闇魔女は六畳一間の平穏が欲しいだけ!

川乃千鶴

文字の大きさ
上 下
39 / 114
第二章 神女の憂鬱

思いがけない未来

しおりを挟む

「代変わりと引越しの件はわかったわ。だけどアルは? 育てた王女が神女でなくなったらどうなるの?」
「は? わたしですか? わたしは神官ですから。大僧主様の采配に従って、求められる場所に行くだけですよ。神殿も神学校も各地にありますから」
「それはもう、エメラダの教育係でも側仕えでもなくなる……ってことよね?」
「ええ。そうなりますが……」

──相当な神女信者……。
──座を退いた姫と、座に就く姫……その時が来たらどちらを取るのでしょうね?

 耳に棲みついたメラニーがうるさくて、エファリューは気分が悪かった。メラニーはどこかで聞いた代変わりの噂と絡め、姉姫を揺さぶり面白がるためだけにそんなことを尋ねてきたのだと、今ならわかった。

(そんなの簡単だわ。アルは神様ってやつが大事なんだもの。姫を選ぶんじゃないわ、神女しか見えていないのよ)

 分かり切っていたが、エファリューは何か物悲しさを覚えた。大切な主で教え子であるエメラダでさえ、彼にとっては神女の器でしかないのだろうか。だとしたら神女とは……第一王女とはあまりに寂しいものではないか。これにも、メラニーの「ハズレ」という言葉が蘇る。
 難しいことを考えすぎて顔をしかめるエファリューを、具合が悪いのだと思い込んだアルクェスはその腕に抱え上げた。寝室へ向かいながら、彼は独り言のように呟く。

「そもそも、わたしは……自分がどうなるか、ということを考えていませんでしたね」
「え?」
「漠然と……先程お答えしたように、神職に戻るのだとは考えておりましたが……。エメラダ様のおそばを離れるとは思ってもみなかったような?」
「まあ、呆れた!」

 口ではそう言いながらも、エファリューは安堵で表情が緩んだのに気付いていない。

「なんだかんだで、エメラダが大好きなのねぇ」
「感情はさておき、ずっとおそばにおりましたから、当たり前のことだと思っていました」
「残念ねぇ、一緒にいられなくて。わたしでは代わりにはなれないもの、やっぱり神官に戻るしかないみたいね」
「それなんですが……」

 ぴたりと足を止め、アルクェスは腕の中のエファリューを覗き込んだ。

「わたしは貴女のそばも、離れるつもりはありませんよ」
「……え?」

 鳩が豆鉄砲を喰らったように葡萄色の目をぱちくりさせていたら、アルクェスも心底不思議そうに首を傾げた。

「身代わりの道具として囲っておいて、言い出したわたしが貴女を置いて去るはずないでしょう」
「……ふ、ふうん。どうかしらねぇ? あまーいお顔とお言葉で、魔女さえ駒にするような神官様を、どこまで信じていいのやら」
「貴女がファン・ネルの住民にかけてきた苦労と迷惑を思えば、脅したことを心苦しくは思いません。しかし、一人の女性の人生を大きく変えたという自覚はあるのです」

 馬鹿がつくほど真面目な顔で、彼は言う。

「ですからわたしは、貴女の一生に責任を持つつもりでいますよ」
「いっ、一生に責任っ? それって……」

 求婚ではないのか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

偽りの花嫁は貴公子の腕の中に落ちる

中村まり
恋愛
第二部 4月より再開! ザビラから救出されたジュリアは、公爵の正式な婚約者として、ジョルジュの屋敷で療養していた。彼の甘く情熱的でかいがいしい世話に翻弄されまくるジュリアであったが、ある日、彼が公務で不在の時に、クレスト伯爵領からの使者がジュリアを訪れる。 父であるマクナム伯爵の領地を継承したジュリアは、今やれっきとした伯爵家当主である。自分の領地の問題の報告をうけ、急いでマクナム伯爵領に訪れる途中、ジュリアがばったり出会った人物のごたごたに巻き込まれてしまう。結婚式までに帰らなければならないのに・・・── その頃、ジョルジュは国境線を巡る外交交渉のまっただ中で・・・・!  第一部  「お前にソフィーの身代わりとして、嫁いでもらいたい」 ある日、突然、女騎士団長のジュリアに、叔父から命じられた言葉 ─ 王家の命令によって、クレスト伯爵に従姉妹が嫁がされることとなった。しかし、その従姉妹の身代わりとして、どうして自分が差し出されなければならないのだ! そんな成り行きに呆然としているジュリアに告げられたもう一つのこと。 ─ 夫なるべき男、クレスト伯爵には、すでに溺愛する愛人がいる、と。 結婚する前からすでに疎まれ、お先真っ暗な気持ちで向った結婚式の祭壇で、彼女を出迎えたのは、それはそれは妖艶な男性で。ジョルジュ・ガルバーニ公爵は、なんと代理の花婿様だと言う。 しかし、そんな彼も、とある理由があって婚礼の場にやってきてたのだが・・・・。 そして、夫が不在のまま、結婚二日目にして発覚したクレスト伯爵家の大問題の数々。蔓延する疫病、傾いた伯爵家の財政、地に落ちた伯爵家の威信・・・。 問題だらけのクレスト伯爵領を、ジュリアは、なんとか立て直そうと、孤軍奮闘しようとする。ガルバーニ公爵は、そんな彼女を優しく支えてくれて。ジュリアの心には親しみ以上の感情が芽生えてしまうが・・・ そこに、花婿本人のクレスト伯爵が戦から帰還してきて! やむにやまれず身代わり結婚させられてしまった不遇な女騎士団長は、幸せになれるのか?!

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

転生召喚者は異世界で陰謀を暴く~神獣を従えた白き魔女~

*⋆☾┈羽月┈☽⋆*
ファンタジー
両親亡き後、叔父夫婦に冷遇されながら孤独に生きてきた少女・白銀葵。 道路に飛び出した子供を助けた事により命を落とした――はずだった。 神界で目を覚ました葵は時空の女神クロノスと出会い、自身の魂に特別な力が宿っていることを知る。 その答えを探すために異世界に転生することになった葵はシエル・フェンローズとして新たな人生を歩む事になった。 しかし転生召喚の儀式中、何者かに妨害され、危険区域ヴェルグリムの深森へと転送されてしまう。 危険区域の深層部で瀕死の神獣を救い、従魔契約を結ぶことになった。 森を抜ける道中で変異種の討伐に来た騎士団と出会い、討伐任務に参加することになったシエルと神獣。 異世界で次第に明かされていくシエルの正体。 彼女の召喚が妨害された背景には世界を巻き込む陰謀が隠されていた――。 前世で安易に人を信じられず、孤独だった少女が異世界で出会った仲間と共に陰謀を暴き、少しずつ成長していく物語――。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...