上 下
37 / 418
白と黒の騎士

第25話-雨の中で-

しおりを挟む
 私とヤンは宿から出てさっき走った道を登る方向に歩いていた。行きかう人たちを傍目に町並みはきれいになっていく。下層から中層、中層から高層へと登って行っている。

「こんな状況じゃなかったらヤンとの楽しい散策なのにね」
「案外余裕そうじゃねーか。さっきの一件でベソかいてたから、もっと追い込まれてんのかと思ってたぜ」
「あんな状況じゃ泣きたくもなるわよ! 本当に怖かったんだから」

 短刀を構えた男が近寄ってくることを思い出すだけとさっきまでの恐怖がよみがえる。

「だったら、ちゃんと気をつけろよ」
「うん」

 ヤンの近くを離れないようにヤンの後ろにくっついて歩く。彼の歩調に合わせているつもりだけど、彼の方が私の方をたまに見て合わせてくれている。

「ちっ。降ってきやがった」

 そう悪態をつくと私の頭にも水が落ちてきた。その一滴を皮切りに湿気のにおいと地面に水が落ちる音があたりに広がった。
 往来の人はみんな屋根のある場所へと一目散に逃げていく。傘を持つ人はそれを広げて変わらずに歩いている。
 シンプルな色の傘が広がって、さっきまでネズミ色と人で彩られてた道は色を散りばめたなパレットのようになった。
 「走るぞ」と言って私の手を引くヤンを私は逆に引っ張った。

「待って。こっち」

 私は朝アリスに教えてもらった雑貨屋に入った。そして売り場から品物がなくなる前に傘を2本買った。黒と白の傘を。

「これ。お礼もちゃんとしてなかったし」
「別にいいよ。雨なんて気にしねぇ」
「だめ。濡れたら風邪ひいちゃうじゃない。だからさしてね」

 黒の傘をヤンの腕に無理やり握らせる。

「分かったよ。けどあんまり離れんなよ。何かあってからじゃ遅いんだ」
「分かってる。頼りにしてる」

 黒の傘を射して歩くヤンを私はすごくかっこいいと改めて思ってしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:305pt お気に入り:4,215

この部屋はお兄ちゃん絶対王政だからな!

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

愛し合えない夫婦です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:594

そう言うと思ってた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:921

睦月の桜が咲き誇る頃

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

薔薇の寵妃〜女装令嬢は国王陛下代理に溺愛される〜完結

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:709

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:4,669

還暦記念

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...