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教団と大精霊

第356話-剣の腕前-

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 間合いに入ると向こうからの先手が飛んでくる。かと言って待てば向こうのタイミングで迫ってきて攻撃がこっちにやってくる。

「やりにくいな」

 どっちにしても向こうのペースで勝負は流れる、かなり面倒くさい。
 結果としてこっちの攻め手が封じられて防戦一方になっている。そのせいか小さな傷だけが少しずつ増えている。
 それに対してこっちは致命打を与えられていない。

「悔しいけどよ。剣の腕じゃ俺の負けだわ」
「お前さんかなり強いだろ。ただ俺の方が少しだけ人生経験があるだけさ」

 間違いなく強敵だ。これまでに出会ったどんな奴よりも。こっちもそれなりに場数は踏んできたつもりなんだけどな。

「だが、これは勝負だ。剣道じゃねぇ」
「分かってる。まぁ俺こっちはからっきしなんだけどな……だけど使わして貰うぜ」

 純粋な剣の腕だけだと俺の負けだ。だけど今は違う。魔法って言うもんがある。
 剣を腰に構えた。そして相手が動くよりも早く抜刀、そこから風の刃が走る。散っていた葉を二つに裂きながら、走る飛ぶ斬撃。

「ふんっ!」

 間合いの外から飛んできた斬撃を男は叩き斬った。男の身体に斬撃が届くことは無かった。

「やるねぇ」

 だがそんなの承知済み。真正面からの攻撃が届くほど甘い奴じゃない。だから二撃目を入れる。むしろこっちが本命だ、飛ぶ斬撃の連続撃ち。時間差での攻撃だ。
 二撃目も男は打ち払った。だが、二撃目は慌てて迎撃したから一撃目以上の隙が出来た。
 そこを狙う。一気に間合いを詰めて剣を振るった。
 風切り音が何もない空間を斬った。振った風圧で落ちてくる木の葉だけが舞った。空気に乗って空に飛ぶようにヒラヒラと蝶の様に。

「あっぶないねぇ」

 詰めの攻撃も避けられた。だけどすんなりじゃない。微かに剣先に感触があった。

「やっぱり魔法があると不利だねぇ全くやりにくい世の中になっちまった」

 一人惚ける男の実力が底知れない。だが目の前の実力差に『こんなすげぇ奴もいるのか』と正直内心喜んでいる自分がいた。

「まぁ降参しとく。これ以上はお互い本気になっちまうだろ。少年」
「俺は本気のつもりだったんだけどな」
「冗談抜かせ。ちょっと本気出したの最後だけだろうが」

 男は全く本気を出してなかった。そんなのは俺でも分かった。

「まぁ俺の一宿一飯の恩はお前さんを足止めした時点で終わったからよ。そっからは命張るだけ無駄だろうに。だから降参」

 こうは言ってはいるがこっちとしては全く勝った気のしない戦いの幕が降りた。
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