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第四話 落雁ほろり。

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 人混みの中で彼らを見守っていた僧侶のエイゲンは、少女が息を吹き返すのを確認して、川に背を向けた。眉根を寄せ、ますます表情は厳しくなっている。

(あれが主人か。しかし、それならば慌てる必要はあるまい。……まさかあの男、何も知らずに、娘をそばに置いておるのか?)

 だとしたら、なんと危うい存在なのだろう。
 エイゲンは振り返って、今度は青年の方をじっくり眺めた。
 再び気を失った少女を、ほとんど泣いていると言ってもいい頼りない顔で、揺さぶっている青年。エイゲンと同じか、少し年上だろうか。
 本山での修行を終えて、梅の咲く頃にクラサワのゴボウジにやってきたエイゲンは、まだ住民の顔を覚えていない。それでも彼が何者かは朧げな記憶を頼りに思い出すことはできた。

(確か、コトノハ堂とかいう代書屋の若旦那だ。なぜ礼装なぞしておるのだ)

 住職がコトノハ堂の代替わりを話題にしていたのは、つい昨日のことだ。もとより他人に興味の薄い性分のエイゲンだ。己に直接関わりがないことと、聞き流していたのだろう。

 身なりのいい青年は、刑番所の男に手伝ってもらって、少女をおぶると土手を上がり始めた。なんと頼りないことか、後ろから友人に押してもらわなければ、登り切るのもやっとらしい。少女の身はあんなに小さいというのに。

(邪気は感じられぬ。寧ろ純粋すぎるのか?)

 エイゲンは「若旦那」の姿が見えなくなるまで、目を離さなかった。

「まだ、断じるには尚早か……。ならば見極めさせてもらおう」


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