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第四章 過去を抱いて、未来を掴む
紡がれない御伽話5
しおりを挟むアルクェスがそこに辿り着いた時、朝焼けに燃える湖面は大きくひび割れて、虹色の光が空に昇るところだった。
その中心で両手を掲げ、光を眺めているのは、金糸の髪を背に垂らした魔女だ。
「エファリュー」
泣いているように静かな背中が、ゆっくりと彼の方を振り返る。
ミモザの髪が朝焼けを照り返し、たおやかな輪郭を淡くぼやかす。
「アル」
朝焼けを背負った魔女の瞳に涙はない。穏やかな笑みをたたえ、冷たい水の中を、女は駆けてくる。虹色の飛沫をあげて跳ねる姿は、まるで優雅に舞うようだ。
不意に湖面に影が差した。主人の帰りを待ち侘びたフューリが、頭上で旋回している。
湖上の薄氷を吹き飛ばし、子竜は降り立った。凍った風に飛び散る水飛沫が、朝陽に乱反射して、目が痛むほどに眩しく、アルクェスは目を細めた。
光と一緒にミモザの花が揺れている。その光景を、神がかっていると言わずして何に喩えられようか。神話の中にしか存在しなかった、胸を掻き立てられるような美しさが、彼の目の前にあった。
「アル。わたし、頑張ったわよね? ねっ?」
眩しさに慣れて目を開けると、いつも通りの目線から葡萄色の瞳が見上げていた。気が抜けたのか、魔力を粗方放出したのか、見慣れたいつもの小生意気な娘の姿に戻っている。
安堵と期待の眼差しに、凛とした魔女の姿はもう見えない。
さっきまでなら躊躇ったところだが、この姿なら……とアルクェスは怪我を負っていない手で頭を撫でた。
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✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
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