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ガルド城の秘密
第90話-知らないユリ-
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「何? どう言う事……?」
ユリの言葉を理解できずに私は岩陰から気をつけて顔を覗かせた。
さっきまで近くに立っていたユリは既に居ない。
ユリの姿はローブ男へと迫っていた。
その姿は私の記憶の中にあるユリとはどれとも一致しなかった。
ゲームの中でのユリとも、ここに来て一緒に行動してきたユリとも違う。
静かだけど荒々しい戦い方。
時折見える横顔に表情はなかった。ただ黙々と抵抗する敵にダメージを与えるために武器を振るっている。
そして戦いはユリが押していた。気迫に負けて恐怖で引き腰のローブ男、手に持つ短刀でなんとか凌いでいると言うのが見ている側としても分かる。
その顔にさっきまでの嬉々とした表情なんかなく、焦りが見えている。
攻防が一方的な戦い、だけどその均衡が崩れた。
ユリの一撃がローブ男の片手にあった短刀を弾き飛ばした。
両手でようやく凌いでいた状況から片手になると一方的な攻撃が一層激しくなった。
ローブ男は体勢を崩して尻餅をついた。
そしてついに反撃に出た。残った片手にある短刀をユリに振るった。だけどその刃が届く事はなかった。無常にも短刀で弾かれた。
そのままユリの膝がローブ男の顔面へと入った。
見ている側でもその痛々しい場面に目を一瞬背けてしまう。
「あっ……がっ……」
声にならない声を上げてローブ男が後ろに倒れた。
「ユリ! 待って! やりすぎよ!」
ユリは倒れたローブ男に向かって短刀を胸元目掛けて振り下ろすため狙いを定めたのが分かった。
地面に膝をついて狙いを外さないよう距離を詰める。
私はユリを止める言葉と共にユリを背後から抱きしめた。
ここ数日で嗅ぎ慣れたユリの香りが今までで一番近く感じている。
「フランソワ様、出て来てはいけません。それにやりすぎなんかじゃ無いですよ」
「勝負はついたわ。あなた相手を殺そうとしてなかった!?」
「えぇ、そうじゃないと駄目です。向こうだってこっちを殺そうとしたんですから」
「それなら動けない様にするとかあるじゃない」
ユリの言葉は冷酷だ。さっきまでとは声のトーンも違って聞こえる。そこにいるのはユリの姿をした別人のように見える。
「ほら、早くしないと」
私の制止を振り解いてユリは右足でローブ男の腹部を踏みつける。思いっきり踏み込んだ右足は腹部にめり込んだ。
痛がって顔を抑えていたローブ男の手の内側から何かを吐き出すような、破裂する様な声とも音とも取れるものが聞こえた。
「私はいつか近衛騎士になりたいのです。今からでも主人を守れる様に、無法者には然るべき対処をしなければ行けません。ご理解下さい」
言葉は丁寧だ。だけど、表面だけだ。
ユリに私の言葉は届かない。ユリは地べたでもがくローブ男に近づいて短刀を振りかぶって振り下ろそうとした。
「こっちは片付けたぞ! 大丈夫か、2人とも!?」
通路から走って姿を現したのは何故かローブを身に纏ったバレルさんだった。
ユリの言葉を理解できずに私は岩陰から気をつけて顔を覗かせた。
さっきまで近くに立っていたユリは既に居ない。
ユリの姿はローブ男へと迫っていた。
その姿は私の記憶の中にあるユリとはどれとも一致しなかった。
ゲームの中でのユリとも、ここに来て一緒に行動してきたユリとも違う。
静かだけど荒々しい戦い方。
時折見える横顔に表情はなかった。ただ黙々と抵抗する敵にダメージを与えるために武器を振るっている。
そして戦いはユリが押していた。気迫に負けて恐怖で引き腰のローブ男、手に持つ短刀でなんとか凌いでいると言うのが見ている側としても分かる。
その顔にさっきまでの嬉々とした表情なんかなく、焦りが見えている。
攻防が一方的な戦い、だけどその均衡が崩れた。
ユリの一撃がローブ男の片手にあった短刀を弾き飛ばした。
両手でようやく凌いでいた状況から片手になると一方的な攻撃が一層激しくなった。
ローブ男は体勢を崩して尻餅をついた。
そしてついに反撃に出た。残った片手にある短刀をユリに振るった。だけどその刃が届く事はなかった。無常にも短刀で弾かれた。
そのままユリの膝がローブ男の顔面へと入った。
見ている側でもその痛々しい場面に目を一瞬背けてしまう。
「あっ……がっ……」
声にならない声を上げてローブ男が後ろに倒れた。
「ユリ! 待って! やりすぎよ!」
ユリは倒れたローブ男に向かって短刀を胸元目掛けて振り下ろすため狙いを定めたのが分かった。
地面に膝をついて狙いを外さないよう距離を詰める。
私はユリを止める言葉と共にユリを背後から抱きしめた。
ここ数日で嗅ぎ慣れたユリの香りが今までで一番近く感じている。
「フランソワ様、出て来てはいけません。それにやりすぎなんかじゃ無いですよ」
「勝負はついたわ。あなた相手を殺そうとしてなかった!?」
「えぇ、そうじゃないと駄目です。向こうだってこっちを殺そうとしたんですから」
「それなら動けない様にするとかあるじゃない」
ユリの言葉は冷酷だ。さっきまでとは声のトーンも違って聞こえる。そこにいるのはユリの姿をした別人のように見える。
「ほら、早くしないと」
私の制止を振り解いてユリは右足でローブ男の腹部を踏みつける。思いっきり踏み込んだ右足は腹部にめり込んだ。
痛がって顔を抑えていたローブ男の手の内側から何かを吐き出すような、破裂する様な声とも音とも取れるものが聞こえた。
「私はいつか近衛騎士になりたいのです。今からでも主人を守れる様に、無法者には然るべき対処をしなければ行けません。ご理解下さい」
言葉は丁寧だ。だけど、表面だけだ。
ユリに私の言葉は届かない。ユリは地べたでもがくローブ男に近づいて短刀を振りかぶって振り下ろそうとした。
「こっちは片付けたぞ! 大丈夫か、2人とも!?」
通路から走って姿を現したのは何故かローブを身に纏ったバレルさんだった。
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