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第三話 硝子の小鳥。
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しおりを挟むまだ日は落ちていないので、真っ黒い天幕が色街を覆い隠している。仮にも犯人を捕らえた後も、周辺を所員が巡回しているあたり、事件が終わっていないことを物語っていた。
幸いに、と言うよりはコイミズの計らいか。アヅマ工芸の主人が捕えられた話は悪いようには広まっていなかった。何か目撃したのではないかとして、参考人として連れて行かれたように伝わっているらしい。
「で、どこを探せばいいんだ?」
セイタロウの問いに、ショウスケは人差し指を空へと向ける。
「なるだけ、高い所を。日の光が教えてくれるはずだ」
「承知した。なら、出火した辺りから探してみるかな」
セイタロウは梯子を伝ってひょいと屋根に上がる。ボヤの痕を繕った形跡を確認し、辺りをぐるりと見回した。
ショウスケはと言うと、セイタロウに下から指示するのみで、梯子に手を掛けることさえしない。実を言うと彼は、高い所が得意でない。自室の窓から下の通りを覗き込むのでさえ、恐ろしいと感じるほどには苦手だ。
「お遊び上手の主人様が、やんちゃはお出来にならないと。情けのうございますね」
「……なんだか棘を感じるなぁ」
キョウコは小さく息を吐き、草履を脱いだ。着物の裾をさばくと、ショウスケが止める間もなく、するすると梯子を登っていってしまった。
キョウコとセイタロウは、点々とするボヤの痕を中心に、ショウスケが言う「あるもの」がないか、周辺の建物に目を凝らした。
隣近所の屋根、街灯、天幕より頭一つ突き抜けた電信柱。一つ一つを見ながら、屋根の上を行く。
今と同じ刻限に火のついた場所から、電信柱を見上げていたキョウコの目に、一瞬、強い光が閃いた。
主に、役所や刑番所に通信回線を引いている線と、街灯に電気を供給する線が交差する頭頂部に、日の光を跳ね返して光る何かがあった。
ございました、という揚々とした少女の声に、男たちが目を向けた時、キョウコは既に木製の電信柱を登頂し終えるところだった。
ショウスケは見ているだけでぞっとしてしまう。セイタロウでさえ、友人のところの少女がそこまでの行動力を持っているとは思っていなかったようだ。
天幕の上と下で、それぞれにキョウコのそばへ駆け寄る。
「おキョウさん! 危ないからあとはセイタロウに代わって!」
「このくらい、なんてことございません」
それは猫の人生経験から来る自信だろう。しかし今のキョウコは人間の女の子だ。落ちたらひとたまりもないと、本当に分かっているのか疑わしい。
電線に触れないように注意はしているようだが、恐ろしいほど大胆に電信柱の調査を続ける。
「主人様の仰った通りでした」
キョウコが摘み上げて掲げたのは、光を照り返す鏡片だ。
「硝子に鏡、たくさん挟まっております」
他にも針金、小枝、藁など……。
「鳥の巣。で、ございますね」
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