闇魔女は六畳一間の平穏が欲しいだけ!

川乃千鶴

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第二章 神女の憂鬱

イイオトコとは?

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「ねぇ、厩番の男とアルって、どっちがいいオトコ?」

 エファリューがフューリに語り聞かせる初日の感想を、控えめに頷きながら聞いていたミアは、突然話を振られて飛び上がった。まず比べたこともなかったので、困ってしまった。

「アルクェス様は、ジークリー伯ハルストレイム家のご子息。かたや、厩番は平民の出でございますから……比べようもなく……」

 そんなことを口にするのすら畏れ多くて、ミアはおどおどと辺りを窺った。

「あら。エメラダがこんなに恵まれた暮らしを捨ててまで選ぶ男なんだから、……情緒にやや難はあるにしても──。せめてあれくらいの見栄えはするものだと思ったのに、そうでもないのね?」
「厩番……フェイとわたくしは昔馴染みですが、同郷の贔屓目で見ても、朴訥としていて、生き物の世話以外に特に取り柄もないような男だったのですけれど……」

 尖塔にはフューリがじゃれて喉を鳴らす音と、エファリューがスコーンを齧る音しか聞こえない。そこに躊躇いがちな声を重ね、若い侍女は己の知る限りを語った。

「姫様が、厩舎に通うようになったのは、いつ頃からでしたでしょう。ああ、確か一昨年の夏です。あの夏はそう、厩舎に巣作った渡り鳥の子が一羽、巣から落ちてしまったんです。それで、お散歩されていた姫様がその子を拾って、治癒の魔法をお掛けになられたのですが……」

 巣に返してもヒトの臭いがついた我が子を、親鳥は受け入れなかった。良かれと思ってした行いが、雛の未来を絶ってしまったことに、エメラダは酷く自責し、姫の立場も忘れて慟哭したという。そこに手を差し伸べたのがフェイで、雛の巣立ちまで二人で世話をしたそうだ。

「はあ~、それでコロッといっちゃうなんて、世間知らずのお姫様らしいわね」
「いえっ、姫様は思慮深い御方で……」
「じゃあフェイって奴が強引に連れ去った?」
「うううん……とても想像できない姿です」
「それじゃあ、やっぱりアルに愛想尽かして出ていったのね」
「えっ? あ、あの、失礼ですが……どうしてでしょう?」
「だってあの坊……じゃなくて、あの男ったら面倒くさいんだもの!」
「め、面倒くさい……? は、はあ……?」

 きょとんとして、全く見当がついていないミアが、エファリューには可愛らしく思えた。

「とにかく理想の神女像の押し付けが激しいでしょ。ちゃんとできたら褒めてくれるから、そこはまあ悪い気はしないんだけど、それにしたって酷いと思わない? あの顔」
「か、顔ですか?」
「そうよ、狡いのよ。あんな本心見せておいて、結局アルが見ているのは神女様だけなんだもの。エメラダだってそれに気付いて、嫌になっちゃったんじゃなくて?」
「え、ええと……?」

 ミアは困ってしまって、曖昧な笑みを浮かべた。これは体験してみないと分からないのかもしれないと、エファリューはスコーンの最後の一口を噛み砕いた。
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