マジカルライフ

加納佑成

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第6話 スタンドバイミー ①

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 時は約40分前に遡る。
 『塔』内部各所で終野澄香ついのすみかに対する警戒体制にあったウィッチシーカーの魔法使い達、全員のインカムに通信が入った。別室で作戦指揮を採る石神からだった。
『灰谷契君から緊急連絡あり、こちらからの応答不能。澄香と思われる、魔導書を所持した人物との同行を確認。
────現在魔導書が『キッドナッパー』を使用。灰谷君、当該人物並びに魔導書の物理消失を確認。常磐木さん、現場に急行願います』
「了解」
 普段緩い雰囲気を放っている中年男性、常磐木は真顔で即答した。石神との視覚共有で現場のデータが送られてくる。常磐木はこの期に及んで石神に判断の根拠を問い質す事はなかった。『塔』からの直接魔法感知、監視カメラのハッキング、声紋鑑定、その他何十通り、下手をすれば何百通りもの常磐木には思いつきもしない手段で即座に情報収集し、その情報を取捨選択し、熟慮の上で指示を出したのだろう。
 石神量子いしがみりょうこには1秒あればそれが出来る。常磐木だけでなく、警戒体制にあった魔法使い達全員がそれを理解していた。
「さてと」
 もしも。
 相手が終野黒枝ついのくろえ本人、あるいはそれに匹敵する戦闘能力を持っていて、戦闘になったら。
 常磐木単独で、しかも『塔』の外では億に一つの勝ち目もない。塵を払うように殺されるだけである。
 それでも常磐木は不敵に笑った。
「いっちょ命懸けてきますかね」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 
 現在。
 漆黒の影の泡で出来た街は少しずつ薄れるように消え失せ、終野達は現実の街に戻ってきていた。常磐木は刀を一瞬で消した。
 常磐木は終野澄香に向き直り、こう言った。
「まあ、とりあえず『塔』に来てよ」
「え、嫌です……あの、私仙台市図書館に行きたいんですけど」
「この状況でよくまだそんな事言えるな……あのね────」
 不意に常磐木のスマホが鳴り、ワンコールで切れた。と思いきや、
「その件につきましては私の方から説明させて頂きます」
 勝手に通話状態のスピーカーモードとなり、怜悧な印象の女性の声が響いた。
「申し遅れました、わたくし、魔法管理機構ウィッチシーカー所属、『塔』のゼネラルアドミニストレータをさせて頂いております、石神量子と申します。この度は当機構の灰谷を助けて頂いたとのことで誠にありがとうございました」
「あっ……いえ助けてもらったのは私の方で、怪物に襲われて、それで……あっ灰谷君はどうなりましたか」
「ご心配をかけてしまったようで申し訳ありません。灰谷は私共の組織の運営する病院にて治療中です。大事をとって数日入院しますが、命に別状なく後遺症も残らないそうです」
「よかった……」
「ご安心下さい」
 終野澄香は心底安心していた。その様子を、常磐木と、終野をさりげなく取り囲んでいる5人のフィールドシーカーが『何があっても即動ける間合い』から観察していた。
「さて、説明の前にいくつか確認させて頂きたい事があります。まず、あなたは本日仙台市図書館に献本予定の、終野澄香さんでよろしいですか?」
「は……はい」
「承りました。それでは献本予定の本が魔導書であった事はご存知でしたか?」
「いいえ。祖母の遺言書で初めて存在を知った本です、魔導書という言葉も今日初めて聞きました」
「承りました。亡くなられたお婆様のお名前は黒枝さんですか?」
「はい……なぜ知って……」
「承りました。次で最後の確認事項となります。
 
「えっ!?」
 終野は驚いて常磐木の顔を見た。常磐木は表情を変えない。
「い……いいえ」
「承りました。確認は以上です。ありがとうございました。では、献本の件について説明させて頂きます。薄々察しておられると思いますが、今回の献本の情報は、私共が仙台市図書館から超法規的に入手しました。そして人員を裂いてあなたに対する警戒網、捜査網を街中に張り巡らせました。
────あなたのお婆様と私共の組織は敵対関係にあったからです」
「あ、それ普通に言っちゃうんだ」
 常磐木が呟いた。終野は目を見開いている。石神は続ける。
「ですが、常磐木が申しましたように、終野さんに敵対の意思がないのであれば私共の組織としては敵対する理由はありません。
「え、嘘、そうなん?ちょっと貸して」
 終野は常磐木に素直に本を渡した。常磐木は注意深く本の拘束を解き、中身を丹念にチェックする。
「マジじゃん。何で?」
「私共の組織の主な業務には魔法による被害の防止、及び被害者の方の保護が含まれます。現在の終野澄香さんの立場は、『終野黒枝の、魔導書を発動体にした魔法によって殺されかけた被害者』であり、当然ながら保護対象です」
 終野は今度は特にリアクションを取らず、話の続きを促すように黙って聞いている。
「そこで提案があります。私共の方で仙台市図書館に話は通しておきますので、図書館への献本は取り止め、魔導書だった本は『塔』で管理・解析させて頂きたいのです。また、終野さんも黒枝からの安全が確保できるまで保護させて頂くことを約束します。つきましては、情報の共有、今後の方針等についての話し合いのため、『塔』にいらして頂けないでしょうか。
 もちろん無理強いは致しません。私共を信用するに足る要素が乏しいことは承知しております。どうなさいますか?」
 終野は────
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