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第五話 星、流れども。
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…………
「この度は……、長らく街を空け、皆様の不信を煽る形となってしまい……、また、このような痛ましい事件を引き起こす一因となってしまったことを、心よりお詫び申し上げるとともに、……お悔やみを申し上げます」
翌日、議場にて町長が、記者らと街の者に向けて会見を開いた。
ユキヘイの代筆なしでは、謝罪一つもこのザマだ。話が下手なのが露呈している。
記者らの追及に、町長は自分は不正に関与していないと貫き通した。演説台に視線を落とす時は雄弁になる。台本を盗み見ているのは明らかだった。
「わたしが誘致に心血を注いでいたことを、彼が汲んで共に手を取り合えていると思っておりました。彼の文字と言葉には不思議な力がありましたから、トントン拍子で事が運んでいくことに、なんの疑いも持っておりませんでした。きっと研究所の方も、面妖な術にかかった気分でしたでしょう。まさか大義の陰で彼に魔が差すことがあろうとは……わたしの監督の至らぬところでした」
尤もらしい言葉を並べて、ユキヘイを今でも信用していると言いながら、罪を庇うことはしない。あくまでユキヘイの暴走によるものだと印象づけているようだ。
「今回の件を重く受け止め、コトノハ堂さんにはしばらくお役を退いていただいて……。代書屋不在時の周り番の慣習に則って、隣町の代書屋の一つ、ゴンゲン堂さんをお招きすることと致します」
会見の最後に、町長は右手に手巾を持って目頭を押さえた。
「彼は……、ユキヘイくんはわたしの友でした。どこで道を違えたか、振り返っても見えやしませんが……。どうか、どうか皆様。過ちを憎んでも、彼を憎まないでください。彼は本当に実直な男だったのです……」
お涙頂戴の演説を、議場の隅で聞いていたコイミズは舌打ちを隠そうともしなかった。
後日、新聞記事で町長の見解を知ったコトノハ堂の面々は怒りに沸いたが、通夜や葬儀に追われて、反論の機会を失った。
初七日を過ぎ、ようやく現場の片付けも終わった頃、コイミズが訪ねてきた。
客間で、ショウスケは差し向かい話を聞く。
コイミズの用件は、事件の顛末についてだ。既に刑番所での記録の役は、ゴンゲン堂に移っている。
あくまで、遺族への報告に来ただけだとの前置きがあった。
「今回の事件は、ユキヘイによる妻の殺害と自死。無理心中よ」
耳を疑うショウスケの前に、記録紙の束が放られる。
頁をめくる前から違和感を覚えたものの、構わず目を通したショウスケは、明らかな相違に愕然とした。
「これは、わたしの字ではありません。内容もまるで違う、どういうことですか?」
ネイの傷の図解はおろか、詳細も省かれている。ショウスケが付けた卓へ続く足跡は、ユキヘイのものとして記されていた。着物の血痕についても全く言及されておらず、第三者が存在した可能性など微塵も浮かび上がってこない記録に書き換えられていた。
例の、代わりに来たゴンゲン堂が、日が経ってから現場を見て記したものだという。
「アンタは身内で、客観性に欠けるから……」
「それは先にわたしから申し上げましたが!?」
さすがのショウスケも我慢ならず、声を荒らげた。
コイミズには全く悪びれる様子もない。
「それでもあの時点で、アンタ以上に適任はいなかったのよ。こんな面倒が絡んだ事件……、他人を入れれば入れるほど、真実は捻じ曲がりかねないの。アンタなら、ユキちゃんとネイさんを守れると思ったのよ」
コイミズは組んだ両手を握りしめる。
「たとえ書類が認められなくても、アンタの言の葉は、アタシや立ち会った者たちの意識に刷り込まれているわ。それだけで価値があるのよ」
それではあの時の冷徹とも言えるコイミズの発言は、演技だったのか。ショウスケはまだ鵜呑みにするつもりはなかった。
コイミズにはまだ隠していることがあると、ショウスケは疑っている。確信はないが、あの日、現場に現れたコイミズの様子は不自然すぎた。「らしくない」というのが最もしっくり来るか……。
互いに、口を開く一瞬を見極めて鍔迫り合いをしているような、妙に張り詰めた空気が漂よう。
「失礼いたします。お茶をお持ちしました」
均衡を破ったのは、キョウコだ。襖の向こうで丁寧に頭を下げる様子まで、透かし見えるようだ。
「そこに置いて去りなさい」
ぴしゃりと言い放ったのはコイミズだ。沈黙が破られた隙間に食い込んで、彼は発言権をものにした。
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