上 下
392 / 418
教団と大精霊

第361話-偽物-

しおりを挟む
 さっきまでの空気とうって変わって緊迫した空気が張り詰めている。
 この目の前の男の人が誰かは知らないからこそこの人の言葉がどこまで本当なのかは分からない。

「同じ名前だったり……」

 私が恐る恐る言ってみた。

「ないな。俺の知る限り同名はいない。ありふれた名前でもねぇ」
「で、でも町の人達もみんな違和感なく接してたし」
「んなこた知ったことねぇ」

 あっさりと否定されてしまった。

「で? どうなんだ、なんか言えよ」

 私達の後ろにいる彼女に注目が集まった。

「なーんだ。本物帰って来ちゃったんだ」

 その一言はこの緊迫した空気を飛ばした。一気に弾けた空気はとたんに殺伐とした空気に変わった。
 私は彼女の言葉が言い終わる前にユリィとチェルさんに手を伸ばしてヤン達の方へ反射的に飛んでいた。
 飛ぶ直前に構えていた男の人が名前を語った彼女まで詰めて剣を振るった。
 力強い太刀筋は彼女に防御する暇も与える事なく達したように見えた。そのはずなのに剣は彼女の目の前に振り下ろされて地面を抉っていた。

「どこ攻撃してんだ! 見えてねぇのかよ!」

 ヤンが叫ぶ。
 いやそんなはずはない。私の素人の目で見ても間違いなく彼女は間合いにいた。それが外れるのはおかしい。

「その人精霊憑きです!」

 ユリィの言葉に納得した。だとしたら何か魔法を使ったのかも知れない。
 彼女はガラ空きになった男の人に腰の剣を抜いて切り払った。致命傷にはならない程には見えるけど腕を斬られた。

「そんな事分かるんだ。貴方達すごいね。そこの二人も精霊憑きでしょ。一人は今瞬間移動したよね、凄い!」
「貴方は誰なんですか。人の名前を偽って……」
「実験中だったんだよ。ごめんね~」

 からかわれている様な返答。さっきまでの彼女にも愛嬌はあった、だけど今の彼女からは愛嬌は愛嬌でも少し違った感情を覚えた。
 今度はヤンとバレルさんが彼女の元に走って攻撃をした。二人同時の攻撃だったはずなのにヤンの攻撃だけは防御された。
 バレルさんの拳は当たった様に見えたのにまたさっきのように空中を切った。

「おっさんも何してんだよ!」

 ヤンの言葉にはバレルさんだけじゃなくてこの場の全員が困惑している。そう彼女も含めて。

「あれぇ。私のことはっきり分かってるんだ。貴方どうして?」
「知らねぇよ?なんでもいいから大人しく斬られやがれ」
「それは嫌だなぁ。君強いでしょ。すっごい困ったな」

 剣同士の押し合いをやめて彼女は後ろに下がった。下がると同時に手に持つ剣の切先をこちらに投げつけた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:4,215

この部屋はお兄ちゃん絶対王政だからな!

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

愛し合えない夫婦です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:594

そう言うと思ってた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:921

睦月の桜が咲き誇る頃

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

薔薇の寵妃〜女装令嬢は国王陛下代理に溺愛される〜完結

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:709

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:4,669

還暦記念

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...