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第三話 硝子の小鳥。

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湿しとった手足を腿に挟むと、なんとも冷んやり心地良かったよなぁ。お前も気に入ってたじゃないか、氷冷糖ひょうれいとうもいいけどまた……」
「セイタロウ、もうその辺に……!」

 咳払いでやけに青い顔をしているショウスケに気付いて、ようやくセイタロウは口を噤んだ。
 顔を伏せて微動だにしない少女が目に入り、彼は茶を飲み干すと慌てて立ち上がった。何か不穏な空気を感じ取ったようだ。

「すまん、女子供の前でする話じゃなかった。じゃ、じゃあ俺は帰るかなぁ」
「ちょっと……待っ、セイタロウ!」
「おキョウちゃん、ご馳走様!」

 逃げるように階段を下りていく音に、ショウスケは胸の内で恨み言を述べた。
 その背後に、小さいがやたらと圧の強い影が立つ。声音に反して笑顔の少女に、ショウスケは恐れをなした。

「……主人様ぁ?」
「仕事で、ね!?」
「それは、おかしゅうございますねぇ。確か、事件はいずれも昼間。一昨日の晩……とはなんのことでございましょう?」

 猫の目。この鋭い翡翠は間違いなく野生を生きた獣だ。狩られる……、ショウスケは身の危険を感じて、洗いざらい白状した。

 セイタロウとは十年来の友人で、何をするにも一緒にやってきた。色街に繰り出すのも、今回に限ったことではない。
 それを聞いたキョウコは小さな肩を震わせて、泣き真似をした。

「ヒトは子をなすためでなくとも、目合まぐわう生き物だとは承知しておりますけれども」
「……おキョウさん、はしたない!」
「わざわざ、お相手をお探しにならずとも、わたくしがいるではありませんか。どうしてお声をかけてくださらないのです?」
「できるわけないでしょう!?」

 いくら中身が成熟しているとは言え、相手は子供だ。ショウスケにそんな趣味はない。

「それはわたくしがヒトと違うからですか? それともこのように幼いから?」

 恐らくそのどちらもだ。だが、そう思ってもショウスケははっきりと言い返せない。誰も望んでそう生まれてくるわけではないのだ。キョウコとて、同じだ。わざわざ傷つけることを言いたくはなかった。
 だが、ショウスケが思う以上にキョウコという猫娘は強かだった。

「ご心配には及びません、主人様。わたくし、猫として生きた間に色々と見聞きしておりまして、人間の交尾の手順も知っております」

 十の少女が胸を張る。その口から飛び出す、とんでもない閨ごとの御作法……。ショウスケは途中で耳を塞ぎたくなった。

「あと数年もすれば、この身も成熟いたします。その時こそは、ご遠慮なくお申し付けくださいまし。主人様の妻となるのですから、どんなことでもご奉仕いたします」
「ああ……、頭が痛くなってきた……」

 昼食が喉を通らないほど、どっと疲れて、ショウスケはその晩、珍しく熱を出した。熱に浮かされた頭の中で、小柄な茶トラの猫を懐に抱いている夢を見た。それはとても心地よく、穏やかな時間だった。

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