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嵐の来訪者

第208話-憂鬱な時-

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 あれから一週間、私はウェルズと共に下校している。別にしたくてしている訳じゃない。ただ、そうするように言われているからだ。
 楽しいことはない。学院での生活は楽しくても、この時間だけは気分が晴れることない。
 目の前だと何も楽しくない男が話をしている。内容なんて耳から入ってきても何も頭には残っていない。
 自分のことを楽しそうに話している事だけは分かっている。そんな事しか話してこないから記憶する価値もなかった。

「いつも一方的に話していて楽しい?」
「貴方の近衛騎士になるのですから、もっと私の事を知ってほしいので」

 飄々と言う。卑怯で人を脅して手に入れる地位が余程嬉しいらしい。

「次こそはお願いしますよ。気づけばもう来週ですから。時が経つのは早いですね」

 ここでウェルズの意思に背いたらどうなるのか。そんな事をふと考えるとシャバーニの顔が浮かぶ。
 私を助けるためにボロボロになったシャバーニ、彼だけじゃない誰がそうなってもおかしくはない。たまたま彼だっただけだ。
 もしかしたらヤンかも知れなかったし、アルだったかもしれない、ユリだって。もっと行けばアンやユリィ……アリス。
 想像するだけで嫌になる。そして今の私に頼れる人はいない。だからこそ辛い。吐き出せないのがこんなに辛いのか。久しく忘れていた気がする。

「どうしたんです? 思い悩んでいるなら悩みを聞きますよ」

 悩みの種が楽しそうに言っている。
 お前が来る前に戻れば悩みは解決する。それを言っても聞くような奴じゃない。

「悩みがなさそうな貴方が羨ましいなって」
「これは心外ですね。毎日悩んでいますよ。どうすれば貴方が心を開いてくれるかと」
「貴方じゃ無理よ」
「そう邪険にしないで下さい。これから私は貴方を守り続ける役目につくのですから」

 良く言えたものだと思う。このメンタルを少しは私も見習わないといけないのかも知れない。

「来週が楽しみじゃないですか。私のフランソワ様……」
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