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第八話 紅い痕。
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しおりを挟む「そんな、馬鹿なこと」
僧房にて、エイゲンに聞かされた話はショウスケの理解の範疇を超えていた。
「わたしは、ただの代書屋ですよ。御坊様のように修行をしたわけでも徳を積んだわけでもない。それなのに」
死者の魂を呼び戻す力があるだなんて。
「だから危険なのだと言っておろう。感情が昂った時、書く文字には気をつけた方がいい」
「承知、したいところですが……。先程話されたことは本当に間違いないのですか?」
「猫がしもべであるということか? ああ、呼び戻したのがおぬしである以上、魂の手綱は間違いなくおぬしが握っておる」
主人としもべの関係だから、キョウコはショウスケに逆らえない。名を呼ぶこともできない。好意を寄せるのも、主人以外に興味などないからだ。
そして死もない。ショウスケが生きている限り、如何に苦しもうと死の淵から帰ってくる。ヒトの器を手に入れようと、中身は妖怪奇の類なのだと。
そこまで言われて、ショウスケは目の前が真っ暗になった。
「彼女を自由にするには、手綱を離せばいいのですか? それはどうしたらできますか」
「……その自由というのは、魂が輪廻の輪をくぐることと承知しているのなら、手を貸してやろう」
愕然とした。それでは永遠に別れてしまうということではないか。
ショウスケはふらりと立ち上がる。
「二度とこのように魂を弄ぶことのないよう、己が文字を律し、精進します。ですから、どうか……わたしどものことは放っておいてください」
「妖に懸想などしても、その先にヒトの幸福などありはせぬぞ」
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