴きながら閉じられた。
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