悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

Time can only move forward

第240話-私自身が-

「お嬢様、着きましたよ」

　一息ついて帰ろうとしていたアレンとホリナを引き留めて馬車に乗って私は早々に帰路についていた。
　さっきの事が夢だったらと思ってすぐに目を瞑って何も考えないようにしたまま眠ってしまっていたらしい。
　そんな私をホリナが心配そうに起こしてくれた。

「大丈夫ですか？　歩けますか？」
「うん、それくらいは大丈夫。ありがとう」

　ホリナが先に扉の鍵を開けて屋敷への道を開いてくれる。私はその後について屋敷へと戻った。

「それじゃあ私は部屋に戻って寝るから。心配しないで」
「何かあればすぐ呼んでください」

　相槌だけ返してそのまま部屋に戻って、着替えることもなくベットに倒れ込んだ。
　柔らかい素材が優しく私を包み込んでくれた。ひんやりとした表面が素肌に触れてまだ眠っていた私の脳を少しだけ目覚めさせる。
　手の平を開いて、閉じてを繰り返す。髪を触って、顔の輪郭を開いた手の平でなぞる。そして柔らかいのに、無駄な肉なんてないフランソワの頬を軽くつねった。鈍い痛みを感じる。
　髪独特のひんやりとした感触は間違いない。身体に人としての体温の温もりはある。痛みも感じる。

「あぁ、これはやっぱり今の私のリアルなのね」

　やっぱり夢じゃないらしい。
　『時間が戻っている』言葉にすると馬鹿馬鹿しいにも程がある。そんな魔法みたいな事があるものか……。

「いや、あるじゃない……」

　フランソワなんてゲームの登場キャラでしかない。その周りも。そんな中で何故か私は今ここにいる。

「私自身の存在が魔法みたいなものじゃないの」

　この世界で目覚めて私はそれを楽しく受け入れていたつもりだ。だけど、それはこの身に起きた事から目を背けていただけじゃない。
　私がこの世界にいる。それこそが魔法なんだ。

「時間が戻るって何よ。私がこのゲームクリアしたから？」

　確かに私の夢は叶えた。だけど、それはクリアじゃない。なんならクリアの基準はなんなのか。
　段々と目が冴えてきた。もう一度眠るつもりだったけど、そんなことをしてる場合じゃない。
　静かな部屋が私に考える余裕をくれている。