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ガルド城の秘密
第93話-問答-
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「それは言えないな」
目の前の男は明確には答えなかった。
でもそれでも今は会話で時間を稼ぐしかない。時間が経てば解決することでもないのは分かっているが、手当をする時間だけでも稼がなければならない。
「そう言えば君は見たことあるな。テラスで見た子か。よく暗闇の中で見つけたよね。偶然?」
初日のパーティーの時に見たのはこいつだったのか。そしたら次なる疑問が湧いて来る。
「あんなとこで何をしてたんですか? わざわざ侵入者が人の集まるとこに近づく利点などないと思いますが」
「内緒。色々とね」
肝心の所は答えない。あくまで自分の語りたい所だけ語って来る。
「短剣を構えて立ってるのはいいけど、女の子が剣を扱えるの?」
「私も騎士を目指す者ですから」
「女の子で初めて聞いたよ。家で訓練してるの? だったら無駄な抵抗はやめときなよ」
「生憎ですが、騎士学校の生徒ですので」
「そうなんだ。時代は変わったね。僕がいた時は女の子が騎士を目指すなんて無かったよ」
「騎士を目指す学校出身者が魔法信者をやっているなんて。堕ちましたね」
「どう思うかは、君の自由だよ」
そこで会話は終わった。
これ以上時間は稼げない。そして今斬り込まれたら私は後ろにも引けない。だから会話をしながら少しずつ距離を詰めた。
そして私から斬り込んだ。
相手はまだ剣を抜いていない。余裕が、慢心がそこにはある。
だから先に武器を出している私から攻めた。先に一撃が入れば私の勝ち。そうでなくてもペースを握ってここから引き離す。
そう考えて自分を納得させた。そう考えないと身体が動かなかったから。
立ち振る舞いから分かる。圧倒的な力量の差を。
剣を抜かれたら真っ正面からの勝負では話にならない。
だから私は殺すつもりで、自分の全てを全力でぶつける。
「無理だよ」
私の一撃は当然かわされた。だけどその場から引き離すことは出来た。
そして距離を詰めたからこそ、短刀の有利な場面を作り出した。
だが有利な状況でもそれはすぐに一転した。
後方に避けるのと同時に腰に掛けた長剣を抜刀した。左手で鞘を抑え、右手で剣の柄を握り抜刀の勢いで剣を振う。
何より私が驚いたのは攻めへの転じ方でも、ましても身のこなしでもない。
引き抜かれた刀身が炎に包まれている。その事に驚きを隠せなかった。
「初めて見るだろ、僕以外でこんなの使ってる人見たことないしね」
「えぇ、そうですね。あなた達お得意の見せかけの魔法ですよね」
「うん、そうだよ」
さっきの奴ならここで琴線に触れて起こり散らしていた。だけどこの男は違う。私の言葉を肯定した。
「だから完全なものにするために、探しているんだ」
振り下ろされる燃える剣を短刀で防ぐ。
上空からの一撃を流すために斜めに受けたが、剣は私が受けた所で短刀とかち合っている。
右に逸らすのに対して、短刀の上で停止させるために鍔の方に力を入れられている。
そこに気付いてもそれを受け流すための行動に移せない。
こちらの方が剣への距離が近い、だから炎の熱気を一身に受けてしまう。熱で体力が奪われる。
特に手元の熱さが異常だ。
私は無我夢中で膠着状態から抜け出すために力一杯短剣受けながら反転させた。
鍔迫り合いから抜け出して、思わず距離を取ってしまう。
「見た目だけの物かと思いましたがそうでもないですね」
「ありがとう。火はいいよね。明かりの代わりにもなるし、寒い時には暖を取れる。所で、君は寒い中で放り出された事はある?」
この場面で理解し難い質問だった。
「ないですね」
「だろうね。この城に居るんだから良いとこの娘さんだろうに」
「それがどうかしましたか? 私は今の家が、家族が居て幸せだとは自負しています」
「そしたら火の大切さは知らないだろうな。僕は貧しい村の出身でね、だから暖を取るための火は神様のように見えたね。これが自在に操ることが出来たら……すごいと思わない?」
「それが、あなたが魔法信者になった理由ですか」
人のおい立ちには様々ある。それは当然だ。人それぞれに人生があるのだから。でもそれを言われても私は困る。おい立ちを聞いても私には何もする事はできないのだから。
「それであれば、貴方の探す『魔法』を見つけるために協力すれば良いのでは? こんな力を振るうのではなく」
「それもあったかも知れない。だけど、君たちは違うだろ、魔法信者を異常者の様に扱う。だから協力する事が出来なくなった」
燃える剣を納刀しながら言った。
最初より火の勢いが弱まっていた。燃える時間制限の様なものがあるらしい。
「そして、今、顔も知らない同志を君達は傷付けた、だから僕はそのために力を振るうのさ」
この男も同じだ。こちらが反撃したのは向こうから襲って来たからだ。それでも、頭の中では私達が悪いと言う事になる。
私が倒れたら後ろの2人にも危害が及ぶ。私が立っている間に後ろの2人だけでも逃さなければならない。それか、私が何がなんでもこの目の前の男を排除する、そしてこの危機を脱するしかない。
