闇魔女は六畳一間の平穏が欲しいだけ!

川乃千鶴

文字の大きさ
上 下
82 / 114
第四章 過去を抱いて、未来を掴む

闇と光と2

しおりを挟む

 体勢を立て直す間も無いエファリューは、踏みつけられる覚悟で、影を織り重ねた盾を翳す。
 その目の前で、猛烈な光が炸裂した。
 ぶつかり合った蹄と盾とが、火花を散らしたようにも見えたが、エファリューの身に衝撃はやってこない。
 よく見れば、エファリューの周りには、煌々とまばゆい光の防壁が立ち塞がっていた。光に目を灼かれたフレヴンは、後ろ足立ちのままよろめいている。

「一人でできることには限度があります、気負いすぎては、し損じますよ。わたしなどの力では、到底渡り合えるものではありませんが、出来うる限りの援護くらいさせなさい」

 相手の間合いからエファリューを連れ出し、アルクェスは励ますように肩を叩いた。

「闇は確かに、貴女に味方してくれるものでしょうけれど、光も敵ではないと覚えておいていただきたい」
「……覚えたわ。ありがとう、アル先生」

 咲きそむ薔薇の唇に、魔女は気丈な笑みを浮かべ、一振りの剣を生み出した。
 柄の部分は、混じり気のない漆黒の玉髄カルセドニー。刀身は、透けて輝きを放つ金剛石ダイヤモンド

 剣舞は、狼の咆哮から始まった。

 無数に生まれる影の間を、優雅に流れるステップでエヴァの子は舞う。追い縋る影は、姫に随従する光が払う。
 神速の槍をかわし、モノクロームの宝剣はとうとう狼の喉笛に喰らい付いた。一閃で三つの首が落ち、残影は花弁を撒いて霧散する。
 これでは、いつぞやと同じ、呪詛を破壊するだけの乱暴な解呪だ。エファリューが本当にしたいことではない。

「このまま終わらせはしないわ。今度こそ、あなたたちを受け止めさせて」

 舞い散る黒い花弁に触れ、彼らの記憶と感情を引き受けた。


 土のにおいに息が詰まった。
 薄い酸素を必死に取り込んでいた肺すら押し潰され、とうとう呼吸ができなくなり、湿った土砂の中でじわじわと命が潰えていく。
 孤狼の無念が、エファリューの身体を締め上げた。ともすれば、もう一歩たりとも踏み出せなくなる絶望感に、心を染め上げられる。そんな時、目の前には光る壁が現れて、槍の猛攻を防いでくれた。

 反射する光に刀身を輝かせ、エファリューは花弁の中を鎧の騎士目掛けて駆ける。その足捌き、剣捌きたるや、エヴァの将だ。

「ごめんなさい、フレヴン将軍、みんな」

 花弁に触れる度に、激しい痛みが剣を握る手を鈍らせる。恐怖と絶望と、悲しみが……踏み出す足を鈍らせる。
 それでも瞳だけは死なずに、異形の将を見据えていた。

「わたしはエメラダじゃないから、傷を癒してあげられない。エヴァの子だけど、クリスティアに復讐してやることもできない」

 怒りに振り上げられた槍が、岩壁を薙ぎ、岩の礫がエファリューを狙い撃つ。アルクェスの巻き起こした風がそれを弾き飛ばすと同時に、エファリューもまたふわりと巻き上げられ、フレヴンの頭上へと躍り出た。

「できるのは、分かち合うことだけ」

 エファリューは宝剣を構え、鎧兜の中心にある黒真珠に渾身の一撃を振り下ろした。

「一緒に苦しませて──」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

偽りの花嫁は貴公子の腕の中に落ちる

中村まり
恋愛
第二部 4月より再開! ザビラから救出されたジュリアは、公爵の正式な婚約者として、ジョルジュの屋敷で療養していた。彼の甘く情熱的でかいがいしい世話に翻弄されまくるジュリアであったが、ある日、彼が公務で不在の時に、クレスト伯爵領からの使者がジュリアを訪れる。 父であるマクナム伯爵の領地を継承したジュリアは、今やれっきとした伯爵家当主である。自分の領地の問題の報告をうけ、急いでマクナム伯爵領に訪れる途中、ジュリアがばったり出会った人物のごたごたに巻き込まれてしまう。結婚式までに帰らなければならないのに・・・── その頃、ジョルジュは国境線を巡る外交交渉のまっただ中で・・・・!  第一部  「お前にソフィーの身代わりとして、嫁いでもらいたい」 ある日、突然、女騎士団長のジュリアに、叔父から命じられた言葉 ─ 王家の命令によって、クレスト伯爵に従姉妹が嫁がされることとなった。しかし、その従姉妹の身代わりとして、どうして自分が差し出されなければならないのだ! そんな成り行きに呆然としているジュリアに告げられたもう一つのこと。 ─ 夫なるべき男、クレスト伯爵には、すでに溺愛する愛人がいる、と。 結婚する前からすでに疎まれ、お先真っ暗な気持ちで向った結婚式の祭壇で、彼女を出迎えたのは、それはそれは妖艶な男性で。ジョルジュ・ガルバーニ公爵は、なんと代理の花婿様だと言う。 しかし、そんな彼も、とある理由があって婚礼の場にやってきてたのだが・・・・。 そして、夫が不在のまま、結婚二日目にして発覚したクレスト伯爵家の大問題の数々。蔓延する疫病、傾いた伯爵家の財政、地に落ちた伯爵家の威信・・・。 問題だらけのクレスト伯爵領を、ジュリアは、なんとか立て直そうと、孤軍奮闘しようとする。ガルバーニ公爵は、そんな彼女を優しく支えてくれて。ジュリアの心には親しみ以上の感情が芽生えてしまうが・・・ そこに、花婿本人のクレスト伯爵が戦から帰還してきて! やむにやまれず身代わり結婚させられてしまった不遇な女騎士団長は、幸せになれるのか?!

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

転生召喚者は異世界で陰謀を暴く~神獣を従えた白き魔女~

*⋆☾┈羽月┈☽⋆*
ファンタジー
両親亡き後、叔父夫婦に冷遇されながら孤独に生きてきた少女・白銀葵。 道路に飛び出した子供を助けた事により命を落とした――はずだった。 神界で目を覚ました葵は時空の女神クロノスと出会い、自身の魂に特別な力が宿っていることを知る。 その答えを探すために異世界に転生することになった葵はシエル・フェンローズとして新たな人生を歩む事になった。 しかし転生召喚の儀式中、何者かに妨害され、危険区域ヴェルグリムの深森へと転送されてしまう。 危険区域の深層部で瀕死の神獣を救い、従魔契約を結ぶことになった。 森を抜ける道中で変異種の討伐に来た騎士団と出会い、討伐任務に参加することになったシエルと神獣。 異世界で次第に明かされていくシエルの正体。 彼女の召喚が妨害された背景には世界を巻き込む陰謀が隠されていた――。 前世で安易に人を信じられず、孤独だった少女が異世界で出会った仲間と共に陰謀を暴き、少しずつ成長していく物語――。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...