闇魔女は六畳一間の平穏が欲しいだけ！

第三章 エヴァの置き土産

呪いの源や何処

　翌日から、神殿は平常通りに扉を開いたが、神女の座は目隠しで覆われ、祭壇にエメラダの姿はなかった。

　エメラダもといエファリューは今、別室にて信者の解呪に当たっている。
　昨日の一件でエファリューは、神女に忖度したやり方をしていては、再びあの手の呪いと対峙した時に、とても太刀打ちできないと悟った。
　できる限り、魔力を蓄えておくべく、これまでのパフォーマンス的な解呪はやめにした。礼拝堂を穢さないためだなんだと理由を付けて、神官らの目に触れない場所をもらい、解呪した魔力はすべて吸収することにした。

　呪詛の形をしている間はエファリューに牙を剥く怨念が、糸を解かれた途端に、救いを求めるかのように纏わりつく。
　魔力さえあれば、中程度に育った呪いにも難なく対処できることで、孤狼の声を最後まで受け入れてやらなかったことを、エファリューは悔いた。
　エヴァの名を口にし、神女の座にエファリューを告発するかのような爪痕を残した狼。死して何に怨みを募らせているのか、何者なのか知りたいと思っても、この日解いた糸の中に、その答えをくれるものは存在しなかった。



　本日解呪した信者二名も、同種のカメオを身につけていた。まさか呪いの核がそれと知られるわけにもいかないので、妹姫のシルエットに興味を示した振りで神女は得意の一芝居をうつ。
　大事を取って休んでもいいと言われたのに、頑としてついてきたアルクェスに、耳打ちするところから幕は上がる。

「素敵なカメオでございますね。エメラダ様に見せていただけますか？」

　お付きの美しい青年に微笑みかけられ、神女様に手を差し出されて、断れる信者はいない。二名ともカメオを捥ぎ取らん勢いで外す。二つのカメオは、アルクェス伝いで小さな手に渡った。

　どちらも縞瑪瑙から作られた繊細な技巧が光る、美しいカメオだ。ブローチとペンダント、それぞれ大きさもデザインのディテールも異なるが、彫刻されているのはどちらも同一人物の横顔だ。
　浮き彫りにされたメラニーは自信に満ちて、どこ吹く風でそっぽ向いているように見える。信者らに背を向けたエファリューはふんっと鼻を鳴らして、その横顔を小突いてやった。
　カメオに呪力が残っていないか確認している間、アルクェスが購入元などをさりげなく聞き取る。両者とも、王都の同じ宝飾店で購入したと答えた。昨日の女性と同じだ。呪いのカメオに宝飾店──共通点が揃えば、呪いの根源を探る糸口として十分だ。
　残存する呪力もなさそうなので、エファリューは神女らしくにっこりと振り返って、カメオをアルクェスの手に託し、芝居の幕を下ろした。