それが騎士を目指す者としての矜持だ。
目の前の男は明確には答えなかった。
でもそれでも今は会話で時間を稼ぐしかない。時間が経てば解決することでもないのは分かっているが、手当をする時間だけでも稼がなければならない。
「そう言えば君は見たことあるな。テラスで見た子か。よく暗闇の中で見つけたよね。偶然?」
初日のパーティーの時に見たのはこいつだったのか。そしたら次なる疑問が湧いて来る。
「あんなとこで何をしてたんですか? わざわざ侵入者が人の集まるとこに近づく利点などないと思いますが」
「内緒。色々とね」
肝心の所は答えない。あくまで自分の語りたい所だけ語って来る。
「短剣を構えて立ってるのはいいけど、女の子が剣を扱えるの?」
「私も騎士を目指す者ですから」
「女の子で初めて聞いたよ。家で訓練してるの? だったら無駄な抵抗はやめときなよ」
「生憎ですが、騎士学校の生徒ですので」
「そうなんだ。時代は変わったね。僕がいた時は女の子が騎士を目指すなんて無かったよ」
「騎士を目指す学校出身者が魔法信者をやっているなんて。堕ちましたね」
「どう思うかは、君の自由だよ」
そこで会話は終わった。
これ以上時間は稼げない。そして今斬り込まれたら私は後ろにも引けない。だから会話をしながら少しずつ距離を詰めた。
そして私から斬り込んだ。
相手はまだ剣を抜いていない。余裕が、慢心がそこにはある。
だから先に武器を出している私から攻めた。先に一撃が入れば私の勝ち。そうでなくてもペースを握ってここから引き離す。
そう考えて自分を納得させた。そう考えないと身体が動かなかったから。
立ち振る舞いから分かる。圧倒的な力量の差を。
剣を抜かれたら真っ正面からの勝負では話にならない。
だから私は殺すつもりで、自分の全てを全力でぶつける。
「無理だよ」
私の一撃は当然かわされた。だけどその場から引き離すことは出来た。
そして距離を詰めたからこそ、短刀の有利な場面を作り出した。
だが有利な状況でもそれはすぐに一転した。
後方に避けるのと同時に腰に掛けた長剣を抜刀した。左手で鞘を抑え、右手で剣の柄を握り抜刀の勢いで剣を振う。
何より私が驚いたのは攻めへの転じ方でも、ましても身のこなしでもない。
引き抜かれた刀身が炎に包まれている。その事に驚きを隠せなかった。
「初めて見るだろ、僕以外でこんなの使ってる人見たことないしね」
「えぇ、そうですね。あなた達お得意の見せかけの魔法ですよね」
「うん、そうだよ」
さっきの奴ならここで琴線に触れて起こり散らしていた。だけどこの男は違う。私の言葉を肯定した。
「だから完全なものにするために、探しているんだ」
振り下ろされる燃える剣を短刀で防ぐ。
上空からの一撃を流すために斜めに受けたが、剣は私が受けた所で短刀とかち合っている。
右に逸らすのに対して、短刀の上で停止させるために鍔の方に力を入れられている。
そこに気付いてもそれを受け流すための行動に移せない。
こちらの方が剣への距離が近い、だから炎の熱気を一身に受けてしまう。熱で体力が奪われる。
特に手元の熱さが異常だ。
私は無我夢中で膠着状態から抜け出すために力一杯短剣受けながら反転させた。
鍔迫り合いから抜け出して、思わず距離を取ってしまう。
「見た目だけの物かと思いましたがそうでもないですね」
「ありがとう。火はいいよね。明かりの代わりにもなるし、寒い時には暖を取れる。所で、君は寒い中で放り出された事はある?」
この場面で理解し難い質問だった。
「ないですね」
「だろうね。この城に居るんだから良いとこの娘さんだろうに」
「それがどうかしましたか? 私は今の家が、家族が居て幸せだとは自負しています」
「そしたら火の大切さは知らないだろうな。僕は貧しい村の出身でね、だから暖を取るための火は神様のように見えたね。これが自在に操ることが出来たら……すごいと思わない?」
「それが、あなたが魔法信者になった理由ですか」
人のおい立ちには様々ある。それは当然だ。人それぞれに人生があるのだから。でもそれを言われても私は困る。おい立ちを聞いても私には何もする事はできないのだから。
「それであれば、貴方の探す『魔法』を見つけるために協力すれば良いのでは? こんな力を振るうのではなく」
「それもあったかも知れない。だけど、君たちは違うだろ、魔法信者を異常者の様に扱う。だから協力する事が出来なくなった」
燃える剣を納刀しながら言った。
最初より火の勢いが弱まっていた。燃える時間制限の様なものがあるらしい。
「そして、今、顔も知らない同志を君達は傷付けた、だから僕はそのために力を振るうのさ」
この男も同じだ。こちらが反撃したのは向こうから襲って来たからだ。それでも、頭の中では私達が悪いと言う事になる。
私が倒れたら後ろの2人にも危害が及ぶ。私が立っている間に後ろの2人だけでも逃さなければならない。それか、私が何がなんでもこの目の前の男を排除する、そしてこの危機を脱するしかない。
それが騎士を目指す者としての矜持だ。
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