恋喰らい

葉月キツネ

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彼女の秘密

決断と結末

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 夕日が沈み行く途中の公園は幻想的だった、公園の中には2人以外だれもおらず、気は夕焼けに染められ紅葉の葉を一層紅く染めていた。

「マスターのコーヒーではないですがこれで・・」

 公園の自販機であったかいコーヒーを買って手渡す、彼女はさっきと変わらず弱弱しい声で「ありがとう。」と感謝の言葉を述べた。
 お互い言葉を発さぬまま冷たい風が吹き、枯れはじめた葉を揺らす音だけの間が続いた。

「ねぇ川上さん」

 先に沈黙を破ったのは彼女だった。

「もし・・もしもね、私は人間じゃなくて化け物だって言ったら信じてくれる?」

 彼女の言っている意味わからなかった。意味も分からないし、意図も分からなかった
彼女はあまり冗談をいうタイプでもないし、      この場を和ませるためでも謎だ。
 彼女は俯きながら話したから表情も読めない。

「信じますよ。前園さんが言うんだから」

 それでもそう返答する以外ない。

「私はね人の気持ち、恋心を食べて生きてる化け物なの。私に好きだと言ってくれた人の気持ちを食べてしまうの、本能でね。食べてしまうというよりかは吸い取ってしまうって言った方が分かりやすいかも。」
「食べられた人はどうなるんですか」
「私の事を忘れるの。そして恋心はなくなる。もうその後好意も持ってもらえない。好きの反対は無関心っていうでしょう、それと同じ。ほかにも、メールとか、関わった人との痕跡も消える、怖いでしょう。おいしいって言ってくれた抹茶ラテの味やジュリエットの事も」

 こんなに話を続ける彼女を初めて見たかもしれない。

「だから川上さんに誘われた時思ったの、もしかしてこの人私に好意を持ってくれてるのかもしれないって。自意識過剰だったらごめんなさい。川上さんは私に色々な話をしてくれるし、とてもいい人。だからそんな人に好意を持ってもらうのは嬉しい。けどだからこそ忘れられたくなかったの。忘れられるってとても悲しいの。だから私はお店を辞めてさよならしたの覚えていてもらうために。それでも約束を破ろうとしたのは許されないですよね、ごめんなさい。」
「人間じゃなくても前園さんは前園さんですよ。それに僕は前園奏さんが好きです。安心してください自意識過剰なんかじゃないです。約束通り水族館に行きたいし、他にも買い物に一緒に行ったり映画を見たりデートをしたいです。人間じゃなかろうが関係ない」

 前園奏が好きという気持ちに揺らぎはなかった。
 逆に面白い漫画や物語の中でしか見たことのない境遇に立ち会っているようでわくわくしていた。
 自分が主人公で彼女がヒロイン完璧ではないか。
 壁があればあるほど実る愛は大きいのだ
彼女の方を向いて続けた。

「僕の気持ちが食べられても前園さんを忘れません、こんなに好きなんだから。もし忘れても僕は忘れるたびにあなたを好きになりますよ、絶対に悲しませないです。信じてください」

 川上裕也一世一代の告白だ。今まで告白をしたこともあれば、されたこともある。だけど、ここまでの気持ちになれたのは彼女が初めてだ、そして最後になるだろう。
 男としての本能がそう感じさせた。

「ジュリエットの事もマスターの事も大橋さんの事も忘れない。今日は大橋さんのおかげで前園さんに会えたし、お礼もしていない、それを忘れるほど恩知らずじゃないですよ。だから忘れない、絶対に」

 言い終わると同時に彼女の両手が首の後ろに回り、抱き寄せられた。
 彼女の口元が耳元へ近づき、彼女の息遣いが耳で感じ取れる、とてもこそばゆい感じがする。

「そんなセリフ聞き飽きた」

冷たい艶美な声が耳に響くと同時に視界が暗くなった。
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