闇魔女は六畳一間の平穏が欲しいだけ!

川乃千鶴

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第一章 闇魔女はスパルタ教師に囲われる!?

教育係は理想高めのスパルタ男でした!? 5

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 長い長い講義が終わる頃には、とっぷり日は暮れていて、間食の暇もないまま、湯浴みに駆り出された。エメラダ付きの年若い侍女に裸に剥かれ、頭から足の先まで泡まみれにされた上で、全身を磨き上げられる。

「ふひっ、ふへへへへへっ、ひゃはっ、やめっ、ふへへっ」

 柔らかな布が肌を滑るのが、こそばゆくて堪らず、こればかりは一人でさせてくれとエファリューは身を捩る。
 姫の手を煩わせるわけにはいかないと、侍女は頷かない。しかし肌を磨くたびに、敬愛する姫の口から奇っ怪な声が洩れるのが恐ろしかったようで、最後には「どうぞ」と洗い布を差し出したのだった。

 湯から上がった後は、髪に花の雫を馴染ませ、全身にクリームを塗り、研いた爪に紅を乗せられ……素敵なレディになるための薬をたっぷり塗り込まれている気分だった。
 そうこうしているうちに、夕食の時間だ。
 ところが残念なことに、エファリューはすっかり疲れていたのと、湯上がりの心地好さも手伝って、贅を尽くした晩餐に一口も口を付けぬまま、眠ってしまった。

 アルクェスの呆れた声が遠くに聞こえた気がしたが、もう一寸足りとも瞼を開けていられなかった。
 ふわっと体が浮く感覚がして、柔らかな香りが頬に触れた。泥に沈むような睡魔の向こうに、エファリューはサラの顔を思い浮かべたが、寝台まで運んでくれたのは、彼女をそこまでくたくたにさせた教育係だった。



***



 月もさやかな夜更け、エファリューははっと目を覚ました。体はいろいろな所が痛くてだるいが、一眠りしたおかげか、頭はすっきり冴えていた。
 控えていた侍女が、部屋を滑り出ていく気配がして、ややあって扉の向こうからアルクェスの声がした。

「お目覚めなら、軽いお食事は如何ですか」
「……いらない」
「では甘いものは?」
「いる!」

 エファリューは寝台を飛び出て、続き間へ飛び込んだ。
 アルクェスがやれやれと肩をすくめる。

「あるとは言っていませんけどね」
「意地悪ぅ!! だったら、わざわざ何しに来たのよ」

 しぃっ……と、艶やかな唇の前に人差し指を立て、彼は微笑んだ。

「──夜遊びのお誘いです。エメラダ様ではなく、エファリュー。貴女を」




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