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ガルド城の秘密
第73話-月の奇跡-
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玄関ホールは深夜でも明かりが消えることなく明るいままの状態だった。
ただ人は少なくて私を除いて2人しかいない。
見覚えのある執事服の人と武装した警備兵だ。
私は執事服の人の方に向かった。
「あのー。すみません、水はどこ行けば貰えますか?」
「これは昼間のお嬢様。水ですか、それなら厨房へ。ご案内いたしますよ」
やっぱり今日ガルド公の所へ案内してくれた人だった。
「こんな時間までお仕事なんて大変ですね」
「いえいえ、あの後私は休ませて貰っておりましたので全然大変ではございませんよ」
確かに顔色もいいし無理をしてる感じはしない。勤務体系は余程いいと見える。
「こんな時間に私みたいに人が来ることは結構有るんですか?」
「0ではございませんね。先程も1名こられておりましたよ」
「夜空を見るためにテラスに出たいって言う人とかですか?」
「よくご存じで。ルシア様は毎年夜空を見られますので」
毎年とは恐れ入った。本当に好きなんだと改めて認識させられた。
「この時期は1番綺麗に見える時期だと毎年楽しみにしているそうです」
「私にも教えてくれましたよ」
確かに昨日ユリとテラスで話していた時も綺麗な夜空が広がっていた。夢中になる気持ちも分からないでもない。
ここに有る灯りの輝きとはまた違った明るさには風情を感じずにはいられない気持ちになる。
ここの明かりを灯すためにあるシャンデリアも豪華で綺麗ではあるけど、あくまで人工物の綺麗さで、それぞれベクトルの違いがあるのだから比べることはできない。
シャンデリアを見るために上を見上げた時気になるものを見つけた。
「変わったところに天窓があるんですね」
壁の部分の上の方に両左右に天窓があった。上を見ないとまずちゃんと見ることのない窓だ。
「えぇ、こうして深夜に待機している時にあそこから見える月は綺麗で、たまに見上げると気分転換になりますよ」
確かにちょうど片側に三つ並んだ天窓の真ん中に月が丸く見えている。
「そうなんですね。パーティー開催期間以外もここは深夜でも明かりをつけているんですか?」
「いえいえ、この時期だけですよ。それ以外はお昼に言った通りほとんど人はいません。居ても外での警備のみです」
そんな話をしていると厨房に着いていた。水差しを渡して水を入れてもらう。その間に私はグラスに水を入れてもらって喉を潤す。
冷たい水が乾いた喉に染み渡る。眠気が少し飛んだ気がする。
「ありがとうございます。美味しかったです」
グラスを返して水差しを受け取る。さっきとは違ってしっかりと重みを感じる。
「戻りましょうか」
執事服の人の後を追って玄関ホールへと戻る。
さっきの天窓が気になって上を眺める。
「確かに四角の天窓に丸い月がぴったりとはまって綺麗ですね。いい時期に見れたかも」
「気に入って頂けたなら良かった。また来年もぴったりとはまった月を見に来てください」
「来年はどうでしょう。なかなか綺麗に天窓にはまるものでもないでしょう」
「いえいえ、毎年2日目の深夜にはあそこにぴったりはまるのですよ。それを見るのが私の気分転換です」
毎年……。あの窓にぴったりと?
偶然かもしれないけどあの窓があるコースを月が通る。そんなことあるもんなのか。多少ズレるものではないのか。
玄関ホールと2階を繋ぐ階段の踊り場から下を見渡す。あるのは玄関扉、そして女性の像。
上にはシャンデリアと月の見える天窓。
「少しいいですか。あちらにいる警備の方は専属でお城の警備を?」
「えぇ、そのはずです。聞いてみますか」
「お願いします」
一緒に階段を降りて扉にいる警備兵の元へと向かう。
「少しいいかね」
「はっ、バラン執事長! どうされましたか?」
この人執事長だったの!? 夜中に駆り出されてるし長には全く見えなかったんだけど!
