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最終話 あるじさま、おしごとです。
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しおりを挟む心がぴたりと合わさるように、二度目はどちらからともなく引き寄せられる。啄むような接吻を交わし、瞳に互いを映しあって同時に微笑った。
「甘い」
「ええ、本当に」
胸に抱いた滑らかな髪を撫で、愛しんでいると、塀の向こうの通りが俄かに騒がしくなった。
おーい、と呼ぶ声がする。ハルではなくて、セイタロウの声だが、準備が整ったのだろうか。
「続きはまた後で」
ぱっと身を剥がして居住まいを正しているうちに、塀をよじ登って友人が顔を覗かせた。
「大変だ、ショウスケ。事件だ、事件。すぐに社まで来てくれ」
こんな日に、と言っても仕方がない。それが仕事なのだから。
ちらりとキョウコを振り返ると、既にその姿はない。あっという間に仕事道具を用意して、戻ってきた。
「何事だい」
「魚だよ、魚! 空から魚が降ってきたんだ。とにかく来てくれ。おキョウちゃん、ごめんなぁ。旦那、借りてくぞ」
「お励みくださいませ」
塀からひょいと飛び降りて、足音が遠ざかる。
「また面妖な事件だなぁ」
「……ひょっとすると、お社様からのお祝いでは?」
目をかけた猫を祝福してくれたのかもしれない。そう思ったらちょっとだけ、不気味さは薄れるではないか。キョウコがふふふと笑うので、ショウスケも現場に向かうのが少し楽しみに思えた。
「ああ、でも……」
ふにゃりと蕩けた顔で彼は笑う。
「口が甘すぎて、どうも締まらない」
今日は仕事のことは頭から締め出していたから余計だ。
「これじゃ駄目だ。おキョウさん。僕の頭を叩き起こしておくれ」
キョウコはふっと小さく笑う。二人の朝を告げる、もうお決まりの一言だ。
軽く咳払いして声の調子を整え、猫は鳴く。
「主人様、お仕事です」
凛、と。
真白な春に、言の葉がひとひら————。
重ねた絆と想いを載せて、いま軽やかに舞い上がる。
完.
ーーーーーー
長い物語でしたが、ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました
次頁におまけとして、ショウスケと出会う前のキョウコのエピソードを公開いたします
全ての始まりの物語をお楽しみいただければ幸いです
また、キヌやセイタロウ、若かりしコイミズのエピソードなども執筆済みです
近日中に公開できたらと考えております。引き続きよろしくお願いいたします
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