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第一章 闇魔女はスパルタ教師に囲われる!?
うまい話には裏があったけど、やっぱりうまかった。3
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白百合のように裾が広がったドレスを身に纏い、髪もサラの手で複雑に結われて、エファリューは再びアルクェスと対峙した。
寝室ではなく、応接間に移動した彼は、ようやくまともに視線を合わせる気になったようだ。優雅に頭を下げ、上から下までエファリューを眺め、感嘆の息を吐いた。
「……まさしくエメラダ様と瓜二つだ」
エメラダがどんな姫かエファリューは知らないが、自分と瓜二つなのだから、匂い立つような色気と、相反して子猫のように無邪気な可憐さを持ち合わせた、さぞ美しい顔貌の愛され姫なのだろうと勝手に頷いた。
勧められた椅子にどっかと腰掛けるエファリューを、アルクェスは何かを堪えるように拳を握って見つめた後、改めてこの身代わり契約の詳細と留意点を語り聞かせた。
「この城は、エメラダ様の居城です。わたしを初め、姫のお世話を仰せつかった者どもがともに暮らしております。
わたし、アルクェスは、エメラダ様に仕え、神学と礼儀作法の教育を担当しております。サラはわたし付きの侍女ですが、ともに行動することが多いので、姫様も彼女に信を置いております。後ほどご案内いたしますが、城内の者はこの身代わりについて承知しておりますので、彼らと話してエメラダ様との関係性を学ばれるのも良いでしょう。ただし神殿においては別です。あちらにおいでの神官らは何も知りませんので、エメラダ様と入れ替わったと気付かれぬよう、そこだけは注意を払ってください」
「はいはい」
エファリューは、サラに出されたスコーンを丸齧りし、ドレスにぼろぼろ雪を降らせる。もぐもぐ頬張って栗鼠のようになりながら、艶やかな口の端を歪めたアルクェスに問うた。
「で? そのエメラダには会わせてもらえないのかしら? 会わないことには真似することもできないし、そもそも……身代わりが必要な理由はなんなの?」
「そっ、それは……」
明らかに動揺して、アルクェスが視線を外す。
これは口を割るまで時を要しそうだと判じたエファリューは、身を乗り出した。彼の色白な耳元に唇を寄せて、まるで息を吹きかけるように囁く。
「お・し・え・な・さい?」
アルクェスは再び耳まで真っ赤に染め、椅子から転げ落ちん勢いで身を引いた。
悪趣味な脅しをかけてきた仕返しをしてやれた気分で、エファリューはおおよそ姫に似つかわしくない、下衆な笑みを浮かべた。
「エッ、エメラダ様は昨日より行方が知れないのです」
「あら、それって大変なんじゃないの?」
「ええ大変ですとも、一大事です! 城内が手薄なのも、姫様を探しに出払っているからです」
今のところは、月の障りで城に篭っていると神殿には伝えてあるという。エファリューは首を傾げた。
「神女様の一大事なのに、神殿の人間が知らないっておかしくない? ん? というか、身代わりを立てて誤魔化そうとしてるわよね? なんで?」
「それは……」
「アルクェスさ・ま?」
エファリューは口を尖らせ、ふぅっと息を吐く振りをする。
「はしたない真似はおよしなさい! はあ……。実は、エメラダ様は……」
ようやく口を割ったが、ごにょごにょしていて要領を得ない。うわごとのように呟かれる彼の話をまとめて、エファリューなりに噛み砕いた言葉で確かめた。
「つまり、厩番の男と駆け落ちしたってことでいい?」
「そんな下世話な言い方はおやめなさい! 姫様にはきっと崇高なるお考えあってのこと……」
「いや。『これからはただの娘として、この方と生きていきます』って書き置きがある時点で、ただの色惚けでしょう」
「拐かされたのかもしれないでしょう!?」