「君は城の専属警備をしているのか?」
「はい! こちらに常駐しております」
「とのことだ。何か気になることでもあれば聞いてみるといい」
警備兵の反応を見るに本当にお偉いさんなんだと納得してしまう。
「玄関ホールを夜中見回ったりはしたことありますか?」
「ありますよ。どうかされましたか?」
「あそこの天窓から月が見えることはありますか?」
天窓を指差して聞いてみる。
「いえ、見えたことはなかったかと。あそこからの侵入がないかも見ていますので、間違いありません」
「うむ、良い見回りだ。今後も頼むぞ」
「はっ!」
つまりこのタイミングでしかあの天窓からは月が見えないと言うことらしい。
もしかして…。
「最後に1つ、我儘を聞いてくれませんか?」
「事によりますが、なんでしょうか」
「少しでいいのでここの明かりを消してもらえませんか?」
「えっ、いや…それは防犯上厳しいかと」
「お願いします! 少しだけでいいんです。1分も入りません」
困惑する警備兵に頭を下げてなんとか聞いてみる。警備兵の言うことはごもっともだ。でも1つ確認してみたいことがどうしてもある。私も引き下がれない。
「何かあれば私をガルド公へ突き出してください! なんとかお願いできませんか!?」
横から優しく肩を叩かれた。肩を叩いたのは執事長のバランさんだった。
「少しだけですよ」
「よろしいのですか?」
「少しだけなら構わないでしょう。私も君の話を聞いて少しあの天窓から見える月が気になってね。明かりがない時に見える月が見たくなった。何かあれば私が責任を取る。お嬢様の頼み方も興味本位では無さそうだ、良いではないか」
「バラン執事長が言われるのであれば、代わりに私はこの扉の前を離れません。なので、明かりを消すのはバラン執事長にお願いしたいのですが」
「当然だ。私がやろう。ではお嬢様は好きな場所へどうぞ。ただ短い間です。それはご了承下さい」
「ありがとうございます! 決してこれ以上のお願いは致しません! お約束します!」
バランさんは私の言葉を聞き届けると部屋の隅へと移動する。そこにあるのは大きなレバーだ。
私は部屋の真ん中にある像をしっかりと見れる場所へ陣取る。
着いた私はレバーの場所で待機するバランさんに身振りで合図をした。
合図が帰ってきて間もなく玄関ホールの明かりが消えた。
ただ人は少なくて私を除いて2人しかいない。
見覚えのある執事服の人と武装した警備兵だ。
私は執事服の人の方に向かった。
「あのー。すみません、水はどこ行けば貰えますか?」
「これは昼間のお嬢様。水ですか、それなら厨房へ。ご案内いたしますよ」
やっぱり今日ガルド公の所へ案内してくれた人だった。
「こんな時間までお仕事なんて大変ですね」
「いえいえ、あの後私は休ませて貰っておりましたので全然大変ではございませんよ」
確かに顔色もいいし無理をしてる感じはしない。勤務体系は余程いいと見える。
「こんな時間に私みたいに人が来ることは結構有るんですか?」
「0ではございませんね。先程も1名こられておりましたよ」
「夜空を見るためにテラスに出たいって言う人とかですか?」
「よくご存じで。ルシア様は毎年夜空を見られますので」
毎年とは恐れ入った。本当に好きなんだと改めて認識させられた。
「この時期は1番綺麗に見える時期だと毎年楽しみにしているそうです」
「私にも教えてくれましたよ」
確かに昨日ユリとテラスで話していた時も綺麗な夜空が広がっていた。夢中になる気持ちも分からないでもない。
ここに有る灯りの輝きとはまた違った明るさには風情を感じずにはいられない気持ちになる。
ここの明かりを灯すためにあるシャンデリアも豪華で綺麗ではあるけど、あくまで人工物の綺麗さで、それぞれベクトルの違いがあるのだから比べることはできない。
シャンデリアを見るために上を見上げた時気になるものを見つけた。
「変わったところに天窓があるんですね」
壁の部分の上の方に両左右に天窓があった。上を見ないとまずちゃんと見ることのない窓だ。
「えぇ、こうして深夜に待機している時にあそこから見える月は綺麗で、たまに見上げると気分転換になりますよ」
確かにちょうど片側に三つ並んだ天窓の真ん中に月が丸く見えている。
「そうなんですね。パーティー開催期間以外もここは深夜でも明かりをつけているんですか?」
「いえいえ、この時期だけですよ。それ以外はお昼に言った通りほとんど人はいません。居ても外での警備のみです」
そんな話をしていると厨房に着いていた。水差しを渡して水を入れてもらう。その間に私はグラスに水を入れてもらって喉を潤す。
冷たい水が乾いた喉に染み渡る。眠気が少し飛んだ気がする。
「ありがとうございます。美味しかったです」
グラスを返して水差しを受け取る。さっきとは違ってしっかりと重みを感じる。
「戻りましょうか」
執事服の人の後を追って玄関ホールへと戻る。
さっきの天窓が気になって上を眺める。
「確かに四角の天窓に丸い月がぴったりとはまって綺麗ですね。いい時期に見れたかも」
「気に入って頂けたなら良かった。また来年もぴったりとはまった月を見に来てください」
「来年はどうでしょう。なかなか綺麗に天窓にはまるものでもないでしょう」
「いえいえ、毎年2日目の深夜にはあそこにぴったりはまるのですよ。それを見るのが私の気分転換です」
毎年……。あの窓にぴったりと?
