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第五話 星、流れども。
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しおりを挟む店のある街の中心部でも、号外を手にした住民のどよめきが広まっていた。
何も後ろめたいことはないが、裏口から店先へ戻った。
まだ経験の浅いイヘイは、号外片手に街の者と変わらない反応をしている。
対してセンは、言葉はないが心配そうに問いかける目で、ショウスケを見つめてきた。それに頷き返すと、彼もまた一つ頷いて、仕事を再開する。
ユキヘイと話さなければ何も始まらない。その間、もし誰か探りに来るものがあれば、センがうまく対応してくれる。
キョウコは買ってきた墨を片しながら、奥の間へ消えるショウスケを見送った。
ユキヘイの自室は、突き当たりの奥まったところにあって、一見すると納戸のような雰囲気だ。
もっといい部屋があるにも関わらず、こじんまりとした感じが落ち着くからと、当主の頃から変わらずそこを使用している。
「ショウスケです。いらっしゃいますか?」
戸を叩くも返事はなく、物音一つしない。何度か声を掛けても変わらず、ショウスケは不安になって戸に手を掛けた。
その肩を突然背後から叩かれて、ショウスケはびくりと飛び上がった。
足音も気配もなければ、予想もしていなかったことで、思わず「ひえっ……」なんて情けない声まで上げてしまう。
振り返ると、湯気の立つ湯呑みを二つ乗せた盆を手にしたユキヘイが立っていた。これまた予想外の息子の反応に驚いた様子の顔だ。しかしどこか、吹き出しそうなのをこらえているようでもある。
ショウスケは居住まいを正して一礼した。
「お時間をよろしいでしょうか?」
「入りなさい。これはお前のための茶だ」
戸を滑らせて、部屋に入るユキヘイにショウスケも続いた。
中は壁一面に書物と、ユキヘイが携わった仕事の控えが収められているが、整然としていて、部屋の狭さと物の多さの割に小ざっぱりしている。
長方形の卓を挟む形で、ユキヘイ自らが座布団を並べる。改めて頭を下げて座に着くと、静かに茶を差し出された。
ユキヘイが湯呑みに口を付けるのに倣った後で、ショウスケは話を切り出す。
ショウスケが部屋を訪れるのを見越していた時点で、ユキヘイが号外の件を耳にしているのは間違いない。なので前置きなどなしに、単刀直入に尋ねた。
裏金の存在をユキヘイは知っていたのか。代書屋として、塗り潰した真実が存在するのか。
「……すまない」
ただその一言でユキヘイはすべてを肯定した。
ショウスケは驚いたが、それはユキヘイの罪に対してではない。その事実を静かな心で受け入れている己に対してだ。
思いあぐねることしかできないショウスケと違って、ユキヘイは決断した側の人間だ。親子よく似ていると言われるからこそ、ショウスケには父親がどれほど苦悩したか手に取るようにわかった。
それでも決断したのだ。ユキヘイを軽蔑する気持ちなど、わずかにも生まれなかった。
「あの年より前から……、クラサワが隣町に合併されるという話があったのは知っているか?」
ショウスケが首を振るのを、納得の表情で見守り、ユキヘイは続ける。
「クラサワはそれなりに栄えているように見えるが、近代化の波に取り残されている。周囲の町々が発展していく中で、この街は一足も二足も遅れているのだよ。年々、他所へ流れていく住民が増え、町長は手を打ちたがっていた」
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