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第三話 硝子の小鳥。
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しおりを挟むその後、セイタロウがカラスの巣を撤去し、集められた鏡片などもすべて回収した。
その足で刑番所へ戻り、コイミズに報告と記録……という流れになった。
アヅマ工芸も誤認逮捕を懇切丁寧に謝罪され、やっと冷静さを取り戻したようだ。自分の不精がボヤの一因になっていたと知ると、整理整頓を心掛けるよう約束して帰っていった。
今度こそ事件の結末を記せることが、ショウスケは嬉しい。筆が滑らかに進む。
それをまたもや面白くなさそうに見つめるのはコイミズだ。
「それにしても、なぁんで死んだ仲間の巣に、光り物なんて集めていたのかしら?」
その答えは、考えたところで出るものではなかった。鳥には鳥の理がある。何か特別な理由があったのかもしれないし、なかったのかもしれない。
ショウスケが筆を動かす傍らで、キョウコはカラスの嘴を思い出していた。
カラスを恨んでいるか、と自問自答する。答えは否、だ。
あのカラスに襲われて、猫の一生は終わった。それを責めることはできない。人間の道理の範疇にないのが、野生の生き物だ。キョウコとて、ネズミや鳥を獲って生きてきたのだ。同じことだ。
そしてカラスも、知らぬところでその生に幕を下ろした。それを憐れと思うこともない。
ただ一つ。キョウコが気になったのは、カラスを取り囲んだ鏡のことだ。
ヤマノトの国つくりの神話に、太陽の女神が存在する。女神の逸話には鏡が登場し、御神体にもなっている。また、カラスの遣いの存在は女神と切り離せない。
キョウコにはあの鏡片が、仲間の死出の旅路に女神の加護を願った、神聖な儀式のように映った。
所長室の扉が叩かれる音に、はっとして、キョウコは考えることをやめた。
入室してきたのは、ユキヘイだ。上品に一礼して差し出した手に、牡丹柄のスカーフを携えている。
途端にコイミズの頬が上気した。
「ユキちゃん! 遅かったじゃない!」
柳腰をくねらせて、上機嫌でユキヘイの手ごとスカーフを受け取る。コイミズのこういうところが、ショウスケはどうも苦手だ。
コイミズはショウスケの手元を見て、もうほとんど書き上げていると知るや、職務を放棄した。
「日付と名前くらいなら、薄墨にでも見てもらいなさい。さ、ユキちゃん。鰻でも食べに行きましょう」
苦笑はするも拒否はしないユキヘイを引っ張って、刑番所所長は行ってしまった。怠慢もいいところである。
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