上 下
2 / 9

第1話

しおりを挟む
 突然の横の訪問者に戸惑いを隠せなかった。
 まずテンションが高い。小声とはいえども、講義中にジェスチャーをつけながら話してくることに驚いた。
 さっきまでこちらに対して向けていた顔は既に前を向いて、講義を聴いている。
 意外とまじめなタイプなのかも知れない。

「今日って確か小論文やるんだっけ?」
「やるのは講義後半」

 遠慮もなしにこちらに聞いてくる。その馴れ馴れしさに、実はこいつ知り合いなのではという感情さえ浮かび上がってくる。

「題材って聞いてる?」
「まだ、直前に言われるってさ」
「サンキュ」

 そう言うと、彼女はまた前を向いて講義に戻る。
 自分と違うタイプの人間はどうしても接しにくい。慣れない。ましてや初対面の人間相手だ。こちらは人付き合いが得意ではないので尚更だ。

当然ながら最初のやり取り以降は特に何もなく講義は進んでいった。初めはそれなりに聞いていた内容も45分を過ぎる頃には少しずつ集中力を切らして行って、それはあくびという形で体に出てくる。
前では「現代文理解」という講義の名前らしく、文を構成する要素の説明を、資料を交えながら説明しているが、いかんせん眠気のせいもあって頭に入ってこない。
だが、もうすぐやってくる小論文の課題のために起きておかないといけないのが辛いところだ。
どうやら横も同じようで、手で口元を隠してあくびをしている姿が横目に見える。

「あくびはうつるからね」
「わ、悪い」
「冗談」

 声をかけられたことよりも、自分が隣を見ていたのがばれたのが気恥ずかしかった。

 講義終了30分前になると小論文のテーマが発表された。内容は「現代の大学生」について。配られたA4原稿用紙1枚に書いた後に、隣、または前後とお互い内容を確認して、間違いがないかのチェックをしてから提出というのが今日の締めくくりらしい。
 テーマこそシンプルではあるが、考えてみると難しい。何も考えずに大学生を始めた自分にとっては、持論も何もないからだ。
 悩みぬくこと20分で書き上げた小論文は、自分で読み返して見ても、内容のない、スカスカの文だと思う。ましてやこれが、他人に読まれるのだから、なお恥ずかしい。

「そしたら交換ね。私のもよろしく」

 隣から差し出された用紙と自分の用紙を交換する。
 題名は「好きと言えない大学生」。
 名前は相川優香。
 どこか聞き覚えのある名前だ。名字だけならまだしも、名前も知っている気がする。
 こちらが、隣に尋ねる前に隣から先手を打たれた。

「間違ってたらごめん。もしかして落山中学出身だったりする…?」

 疑問が確信に変わる。

「もしかして、あの相川さん…」
「どの相川さんかは分からんけど、多分想像してる相川で合ってると思う」

 そこには俺の知っている相川とは、全く別人の相川優香がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...