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第五話 星、流れども。
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しおりを挟む祭りの会場はキョウコが棲みついていた社の裾野に設けられている。幟旗のように立てられた笹の瑞々しい青の中に、色とりどりの飾りが揺れて華やかだ。
祭りが終わる夜になると、笹飾りは境内に上げられて御祈祷を受けることになっている。それで早くに短冊を結んで、出店巡りに精を出す者も多かった。
ショウスケたちが筆を取り、客がつくのを見届けて、使用人たちも好きに出かけた。
キョウコは人混みに揉まれるより、ショウスケを見ている方が楽しかったので、一緒には行かなかった。たまに近くの店で飴なんかを買ってきたりはしたが、目の届かないところに行くことはないので、ショウスケも安心して短冊書きに精を出していられるようだ。
ちらほらと何か裏を感じさせる記者風の者が並んでいたりするが、今年も短冊書きは盛況だ。
やはり女子たちが圧倒的に多い。センとイヘイにも同じくらいの人だかりができている。年長の二人は慣れたものだが、まだ二回目のイヘイは押し寄せる娘らに圧倒される様が初々しい。
願い事を口にするのは照れくさいのか、仮に書いた紙を差し出されることがある。流れ作業で仕事をしていて、不意に「こっちを向いて」などと書かれたものを差し出されると、職人は無意識に顔を上げてしまう。するととんでもない歓声が上がる……これはもう短冊書きの名物だ。
「さっきはわたし、なんて書いたと思います?」
休憩中にぐったりした様子でイヘイが嘆く。
「愛する貴女と添い遂げられますように……って頼まれて書いたんですけど、その子……懐にしまったように見えたんですよね。……おかしいなぁ、おかしいなぁぁぁと思って、笹を全部見たんですけど、その短冊どこにも掛かってないんですよ!」
「ああ、あるある」
ショウスケとセンが当然のように頷く。
「短冊を装った婚姻届だったり、子宝祈願と書いた帰り道で、宿に連れ込まれそうになったり……いろいろあるよ」
遠い目で語る主人の後ろで、センが街一番大きい身体をさすりながら頷いている。
「もう嫌だ……、積極的な女の子怖い。キヌお嬢様のような、しずしずとした方がいい」
「何を情けないことを。見習いのうちからご贔屓さんに恵まれるなんて、そうあることではないですよ。しゃんとしなさい」
ネイに叱咤され、イヘイはしぶしぶ筆を持ち直した。
「それにしても、大旦那様は遅いですね」
ネイは爪先立ちで通りを見遣った。
一刻以上経っても、ユキヘイはやって来ない。通りは人でごった返しているから、身動きが取れなくなっているのだろうか。
「わたくしが見て参りましょう」
「ああ、キョウコ。いいのですよ、わたしが行きますから。お前が行ったのでは仕事にならないでしょう?」
ちらりとショウスケに視線を送って、ネイは歩き出す。
「それじゃあね、皆様方。大旦那様をお連れするまで、しっかりお客様のお相手をなさって、コトノハ堂の顔を売ってくださいね」
にっこり笑って、若いイヘイには特に釘を刺した。
硝子の勿忘草が光を弾きながら、人波に消えていく。
「行き違いにならなければいいのですが……」
「大丈夫さ。お二人には星がついているから」
男たちがわけ知り顔で微笑むので、キョウコは首を傾げた。
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