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最終章 エメラダの帰還

エピローグ

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 光の届かない手狭な部屋で、エファリューはご機嫌で飛び起きた。
 今日は新しい年の初め、花も咲きそむ、春の始まり。それは別にどうでもいいが、今日という日は特別なのだ。

 屋根裏を降りて、素足に触れた床の冷たさにエファリューは飛び上がった。逃げるように、すぐそばの寝台に飛び移る。
 意気込んで起き出してはみたものの、火のない部屋はまだ寒い……温もりが恋しくて、布団に潜り込んだ。

「さむさむ……」
「……何をしておいでですか」

 夜がどんなに遅くて熟睡していようとも、気配に敏感な側仕えはさっと飛び起きて、寝台を出た。

「おはよう、アル! いい朝ね!」
「……おはようございます。いつになく、早いお目覚めで」
「だって今日は素晴らしい日よ。何と言ったって、ロニー卿に会えるんですもの。楽しみだわ!」

 上掛けを放り出して、エファリューは素足のまま寝室を飛び出した。寒さに喚く声が遠ざかっていく。

「……わたしは貴女の驚く顔を見るのが楽しみですよ」

 ため息混じりに鼻を鳴らして、寝具を整える。眠い目をしばたたいて、アルクェスも仕方なく身支度を始めた。




 〈エメラダ〉の帰還から二ヶ月が経っても、多忙を極めるメリイェル侯と顔を合わせる機会は、なかなか訪れなかった。
 呪いのカメオの一件で、王城に召集されていたからだ。

 人の口に戸は立てられない。死者が蘇り、神女と聖竜が呪いの地に舞い降りた話はたちまち王の知るところとなった。
 誰よりも神女の人間らしさを信じている父王であるからこそ、エメラダ一人に成せるわざではないと疑ったのだ。
 しかしどんなに審問にかけても、ロニーから疑わしいものは出ず、この一件はまさに、神秘に満ちた奇跡であると結論づけられた。

 そしてカメオの件の思わぬ余波として、メラニー姫にもある箔がつくこととなる。
 採掘業者たちが皆、メラニーのカメオと埋葬された後に蘇ったことから、メラニーは「復活」「不屈」の象徴として縁起を担がれた。
 母国でそのように崇められる姫なら、王太子にも良運をもたらすに違いないと、盟友国でも婚姻に向けた準備は着々と進んでいるという。
 先日、オットーに誘われた茶の席で、エファリューはそう教えられた。

『調子に乗って、しっぺ返しを受けないといいけどね』

 馬鹿にされたことを根に持っているエファリューがそう言うと、かつての師は昔と違って穏やかに微笑みながらも、耳の痛い一言をくれた。

『ひとの振り見て我が振り直せ、とは……よく言ったものだな』

 今、思い出してもエファリューは閉口してしまう。

「あの人は昔から意地が悪いのよ」

 べっ、と舌を出して憎たらしい顔を鏡に映した。

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