「さっきと言ってること違わない? 崇高な考えはどうしたのよ」
「くっ……!」
項垂れるアルクェスの様子から、駆け落ちしたと認めざるを得ない姫の秘めた想いを、彼が知っていたことが窺えた。
寝室ではなく、応接間に移動した彼は、ようやくまともに視線を合わせる気になったようだ。優雅に頭を下げ、上から下までエファリューを眺め、感嘆の息を吐いた。
「……まさしくエメラダ様と瓜二つだ」
エメラダがどんな姫かエファリューは知らないが、自分と瓜二つなのだから、匂い立つような色気と、相反して子猫のように無邪気な可憐さを持ち合わせた、さぞ美しい顔貌の愛され姫なのだろうと勝手に頷いた。
勧められた椅子にどっかと腰掛けるエファリューを、アルクェスは何かを堪えるように拳を握って見つめた後、改めてこの身代わり契約の詳細と留意点を語り聞かせた。
「この城は、エメラダ様の居城です。わたしを初め、姫のお世話を仰せつかった者どもがともに暮らしております。
わたし、アルクェスは、エメラダ様に仕え、神学と礼儀作法の教育を担当しております。サラはわたし付きの侍女ですが、ともに行動することが多いので、姫様も彼女に信を置いております。後ほどご案内いたしますが、城内の者はこの身代わりについて承知しておりますので、彼らと話してエメラダ様との関係性を学ばれるのも良いでしょう。ただし神殿においては別です。あちらにおいでの神官らは何も知りませんので、エメラダ様と入れ替わったと気付かれぬよう、そこだけは注意を払ってください」
「はいはい」
エファリューは、サラに出されたスコーンを丸齧りし、ドレスにぼろぼろ雪を降らせる。もぐもぐ頬張って栗鼠のようになりながら、艶やかな口の端を歪めたアルクェスに問うた。
「で? そのエメラダには会わせてもらえないのかしら? 会わないことには真似することもできないし、そもそも……身代わりが必要な理由はなんなの?」
「そっ、それは……」
明らかに動揺して、アルクェスが視線を外す。
これは口を割るまで時を要しそうだと判じたエファリューは、身を乗り出した。彼の色白な耳元に唇を寄せて、まるで息を吹きかけるように囁く。
「お・し・え・な・さい?」
アルクェスは再び耳まで真っ赤に染め、椅子から転げ落ちん勢いで身を引いた。
悪趣味な脅しをかけてきた仕返しをしてやれた気分で、エファリューはおおよそ姫に似つかわしくない、下衆な笑みを浮かべた。
「エッ、エメラダ様は昨日より行方が知れないのです」
「あら、それって大変なんじゃないの?」
「ええ大変ですとも、一大事です! 城内が手薄なのも、姫様を探しに出払っているからです」
今のところは、月の障りで城に篭っていると神殿には伝えてあるという。エファリューは首を傾げた。
「神女様の一大事なのに、神殿の人間が知らないっておかしくない? ん? というか、身代わりを立てて誤魔化そうとしてるわよね? なんで?」
「それは……」
「アルクェスさ・ま?」
エファリューは口を尖らせ、ふぅっと息を吐く振りをする。
「はしたない真似はおよしなさい! はあ……。実は、エメラダ様は……」
ようやく口を割ったが、ごにょごにょしていて要領を得ない。うわごとのように呟かれる彼の話をまとめて、エファリューなりに噛み砕いた言葉で確かめた。
「つまり、厩番の男と駆け落ちしたってことでいい?」
「そんな下世話な言い方はおやめなさい! 姫様にはきっと崇高なるお考えあってのこと……」
「いや。『これからはただの娘として、この方と生きていきます』って書き置きがある時点で、ただの色惚けでしょう」
「拐かされたのかもしれないでしょう!?」
「さっきと言ってること違わない? 崇高な考えはどうしたのよ」
「くっ……!」
項垂れるアルクェスの様子から、駆け落ちしたと認めざるを得ない姫の秘めた想いを、彼が知っていたことが窺えた。
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