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第一章 闇魔女はスパルタ教師に囲われる!?
落っこちて、落とされて?
しおりを挟むとんでもなく冷たい空気を切り裂きながら、彗星の如く、エファリューは落下した。
子竜が追い縋るが、エファリューは平気だと微笑んで手を振った。
空を掻いて、できた闇の穴に手を突っ込む。さっきの矢を一本取り出して、矢尻は闇に突き立てた。縄の部分をしっかと手にしたら、投げ出された体を捻って、上体を起こす。
その姿はまるで、黒い風船を手に宙にぷかぷか浮いているようだ。
「あら、これもなかなか楽しいじゃない」
心配そうに寄ってきた子竜に、ここまでの礼を言って、水色の弾力のある頬にキスをした。
「じゃあね。あなたが立派な大人になったら、いつか鱗を貰いに行くわ」
竜の鱗は、鍛冶屋に持っていくと高く売れるし、呪術の道具にも薬の材料にもなる。これに関してエファリューは労を惜しむつもりはない。
子竜は不満そうに低く唸った。親が狩られ、一人ぼっちの雛竜だった時に怪我を治してくれたエファリューは、子竜にとって家族と同じだ。
「冗談よ。友達も家族もいらないけれど、……そうね。あなただけは特別だったわ。ほとぼりが覚めたら、きっと会いに行くから。さあ、気をつけて帰りなさい」
エファリューが風に流され、国境を越えても、子竜はそばを離れようとしなかった。
参ったなぁと思っていたら、突然体がかくりと重力に引っ張られた。
ふと気付くと、東の空が白み始めていて、それに伴いエファリューの闇が薄くなったのだ。矢尻がするりと抜けていく。
風船が割れたかのように、エファリューの体は再び急降下を始めた。
眼下には、緑の丘が見渡せる。遠目には、白く光を跳ね返す神殿のような建物も見える。
足元に、幾つもの尖塔が聳える城が迫る。エファリューはその中庭に向かって、急速に落下していた。
この時、エファリューは自分のことよりも、追い縋ってくる子竜の安全を優先した。もし、見張りの目についたりしたら、子竜は狩られてしまうと、胸がざわざわしたのだ。それは面倒くさいとは思わなかった。
指笛が響き渡る。エファリューの指笛には、思念が込められている。
──大丈夫だから、お帰り。
それは一種の呪いで、子竜は心と体が引き裂かれる思いで、くるりと旋回する。短い尾をしなだらせ、きゅっと一声鳴いて、ファン・ネルの方角へと泣く泣く飛び去った。
それを見てほっとする暇もなく、エファリューは自分の身も守らなければならない。急いで闇を呼び寄せる。
ところが、いつもの要領で手を掻いても、困ったことに全く闇が生まれない。いくら朝陽が昇りつつあるからといって、こんなことは今までになかったことだ。
はっとして辺りを見回し、ここがどこか悟った。
遠くに見えた神殿──あれは隣国クリスティアの国教の総本山、聖神女神殿。その信仰対象は太陽、神女の性質は光だ。
光の加護に満ち満ちたこの地において、エファリューの魔力など無力だ。
なすすべなく、空を切って小さな体が落ちていく。髪紐も弾け飛んで、ミモザの髪がふわりと風に広がった。
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