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追加エピソード③
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ロニーとの打ち合わせを終えたアルクェスは、執務室を出、侍女らのもとに向かった。
エファリューに来月の王都行きを伝え、対王族用レッスンの総仕上げをしなければと奮然と歩む。
神殿に出仕しない日は、たいてい自室でごろごろしているか、侍女らにくっついてお菓子をねだり歩いているエファリューだ。自室にいないとなれば、今頃はサラにクッキーでも焼かせているかもしれない、と厨房を覗く。
ところがそこにサラの姿はあっても、お目当ての姫はおらず、侍女らの詰め所にもその姿はなかった。
「ミア、エファリューはどうしていますか」
「はっ、はい! 先程、ご様子を伺いに行って参りましたが、ま、まだ菜園にて、フューリ殿と仲良くお話されているようでした」
「そうですか。しかしそろそろ戻っていただきましょう。日傘も差さずに、こんなに長く表にいては、髪にも肌にも良くない」
「で、では、わたくしがお迎えに行って参ります」
「ああ、いえ……ここはわたしが。あのひとは、侍女相手だと我儘が過ぎることがありますから、多少強く出ませんと。貴女方は姫の体を浄める準備を調えておいてください。初夏用の保湿剤も忘れずに」
せっかく今日まで磨き上げたのだから、来月の王との謁見まで、大切にエメラダとしての体裁を守ってもらわねばならない。
いくらフューリとは言え、異性の形をしているものと何時間も戯れているなんて、姫らしくない振る舞いは慎んでもらわなければ。
(それを彼女は解っていない)
さっきから妙に胃の腑がむかむかと、消化不良を起こしているのは、暢気な魔女姫のせいだと信じてアルクェスは疑わない。
だから庭園の奥で、人生を捧げて護ると誓った姫君が、見知らぬ男の上に乗っている姿を見つけた時は、膝から崩れ落ちた。
麦穂を思わせる黄金の髪を背に垂らした、精悍な顔付きの中年男性に、姫はしっかと抱きついてアルクェスの来訪に気付きもしない。
「なぜ貴女はそう節操がないのですか!」
「しぃ……、エファリュー寝てる」
見た目こそ男らしいが、声は数刻前に聞いたフューリ少年のままだ。近しい者の声は模倣できていたことを鑑みるに、フューリの知らない人物または空想に近い存在ということだろうと、アルクェスは己を納得させる。
しかしながら、見知らぬ男にひっついて気持ちよさそうに眠るエファリューには、どう頑張っても納得のいく説明はつけられなかった。
安心しきって開いた口でさえ、アルクェスにしたら腹立たしい。
(それはわたし以外の者に、見せていいものではない)
アルクェスは躾ける側だから見てもいい、だが姫の身代わりをする以上、人目を気にしてもらわなければ──。そう、エファリューの無防備さに腹が立つのはそれ故だ。それ以外の理由は彼の中には、まだ見つかっていない。
「いったいどこの誰に化けているのです。エファリューの中のロニー卿ですか」
「違うよ。これは、エファリューのだいすきなひと」
「大好きな……」
「おとうさま。エファリュー言ってた」
「──……エヴァ?」
フューリは首を傾げる。どこかエファリューと似ているが、澄んだ湖面のように青い瞳。これが神話に描かれた、あの恐ろしい魔王エヴァかと、アルクェスは胃がきりきり痛んだ。
深いため息一つついて、もう諦める他なかった。
「……お子様には、もう少し夢の時間が必要なようですね。フューリ、あちらに四阿《ガゼボ》があるでしょう。そちらで休みなさい。エファリューが目覚めたら、二人で城内に戻るように。いいですね?」
「わかった」
姫を起こさないように、そっと立ち上がった子竜は、アルクェスと変わらない背丈をしている。エヴァの姿というものを直視できず、城へと踵を返すアルクェスの背に、可愛らしい声が語りかけてきた。
「ぼく、最初、アル選んだの、もう一つ、わけある」
「わたしに化けた理由?」
「うん。あのね。アルと一緒、エファリュー、嬉しい、喜ぶ。アルだけ、音ちがう」
「……音?」
フューリが背後で身動ぐ気配がしたが、アルクェスが振り向いた時にはもう、子竜は四阿の方に背を向けていて、結局なんの音かは分からないままだった。
終.
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✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
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