上 下
144 / 420
ガルド城の秘密

第115話-フランソワとルシア-

しおりを挟む
「乾杯ー!」

 私達は舞台から降りて下の会場へと降りてきていた。
 豪華な食事が並べられたテーブルの上はまるで宝石箱のような輝きが広がっている。
 そんな料理達を傍目にしながら私は家族と祝いの乾杯をしていた。
 フランソワの家族だけでなく、隣にはユリの家族もいる。それ以外にもルシア夫妻、バレルさんも居て、この3日間のオールスターが揃っていた。

「でもあなた達ほんとに欲がないわね。私ならめちゃくちゃな要求をしてる自信あるわ」

 そうぼやいたのはルシアさんだ。
 ワイン片手に喋る彼女は元が綺麗なこともあってとても絵になっている。同性の私から見ても大人の色気がある。

「いざとなると難しいものですので」

 笑って誤魔化す。そりゃ本当の所であれば欲を言えばキリがない。だけど、その場面に実際立つと面子の事もあって無茶は言えないものだ。

「それであの願いかぁ。まぁそれもいっか」

 私の願い。それは「この城の資料室への自由な出入りの権利」だった。
 お金で買えるものでなく、思いついたのはこれだった。
 ここの資料室は少し入っただけだったけど、かなりの資料があった。
 私の今後も含めて考えて出入りができるようになっていても損はない。
 ガルド公も「なんじゃ、そんなことか?」と言っていたけど、電話のないこの世界では確認を取るのも億劫で仕方ないから便利な権利だと思う。

「知識は身を救うかも知れませんので」
「言われてみればそうよね。言う通りだわ。それと私はユリちゃんの方も感動したわ。自分の願いをお兄さんのために使うなんてね」

 ユリは結局新しい願いを聞かれた時に出したのは「兄のガルド領内での自由な商業権」だった。
 兄は駆け出しでまだまだ販路と人脈を広げていきたい。そのための手助けがしたいと言う願いをガルド公は何も言わずに了承してくれた。
 
「私も子どもが出来たらあなたたち見たいな優しい子が育つように努力しないとね」
「頑張って下さい。ルシアさんならきっと大丈夫」
「褒め上手でほんと可愛いわ貴方」

 ルシアさん、見た目は派手で初対面はやばいと思ったけど、中身はめちゃくちゃいい人だ。私も逆に見習いたいくらい。

「でももう少しでまたお別れね。来年また会えるの楽しみにしておくわ」
「そういえばルシアさんって住んでる所遠いんですか?」
「結構遠いわよ。だから仕事しながらじゃなかなかこっちに来れないのよ。去年も遊びに来てとは言ってくれたけど行かなくてごめんね」
「いえいえ、お仕事ですもの仕方ないですよ」

 むしろフランソワがそこまで懐いてたのがまたまた驚きで仕方ない。私の知ってるフランソワとは違うんだと改めて思う。

「自分で言うのもなんだけど、私は派手目が好きでさ。だから割と浮くのよね、だけど貴方は話しかけてくれた。きっかけは香水だったけどさ。それでも去年貴方と話して、また会えると思ったから楽しみに来たのよ」
「そこまで言ってもらえると照れますよ」

 ワインをテーブルに置いて両手で私を包んだ。
 アルコール独特の香りがルシアさんの吐息と一緒に流れてくる。
 一瞬呆気に取られたけど、私はルシアさんの背中に手を回した。
 きっとフランソワもそうしたと私は思ったから。

「またね。フランソワ」
「はい。ルシアさんもお元気で」

 お互いの体から手を離して顔を見合わせてお互い笑います。

「なんだ。酔ってるのか? 飲み過ぎだぞ」

 旦那さんがルシアさんを後ろから嗜めた。
 この人はこの人で見た目めちゃくちゃ怖い。だけど知っているこの人は見た目通りの人じゃないことを。それがこの3日で学んだことの1つ。

「女同士の別れよ。いいじゃない! ねぇ、フランソワ?」
「そうです! 私はルシアさんを堪能してましたので!」
「そ、それならいいんだが」

 私達の冗談にたじろぐ旦那さん。
 そんな私達の楽しい時間はどんどん過ぎていくのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。  今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。  王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。  婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!  おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。  イラストはベアしゅう様に描いていただきました。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

気が付けば悪役令嬢

karon
ファンタジー
交通事故で死んでしまった私、赤ん坊からやり直し、小学校に入学した日に乙女ゲームの悪役令嬢になっていることを自覚する。 あきらかに勘違いのヒロインとヒロインの親友役のモブと二人ヒロインの暴走を抑えようとするが、高校の卒業式の日、とんでもないどんでん返しが。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

処理中です...