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第三章 エヴァの置き土産
毒と薬は紙一重2
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目覚めないまでも、アルクェスの容体が落ち着いたところで帰城の運びとなった。
ゆったりと静かに揺れる馬車の中、エファリューは彼の顔ばかり見ていたので、外の景色など気にも留めていなかった。
表を眺めていたのなら、深い緑のマントをたなびかせて、青毛の馬を駆る紳士の姿を目にできたはずだ。エファリュー憧れのロニー卿は、大僧主からのお呼び出しで神殿へ向かうところだ。
(そうだ。珠のある場所を、マックスは知っているかしら)
彼の正体にエファリューが気付く日は、まだまだ遠い──。
◇ ◇ ◇
着替えを済ませたエファリューは、自室に戻るという名目で、アルクェスの眠る寝室へ足を運んだ。
ちょうど、赤毛の侍女サラが寝台脇の灯りを絞って、休みやすい環境を調えているところだった。
「サラ。ごめんなさい。貴女のご主人様を、こんな目に遭わせてしまって」
サラは首を傾げるのみで、責める素振りもない。それどころか、いつになく、しゅんとした様子の姫のために出来ることはないかと尋ねてくる。
エファリューは胸が熱くて、情けない顔を見せられずサラに抱きついた。物静かな侍女は驚きもせず、じっとしている。
「またスコーンでも焼きますか?」
サラの腕の中で、エファリューはふるふると首を振る。
「何なりと、御用命を」
「それじゃあ、こういう珠を見つけたら、アルに飲ませるのを手伝って」
白い珠を取り出して見せると、サラは試しにとばかり、主人の口許へ運ぶ。やはりそのままでは口を開けてくれず、無理矢理こじ開けようと躍起になる彼女に、エファリューはやり方を伝授しようか思案した。
「ちょっと変な方法なんだけど、できるかしら?」
「ご命令とあらば……」
サラはエファリューの指示を待つ。
物静かで、表情に乏しいが、虚ろな青い瞳が妙に色っぽい。今日の口紅は品の良いピンクで、落ち着きと愛らしさが混ざり合い、彼女の魅力を一層引き立てている。抱きついた時に触れた、ふかふかの胸だって、エファリューには無縁の柔らかさだ。
(そう言えば、この娘に色仕掛けさせたんだったわ。あの時、アルは取り乱して来たものだとばかり思っていたけれど……。もしかして、本当のところはサラにめろめろだったりして……)
眠るアルクェスの唇と、サラの桃色の唇とを交互に見て、エファリューは胸の奥にざわつきを覚えた。
「こ、これは特別な治療だから、わたしが最後まで責任を持ってやるわ! サラにはやっぱりスコーンを焼いてもらおうかしら!」
「承知しました」
サラが退室し、ほっとしてしまったことで、ざわつきの正体にエファリューは気付く。
(ヤキモチ~?)
いつぞや、彼に放った言葉が、こんな時に跳ね返ってこようとは、想像だにしていなかった。
「まさかぁ。そんなわけないでしょ!」
少し悔しいような気恥ずかしさに、胸をくすぐられながら、エファリューは珠を口に含むと、誰にも教えたくない特別な癒しの魔法を使った。
ゆったりと静かに揺れる馬車の中、エファリューは彼の顔ばかり見ていたので、外の景色など気にも留めていなかった。
表を眺めていたのなら、深い緑のマントをたなびかせて、青毛の馬を駆る紳士の姿を目にできたはずだ。エファリュー憧れのロニー卿は、大僧主からのお呼び出しで神殿へ向かうところだ。
(そうだ。珠のある場所を、マックスは知っているかしら)
彼の正体にエファリューが気付く日は、まだまだ遠い──。
◇ ◇ ◇
着替えを済ませたエファリューは、自室に戻るという名目で、アルクェスの眠る寝室へ足を運んだ。
ちょうど、赤毛の侍女サラが寝台脇の灯りを絞って、休みやすい環境を調えているところだった。
「サラ。ごめんなさい。貴女のご主人様を、こんな目に遭わせてしまって」
サラは首を傾げるのみで、責める素振りもない。それどころか、いつになく、しゅんとした様子の姫のために出来ることはないかと尋ねてくる。
エファリューは胸が熱くて、情けない顔を見せられずサラに抱きついた。物静かな侍女は驚きもせず、じっとしている。
「またスコーンでも焼きますか?」
サラの腕の中で、エファリューはふるふると首を振る。
「何なりと、御用命を」
「それじゃあ、こういう珠を見つけたら、アルに飲ませるのを手伝って」
白い珠を取り出して見せると、サラは試しにとばかり、主人の口許へ運ぶ。やはりそのままでは口を開けてくれず、無理矢理こじ開けようと躍起になる彼女に、エファリューはやり方を伝授しようか思案した。
「ちょっと変な方法なんだけど、できるかしら?」
「ご命令とあらば……」
サラはエファリューの指示を待つ。
物静かで、表情に乏しいが、虚ろな青い瞳が妙に色っぽい。今日の口紅は品の良いピンクで、落ち着きと愛らしさが混ざり合い、彼女の魅力を一層引き立てている。抱きついた時に触れた、ふかふかの胸だって、エファリューには無縁の柔らかさだ。
(そう言えば、この娘に色仕掛けさせたんだったわ。あの時、アルは取り乱して来たものだとばかり思っていたけれど……。もしかして、本当のところはサラにめろめろだったりして……)
眠るアルクェスの唇と、サラの桃色の唇とを交互に見て、エファリューは胸の奥にざわつきを覚えた。
「こ、これは特別な治療だから、わたしが最後まで責任を持ってやるわ! サラにはやっぱりスコーンを焼いてもらおうかしら!」
「承知しました」
サラが退室し、ほっとしてしまったことで、ざわつきの正体にエファリューは気付く。
(ヤキモチ~?)
いつぞや、彼に放った言葉が、こんな時に跳ね返ってこようとは、想像だにしていなかった。
「まさかぁ。そんなわけないでしょ!」
少し悔しいような気恥ずかしさに、胸をくすぐられながら、エファリューは珠を口に含むと、誰にも教えたくない特別な癒しの魔法を使った。
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✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
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