偶然かもしれないけどあの窓があるコースを月が通る。そんなことあるもんなのか。多少ズレるものではないのか。
玄関ホールと2階を繋ぐ階段の踊り場から下を見渡す。あるのは玄関扉、そして女性の像。
上にはシャンデリアと月の見える天窓。
「少しいいですか。あちらにいる警備の方は専属でお城の警備を?」
「えぇ、そのはずです。聞いてみますか」
「お願いします」
一緒に階段を降りて扉にいる警備兵の元へと向かう。
「少しいいかね」
「はっ、バラン執事長! どうされましたか?」
この人執事長だったの!? 夜中に駆り出されてるし長には全く見えなかったんだけど!
「君は城の専属警備をしているのか?」
「はい! こちらに常駐しております」
「とのことだ。何か気になることでもあれば聞いてみるといい」
警備兵の反応を見るに本当にお偉いさんなんだと納得してしまう。
「玄関ホールを夜中見回ったりはしたことありますか?」
「ありますよ。どうかされましたか?」
「あそこの天窓から月が見えることはありますか?」
天窓を指差して聞いてみる。
「いえ、見えたことはなかったかと。あそこからの侵入がないかも見ていますので、間違いありません」
「うむ、良い見回りだ。今後も頼むぞ」
「はっ!」
つまりこのタイミングでしかあの天窓からは月が見えないと言うことらしい。
もしかして…。
「最後に1つ、我儘を聞いてくれませんか?」
「事によりますが、なんでしょうか」
「少しでいいのでここの明かりを消してもらえませんか?」
「えっ、いや…それは防犯上厳しいかと」
「お願いします! 少しだけでいいんです。1分も入りません」
困惑する警備兵に頭を下げてなんとか聞いてみる。警備兵の言うことはごもっともだ。でも1つ確認してみたいことがどうしてもある。私も引き下がれない。
「何かあれば私をガルド公へ突き出してください! なんとかお願いできませんか!?」
横から優しく肩を叩かれた。肩を叩いたのは執事長のバランさんだった。
「少しだけですよ」
「よろしいのですか?」
「少しだけなら構わないでしょう。私も君の話を聞いて少しあの天窓から見える月が気になってね。明かりがない時に見える月が見たくなった。何かあれば私が責任を取る。お嬢様の頼み方も興味本位では無さそうだ、良いではないか」
「バラン執事長が言われるのであれば、代わりに私はこの扉の前を離れません。なので、明かりを消すのはバラン執事長にお願いしたいのですが」
「当然だ。私がやろう。ではお嬢様は好きな場所へどうぞ。ただ短い間です。それはご了承下さい」
「ありがとうございます! 決してこれ以上のお願いは致しません! お約束します!」
バランさんは私の言葉を聞き届けると部屋の隅へと移動する。そこにあるのは大きなレバーだ。
私は部屋の真ん中にある像をしっかりと見れる場所へ陣取る。
着いた私はレバーの場所で待機するバランさんに身振りで合図をした。
合図が帰ってきて間もなく玄関ホールの明かりが消えた。
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