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第一章 闇魔女はスパルタ教師に囲われる!?

教育係は理想高めのスパルタ男でした!?

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「こんなに爪の中が真っ黒な淑女がいますか?」

 眉をしかめるアルクェスの手の中には、エファリューの指先がある。薬草のが取れなくて、諦めたものだ。が、おそらく気合いでこすれば落ちないことはない。単にエファリューがずぼらなだけだ。
 かっと顔を赤くして、エファリューは手を引っ込めた。

「働くレディはみんなこうですぅー!」
「貴女はろくに働いてないでしょう……第一、今日からエメラダ様を名乗るのです。指の先から髪の先まで気を遣っていただかなければ困ります」
「はいはい。じゃあどうぞ。足の先まででも、好きなだけ磨いてちょうだいな」

 エファリューの靴がアルクェスの高い鼻を掠めるように、空を蹴った。組んだ脚で爪先を一振りすれば、肌隠しストッキングが滑らかにすべって、真珠の飾りがついた靴はぽんと投げ出さる。
 転々と転がったそれはやがて自重で起き上がり、深緑色の絨毯の上で爪先立った。
 挑発的に、教育係の鼻先で足を揺らしていると、彼の耳の端に朱の色が浮かんだ。なんて単純で簡単な男だろうと、エファリューはほくそ笑む。勝利を確信して、油断していた。
 そしたら彼に、はしたない足首を掴まれた。

「で・す・か・ら!!」

 アルクェスは、もう片方の手に靴を握り、エファリューの小ぶりな足と合体させた。そっと足を収める、なんて優しいやり方じゃない。音にするならまさしくガシャンッ!、だ。
 彼の顔を紅潮させるのは照れや恥じらいではない。純然たる怒りであった。

「エメラダ様と同じ見かけで、下品な振る舞いはおやめなさい! 神女様を穢す者は許しませんよ?」

 その空色の瞳が氷のように冷たい。なるほど、脅してきた時もこんな目をしていたのだなと、エファリューは妙に冷静に納得した。

「これから十日間、淑女がなんたるか……その体にみっちりと、教えて差し上げましょう」
「まっ! そんなの契約外だわ」
「わたしだって、貴女がここまで品性に欠けた者だとは、想定外でしたよ! 中庭ではまともにしていたと思ったら、とんでもないじゃじゃ馬だ……」

 それはエファリューが、令嬢気取りで猫を被っていたからだ。

「気品溢れる振る舞いが、大前提の身代わりです。それができないというのなら、この契約は成立いたしませんよ!」
「え゛ええ~」
「貴女の求めるぐうたらとやらのため、己に投資するのだと思って腹を括るのです。──また鱗を剥いでやっても、いいんですよ?」

 美しさ故に酷薄な笑みで、教育係は選択肢のない選択を迫った。ヒールで足蹴にしてやりたい気持ちをぐっと抑え、エファリューは組んだ脚をきちんと揃えたのだった。





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