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第二章 神女の憂鬱
新たなる神話の一頁2
しおりを挟むフューリの背後に隠れ、渾身の裏声でオットーに語りかける。
「大僧主オットーよ。ボクは神女の園に住まう竜だ」
アルクェスがぎょっとして慌てふためく姿は見ものであったが、残念ながらフューリに隠れたエファリューには見えていない。
「危険な呪いの気配で、急ぎやってきた次第だ」
「さ、左様でございますか」
「悪しき力に太刀打ちできる者がいなければ、神女を守れはしないのではないか? ボクもそう毎回下天できるわけでもない。……そこでだ」
エファリューは気付かれないように、フューリの翼の付け根を撫でた。ここを擦るとフューリはくすぐったがって前足を擦り合わせるのだが、それははたから見ると、祈りを捧げる仕草のように見えるのだ。
天から遣わされた竜が意味ありげな仕草で沈黙するのを、みな息を呑んで見守った。
「ボクの力の一部を、このエメラダに託していこう」
ひょっこりと顔を覗かせ、声を間違わないよう気をつけながら、エファリューは大袈裟に驚喜した。
「まあ、なぜかしら! 力が漲るようですわ! 今ならどんな呪いでも解ける気がいたします! これが聖竜様のお力ですのね! オットー。これからは呪いを受けた者が現れたら、わたくしが解呪いたします!」
「し、しかし……」
「神女の園からいらした聖竜様が、力をお預けくださったということは、これは天啓なのではございませんか? わたくしにそうせよ、と。天上の神女様が仰っているのでは?」
くるりと背を向け、裏声で「そのとおり」とフューリに喋らせながら、エファリューは耳飾りを付け直す。この大芝居の締めくくりに一つだけ、アルクェスにも協力してもらう必要があったからだ。
『今からフューリを帰すわ。貴方、魔法で目眩しなんてできる?』
『できますが……偽りの神託にわたしを巻き込むつもりですか』
エファリューは密やかに鼻で笑う。
『今更何を言っているの。エメラダの身代わりに、偽りの神女を育てたのは誰? フューリが城に帰るところでも見られてごらんなさい。この身代わりが露見するかもしれないのよ? 貴方はそれでいいの?』
苦悶するアルクェスの声を掻き消すように、フューリが翼を大きく開いた。
羽ばたきと共に巻き起こる風に煽られた人々が、眼を庇って目を閉じた一瞬の隙に、フューリは空高く飛び立った。
すると、鈍色の雲を割って、幾筋もの光が空から降り注ぎ、子竜の体を包み込んだ。光にフューリの輪郭が消えていく。完全に姿が見えなくなり、翼のはためきも遠くなった。
呆然と空を見守るオットーの隣で、アルクェスが項垂れている。自らの意志でエヴァの子の片棒を担いでしまった屈辱と、神女のために神女を裏切っている矛盾に苦悩している様子だ。
午後は礼拝どころではなく、この件についてどうすべきか緊急の話し合いが行われた。賛成派、反対派半々といったところだったが、居合わせた者はみな神女の敬虔な信者である。天啓という何よりものご意見を無視することはできず、結果としてエファリューは、解呪に限り、信者と接する許可を得たのだった。
ことの成り行きに大満足で帰城したのも束の間。エファリュー、サラ、フューリの三名は、アルクェスから大いに説教を受けた。
その時のアルクェスの顔は、いつも表情に乏しいサラが思わず涙目になるほど、恐ろしい形相であったという。
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✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
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