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第四章 過去を抱いて、未来を掴む
闇と光と2
しおりを挟む体勢を立て直す間も無いエファリューは、踏みつけられる覚悟で、影を織り重ねた盾を翳す。
その目の前で、猛烈な光が炸裂した。
ぶつかり合った蹄と盾とが、火花を散らしたようにも見えたが、エファリューの身に衝撃はやってこない。
よく見れば、エファリューの周りには、煌々とまばゆい光の防壁が立ち塞がっていた。光に目を灼かれたフレヴンは、後ろ足立ちのままよろめいている。
「一人でできることには限度があります、気負いすぎては、し損じますよ。わたしなどの力では、到底渡り合えるものではありませんが、出来うる限りの援護くらいさせなさい」
相手の間合いからエファリューを連れ出し、アルクェスは励ますように肩を叩いた。
「闇は確かに、貴女に味方してくれるものでしょうけれど、光も敵ではないと覚えておいていただきたい」
「……覚えたわ。ありがとう、アル先生」
咲きそむ薔薇の唇に、魔女は気丈な笑みを浮かべ、一振りの剣を生み出した。
柄の部分は、混じり気のない漆黒の玉髄。刀身は、透けて輝きを放つ金剛石。
剣舞は、狼の咆哮から始まった。
無数に生まれる影の間を、優雅に流れるステップでエヴァの子は舞う。追い縋る影は、姫に随従する光が払う。
神速の槍をかわし、モノクロームの宝剣はとうとう狼の喉笛に喰らい付いた。一閃で三つの首が落ち、残影は花弁を撒いて霧散する。
これでは、いつぞやと同じ、呪詛を破壊するだけの乱暴な解呪だ。エファリューが本当にしたいことではない。
「このまま終わらせはしないわ。今度こそ、あなたたちを受け止めさせて」
舞い散る黒い花弁に触れ、彼らの記憶と感情を引き受けた。
土のにおいに息が詰まった。
薄い酸素を必死に取り込んでいた肺すら押し潰され、とうとう呼吸ができなくなり、湿った土砂の中でじわじわと命が潰えていく。
孤狼の無念が、エファリューの身体を締め上げた。ともすれば、もう一歩たりとも踏み出せなくなる絶望感に、心を染め上げられる。そんな時、目の前には光る壁が現れて、槍の猛攻を防いでくれた。
反射する光に刀身を輝かせ、エファリューは花弁の中を鎧の騎士目掛けて駆ける。その足捌き、剣捌きたるや、エヴァの将だ。
「ごめんなさい、フレヴン将軍、みんな」
花弁に触れる度に、激しい痛みが剣を握る手を鈍らせる。恐怖と絶望と、悲しみが……踏み出す足を鈍らせる。
それでも瞳だけは死なずに、異形の将を見据えていた。
「わたしはエメラダじゃないから、傷を癒してあげられない。エヴァの子だけど、クリスティアに復讐してやることもできない」
怒りに振り上げられた槍が、岩壁を薙ぎ、岩の礫がエファリューを狙い撃つ。アルクェスの巻き起こした風がそれを弾き飛ばすと同時に、エファリューもまたふわりと巻き上げられ、フレヴンの頭上へと躍り出た。
「できるのは、分かち合うことだけ」
エファリューは宝剣を構え、鎧兜の中心にある黒真珠に渾身の一撃を振り下ろした。
「一緒に苦しませて──」
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✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
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