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黒い獣

第338話-獣の正体-

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「おいおい何だよこりゃ……」

 俺は目の前に広がる光景に目を見開いてしまっている。
 俺の渾身の一撃を打ち込んだ獣人からは黒い毛皮のようなものが剥がれて中身が露わになった。

「なんで中から人が出てくんだよ……」

 間違いなく生きてはいない。顔と呼べるものは形が変わり、一部は溶けている。それでも人間だと思えたのはまだ輪郭が全身を通して分かるからだ。
 頭があって、腕があって、足がある。胴体から四肢が生えているも間違いない。
 息はしていない。呼吸反応が感じられない。身体からは力が抜けて全ての重みが俺の腕へとのしかかっている。

「胸糞悪りぃ」

 さっきまで俺を殺そうとしていた獣人の正体は人間。それにさっき聞こえた言葉が頭に残る『間違いなく死んでいます』ってな。
 それはつまり少なくとも俺の目の前にいる人間を殺したのは俺で間違いないってことだ。
 ひとまず目の前の人間を地面へと寝かせて俺の上着を上からかけて姿を隠した。亡骸を晒す気もしないからだが……まだこいつには用があるからだ。

「おい。そっちはどうだ」

 ヤンの方へ駆け寄る。
 足元には人間の死体が二人横たわっている。

「こっちもか」
「ってことは、おっさんの方もか」
「胸糞悪りぃよな」
「俺もさっきそう言ったとこだ」
「どう言うことなんだろうなこれ」
「調べるさ」

 死体を調査する。それは俺の仕事だ。

「バレルさんこっち終わりましたぜ」
「あぁ、分かった。ならここはいいから全員反対側行ってこい」
「了解しました」
「そっちは何にもないか?」
「みんな無事ですわ!」
「分かった。気をつけて行ってこい」

 幸いこの三人は俺たちが片付けた。向こうからは見えてないはずだ。だから人を全員この場から離れさせた。

「あっちからは人間出てきてねぇって事だよな」
「だな。つまりあの獣人みたいなのには人間が入ってるって事だな」
「向こうにもいたら隠せないな」
「祈るさ。いないことをな」
「手伝うぜ。どこに連れて行けばいい?」
「ありがとよ助かる。町の中心だ。隠していくから準備する。俺が二人、お前は一人だ」

 正直この死体は俺たちだけの秘密にしたかった。だけど、隠せない場所にいる二人には見えてしまっていた。
 二人は驚きはしている。ただ、何も言ってこない。

「大丈夫だ。お嬢達は……」
「ならいいけどな」

 心配なのは二人の少女の心だ。







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