悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ

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ガルド城の秘密

第70話-不気味な商人-

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 資料室へと戻る直前で見慣れない姿の人を見た。この城で働く人は資料室の前をよく通っている、だけどその人は少なくとも城で働く人じゃない。
 そんな人物が資料室の手前にいた。

「これはこれは先程のお嬢様、先程は挨拶もできずすみません。私はホースと申します」

 にこやかな笑顔に丁寧な言葉で私に話しかけて来たのはルシアさんが商談していた商人だった。

「いえいえ。こんな所で何を? 道に迷ったとか?」
「お恥ずかしい話しながらそうでございまして。この度は初めてこの城にお誘い頂きまして、不慣れなもので」
「それならあっちに行けば、皆さんがよく使われている部屋がある方ですよ」

 さっきルシアさんに会った方向への道を指差した。

「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、こんな物に興味はありませんか?」

 そう言って見せてきたのはバトンのような物。小さな杖と言っても良さそうな祭具にも見える。あまり趣味の良い物には正直見えない。

「特にはないんですけど……。なんで私に?」
「まずは聞いてみないと分かりませんからね。私の取り扱うものはこう言った術具や祭具、あまり一般には出回らない希少価値の高いようなものでして」

 胡散臭いことこの上なかった。

「いい香水があるってルシアさんから聞いたんですけど、それなら少し興味あるかも」
「これですね。お試し品をどうぞ」

 小さな小瓶に入った紫の液体を受け取る。
 見た目は透き通っていて薄めの紫といった感じだった。

「山奥の部族が豊作の祈りに使用する花を絞って作っております」

 蓋を開けて少し嗅いでみる。独特の甘い香りが鼻を通っていく。たしかに嫌いじゃない。

「元々この花は毒花でして、それを大地から取り除いて豊作を祈ると言う物です。昔はその花で外敵から身を守るために毒として使用していたり、掟を破った者を処罰するための毒として使用していたとも聞きますね」
「なんだか物騒な話ですね」
「物騒ついでに注意点を。あまり火に近づけないこと。可燃性のものでありますので、お身体に振りかける以外には使用しないでください」
「えっ、そうなんですか。なんか振るの怖いかも」
「まぁ身体に火をつけない限りは大丈夫ですよ。そんな人いませんからね」
「確かに、余程の自殺志願者かも」

 饒舌に話すこの人の話にはなんだかついていけない気がした。
 物はいいのにいかんせん話も全てうさんくさい。

「他にもたくさん面白い、聞いたこともないであろう話がありますよ。どこかで座ってお話ししましょうか」
「せ、折角ですが友達を待たせているので」
「それは残念です。ところであなたはこの先でお友達を待たせているのですか?」

 「この先には何があるのか?」そう聞かれている気がした。
 たしかにこの辺りは普通の参加者は来ない。私もこの人が最初なぜここに居るのか疑問に持った。相手も私に対してそう思うのは当たり前のことだ。
 だからこの先々にある部屋を私は知っていると思われたに違いない。

「そうなんです。ガルド公から頼まれて探し物をしていて、私は少し用事があって出ていたんですよ」
「……そうでしたか。それは大変ですね。お手伝いできる事があればお手伝いしますよ」
「いえいえ、『学生だし手伝いでもして小遣いが欲しいだろう』と言って頂いて仕事をもらいましたので、手伝って頂くわけにはいきませんので」

 誤魔化して私は返答した。

「そうでしたか。立派なことで。お邪魔するのも悪いですね私はこれで失礼します」

 特に私の返答を気にすることもなくホースさんは私の来た道の方へと歩いて行った。
 なんとも言えない空気を放つホースさんを私は少し怖く感じた。
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