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黒い獣

第340話-旅立つ時-

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 あれから数日が経った。夜の警備も続けていたが黒い獣は出る事がなかった。前の戦いで全て討伐したからかもしれない。そうなるとバレルさん達は成果報告と商売の兼ね合いもあってこの町を出なければならない。
 一方私たちももう手伝える事はないと言う判断に至って町を出る準備をしている。
 バレルさんの所から保存の効く食料を分けてもらって旅路に備える。

「協力出来るのはこれくらいで悪いな」
「いえいえ、ありがとうございます。すごい助かります」

 積荷まで付き合ってもらっておんぶに抱っこの状態になっていて少し心苦しい。

「明日出るんだよな」
「はい。そのつもりです。お世話になりました」
「世話になったのはこっちの方だ。改めて言わせてくれ、ありがとうな」

 大きな手で握手を求められてそれに応えた。さっきまで荷物を持っていた手のひらの熱は高い。堅そうに見えても柔らかな繊細な手に驚く。

「護衛の人間には心当たりがあるから紹介状書いてやるから受けとんな」
「本当何から何までありがとうございます」

 当初の目的だった護衛を雇う事はできなかったけど、紹介状がもらえるならありがたいし、希望も持てる。

「魔法教団なんかに狙われてんなら備えは怠るなよ。どこにいるか分からん」
「はい。怖さはよく知ってますので……2回も」
「結構余裕あんじゃねぇか」

 笑いながらバレルさんは言ってくれた。
 実際怖さはよく知っている。ガルド城の下で、そしてついこないだのことで。
 警戒はしてもそれに怯えてばっかりだと進歩がない。だから多少は強気でいる事にした。これはヤンとユリィとも話し合った結果だった。

「獣に関しては調べてみる。気にはなるからな」

 獣人の正体が分かっても謎は多い。それをこの数日で解き明かす事は到底できなかった。バレルさんの医者としての知見を持ってしても。

「優子さーん」

 遠くから呼ばれた方からはユリィとヤンが帰ってきていた。町でお世話になった人達へとあいさつに回ってもらっていたけど、終わったらしい。

「荷物はあらかた積んだからな。まだ必要なもんがあれば遠慮なく言ってくれ」

 そう言ってバレルさんは手を振りながら町中へと戻っていった。

 
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