あるじさま、おしごとです。

川乃千鶴

文字の大きさ
上 下
24 / 112
第三話 硝子の小鳥。

14

しおりを挟む

 その後、セイタロウがカラスの巣を撤去し、集められた鏡片などもすべて回収した。
 その足で刑番所へ戻り、コイミズに報告と記録……という流れになった。
 アヅマ工芸も誤認逮捕を懇切丁寧に謝罪され、やっと冷静さを取り戻したようだ。自分の不精がボヤの一因になっていたと知ると、整理整頓を心掛けるよう約束して帰っていった。

 今度こそ事件の結末を記せることが、ショウスケは嬉しい。筆が滑らかに進む。
 それをまたもや面白くなさそうに見つめるのはコイミズだ。

「それにしても、なぁんで死んだ仲間の巣に、光り物なんて集めていたのかしら?」

 その答えは、考えたところで出るものではなかった。鳥には鳥のことわりがある。何か特別な理由があったのかもしれないし、なかったのかもしれない。

 ショウスケが筆を動かす傍らで、キョウコはカラスの嘴を思い出していた。
 カラスを恨んでいるか、と自問自答する。答えは否、だ。
 あのカラスに襲われて、猫の一生は終わった。それを責めることはできない。人間の道理の範疇にないのが、野生の生き物だ。キョウコとて、ネズミや鳥を獲って生きてきたのだ。同じことだ。
 そしてカラスも、知らぬところでその生に幕を下ろした。それを憐れと思うこともない。
 ただ一つ。キョウコが気になったのは、カラスを取り囲んだ鏡のことだ。

 ヤマノトの国つくりの神話に、太陽の女神が存在する。女神の逸話には鏡が登場し、御神体にもなっている。また、カラスの遣いの存在は女神と切り離せない。
 キョウコにはあの鏡片が、仲間の死出の旅路に女神の加護を願った、神聖な儀式のように映った。

 所長室の扉が叩かれる音に、はっとして、キョウコは考えることをやめた。

 入室してきたのは、ユキヘイだ。上品に一礼して差し出した手に、牡丹柄のスカーフを携えている。
 途端にコイミズの頬が上気した。

「ユキちゃん! 遅かったじゃない!」

 柳腰をくねらせて、上機嫌でユキヘイの手ごとスカーフを受け取る。コイミズのこういうところが、ショウスケはどうも苦手だ。
 コイミズはショウスケの手元を見て、もうほとんど書き上げていると知るや、職務を放棄した。

「日付と名前くらいなら、薄墨にでも見てもらいなさい。さ、ユキちゃん。鰻でも食べに行きましょう」

 苦笑はするも拒否はしないユキヘイを引っ張って、刑番所所長は行ってしまった。怠慢もいいところである。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...