あるじさま、おしごとです。

第七話 だれでもなくて。

閑話「時限爆弾」

「気付いたか？」
「全くでございます」

　キョウコは髪を撫で付けて、自分の匂いを確かめる。

———たまにはヤキモチを妬かせてやろう。

　セイタロウが悪戯っぽく思いついて、香水コロンを吹き付けた襟巻きを被せてくれた。程よくついた匂いを纏って向かったはずが、ショウスケはちっとも気付いていない様子だった。

「逆の立場でしたら、すぐに分かりますのに」
「へぇ、ショウスケから女の匂いがしたら？」
「分かりますよ」

　色街騒動の時から特に気をつけているのだ。

「じゃあ、最近は全然しないだろう？」
「……そうでございますね」
「このところ付き合い悪くてなぁ」

　そもそもセイタロウが誘わなければ、進んで遊びに行く人間じゃないのだ。余計なことをしないでほしいと、猫の眼差しは鋭い。

　湯呑みを取りに席を外す少女の背中に、セイタロウは呟いた。

「おキョウちゃんの顔がちらついて、駄目なんだと」

　もうほとんど結び合っているというのに、本当に世話の焼ける二人だと、セイタロウはくつくつと笑う。
　さて、あの鈍い男がどんな顔をするのか見ものではないか。襟巻きをしっかり巻きつけて、階段を下りてくる足音に耳を澄ました。




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