恋喰らい

葉月キツネ

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エピローグ

彼女の結末

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「おかえり。」

 扉の開く音とともに渋い年季の入った男性の声が響く。

 扉を開けてきた女性は何も言わずに冷蔵庫へと向かい、牛乳を取り出だした。
 そしてカウンター裏の棚から緑の袋に入った抹茶粉を取り出す。

 その瞬間静かなクラシック音楽が女性のポケットから鳴り響いた。

 ポケットから取り出した携帯の画面を見て女性の眉間にしわが寄る。
 怒りと蔑みを含んだ感情が表情に写る、女性の普段の様子からは予想もできない表情、2コールの後に画面のベルマークを押して耳に当てた。

「いつもあなたはタイミングを見計らったように電話をかけてくるのね。そういうところ大嫌い。」

 普段の女性の声より低く、妖艶な声で嫌悪の言葉を放つ。

「いやー、それはただの偶然だよ。運がいいんだね僕は。」

 飄々とした声が返ってくる。

「どうだった彼は?結構ベストなタイミングで動いてくれただろう。君に夢中だったからね。『誘惑』ってすごいよね僕もそんな能力ほしいな。とても便利そうだ、恋喰らいになりたいとは思わないけどね。」

「そうね、空腹を満たすには必要な能力よ。けど面倒くさいやつに好かれるのも難点なのが問題よ。」

「そうかな。それでも僕は欲しいな。」

 嫌味の話にも飄々と余裕で軽口を返す、それだけ余裕のある話し方。

「あなたに貸しを作るのは嫌なのだけれど、心を好みの味に仕立てあげるには手を借りないといけないのが悲しいところね。」

「貸しだなんて水臭いこと言わないでくれよ。前園さんと僕の仲じゃないか。これはただ僕が面白いと思ったからしてることだよ。僕は面白いと思うことしかしないんだ。」

 男性が電話の向こうで笑った。

「けど彼は面白かったね。まるで犬のような子だった。彼の味はどうだった、いい味になったかい?」

「そうねぇ、ただ甘い味がしたわ、苦みなんてほとんどないの、単調な味。ハズレね。」

「そうか。それは残念だ。」

 まったく残念がっていないのが電話越しでわかるぐらいには心のこもっていない感想だ。胡散臭いことこの上ない。

「また次は君好みな味に仕上げてみるよ。」

「期待せず待っておくわ。それより、あなたはいつ私に恋をしてくれるの?あなたを食べてあげたいのだけど。そうしたら私のことを忘れてくれるし、すっきりするのだけれど。」

 男性とは反対に感情的な声が電話に打ち付けられる。
 表情自体は怒ってはいないが、心底嫌という空気が女性から漂う。そこにあるのは電話をとった時からある怒りと蔑みだ。

「僕は前園さんに恋はしないよ。僕は君に食べられない。」

「本当・・・食えない男。」

 電話を耳から離し、通話を切り溜息をつく
女性の顔には不満が残りつつも帰ってきたときの表情に近いものに戻っていた。

「お腹は空いていないか?」

「そうね、ただただ満たされた気はするわ、美味しくはなかったけど。」

「そうか。残念だ。」

 コーヒーを啜りながら答える声には心が感じられた、男性の本音だったのだろう。
 女性はミルクと抹茶粉を混ぜて泡立てながら返答する。

「やっぱりこれくらい苦みがないとだめね。」

 仕立てた抹茶ラテを啜りながら女性は誰に放ったでもなくつぶやいた。
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