上 下
261 / 744

10年と1分!

しおりを挟む
ピロン♪

「ヨリ来たね。」
 スマホを見ながら千春が呟く。

「迎えに行きます?」
「うん、ちょっと行って来るね。」
 そう言うと日本に戻り玄関を開ける。

「いらっしゃーい。」
「さっきぶりー、って料理でもしてたの?」
 頼子は千春のエプロン姿を見て言う。

「うん、ルノアーさん達に料理教えてたんだよ。」
「へぇ~。」
 頼子を連れて戻ると、続けて麗奈から連絡が来る。

「コンビニだって、何かいるものあるかって。」
「大丈夫だよ、買ってきたし。」
「りょ~。」
 千春が返事をすると頼子がエプロンを付ける。

「ん?ヨリ何か作るの?」
「うん、今日は何作ってる?」
「今タコ飯作ってる、あとは炊くだけ、ルプが肉が良いって言うから肉切ってた所だよ。」
「ほーん、肉かー牛肉?」
「そ、ブラブル。」
「ブラブルね、ビェリー、アレ出してー。」
「あれかぁ?ほいよ。」
 頼子がそう言うとビェリーは大きめの鍋を影から出す。

「お!圧力鍋!」
「うん、すじ肉大量にあったじゃん、お母さんに言ったら貸してくれたんだよ。」
「イイね。」
 千春は厨房に戻るとすじ肉を取り出す。

「ヨリ何作るの?」
「トマト煮作ろうかと思ったけど、タコ飯ならどて煮にするかな。」
 千春と頼子が肉を切り、下ごしらえをする。

「レナ来たから迎え行って来るよ。」
「いてら~い。」
 トタトタと小走りに千春は移動する。

「いらっしゃーい!」
「やほー!」
「美桜達も一緒だったの?」
「みんな考える事は一緒、コンビニで会ったから一緒に来たよ。」
「まぁ入ってー。」
「チハル料理中?」
「うん、ヨリも作ってるよー。」
「私も手伝うよー。」
「うちもー!」
 5人で手を繋ぎ扉を抜け迎え入れる。

「チハル何作ってるの?」
「タコ飯。」
「タコ飯好き!」
 麗奈が聞くと千春は答え、美桜が嬉しそうに言う。

「今ヨリがすじ肉煮込んでるよ。」
「ほほー、すじ肉いっぱいある?」
「大量にあるよ。」
「私もすじ肉で作ろうかな。」
「何作るん?」
「すじ肉で肉じゃが。」
「へぇ、美味しいの?」
「肉がトロットロで激うま。」
「手伝うわ!」
 美桜はそう言うと麗奈と2人で頼子の手伝いを始めた。

「うちら何する?」
「・・・焼くくらいなら。」
「焼くのも危うい。」
 青空、大愛、日葵は千春達を見ながら呟く。

「ソラ、ルプ達のステーキお願いしていい?」
「焼くだけ?」
「んー、大丈夫教えるから。」
「わかった!頑張る!」
「それじゃ肉切ってもらおうかな、肉切った事は?」
「ない!」
「無い!」
「ある!」
「はい、切った事がある日葵が肉切り係ね、これがサーロイン、あとタンも切ってもらおうかな。」
「はーい!」
「まずはタンなんだけど、皮を切ります、こうやって根元の部分を少し切れ目入れて、包丁をす~っとスライドしながら皮を引っ張ると・・・。」
 するすると皮を切り取る千春。

「・・・出来る?ヒマリ。」
「・・・いゃぁ・・・無理じゃないかなぁ。」
「いきなり難易度高いんじゃん?チハル先生。」
「大丈夫!やればなれるよ、タンいっぱい出しておくから!」
 そう言うと大きなタンを6本出す。

「みんなやってみてね。」
「がんばるぞー!」
「「おー!」」
 青空達は包丁を持ち、肉の皮を切り取る。

「チハルー難易度高くない?」
「ちょっとね、でも包丁の使い方覚えるには良いと思うけどね。」
 ステーキ肉を切りながら美桜に答える千春、しばらくすると青空が嬉しそうに声を上げる。

「出来た!」
「どれどれー?おー、がんばったねー。」
「でもちょっと皮に肉がいっぱいついちゃった。」
「うん、大丈夫だよ、こうやって~・・・・」
 千春は皮を下にし、皮に付いた肉をスルスル切り取る。

「この切り取った肉は炒め物にするから気にせず皮とって大丈夫だよ。」
「すげぇチハル。」
「私のコレも大丈夫?」
 大愛の切り取った皮にもたっぶり肉が付いている。

「うん、全然問題ないよ。」
 千春はその皮も手に取ると、同じように切り取る。

「それじゃ残りのタンもお願いしていい?」
「わかりました!チハル先生!」
 そういうと青空達は続けて皮を切り取る。

「うん、一品増えそうだなぁ。」
「牛タンで?」
「うん、この端切れで作ろうかなって。」
「何作んの?」
「そうだねぇ、ルプ達のお酒のツマミかな、アヒージョ作るよ。」
「なにそれ食べたい。」
「ウチも!」
「おっけー、いっぱい端切れでるから大量に作るよ。」
 青空達は真剣に肉と格闘し皮を切り取っている、その姿を千春達は見守りつつ料理を続ける。

「美味そうな匂いがするのぅ。」
「ロイロ、おかえりー、どっか行ってたの?」
「うむ、ちょいとレフ達と警備しておったら、山2つ先にワイバーンがおっての、狩って来た。」
「ワイバーン!?・・・・食べれる?」
「どうじゃろうか。」
「ルノアーさん、ワイバーンって食べれるの?」
「食べれるが・・・美味くはないよ。」
「美味しくないならいらないな、ワイバーンはどうしたの?」
「冒険者ギルドに寄付してきたぞ、ギルマスが泣いて喜んでおったわ。」
「ロイロ・・・それ多分喜んでない。」
「そうか?素材としては高価だぞ?」
「そうなの?サフィー。」
「防具としてはかなり高級な素材になりますよ、初級の冒険者には手が出ないくらいには。」
「へぇ、そりゃギルマスも喜ぶわ。」
 話ししながらも手を動かし料理をする千春。

「チハル酒あるか?」
「ロイロもう飲むの?」
「うむ、結構飛んだからのぅ、休憩じゃ。」
「そっか、なにげに警備とかしてくれてたんだもんね、ちょっと待ってね。」
 千春はそう言うと、切り取ったタンを細く切り、お湯に通す、それをさっと上げると醤油、ごま油、砂糖、唐辛子をまぶし、さっと混ぜる。

「ほい、おつまみ。」
「ほほぉ、こりゃ美味そうじゃ!」
 ロイロは酒とツマミを受け取り応接間に消えて行った。

「ルノアー様、チハル様凄すぎませんか?」
「まぁそう見えるよな。」
「はい、今の料理も1分かからず作りましたが。」
「まぁ作った時間はそうだろうが、今まで料理に費やした時間を考えればなぁ、チハルさん、何年くらい料理してるんだ?」
「ん~8歳くらいの時には料理してたから10年くらい?」
「って事だ、この10年があるから作れるんだよ、1分で作った料理は10年と1分の料理って事だ。」
「ルノアーさん言い過ぎー。」
 千春は笑いながらルノアーに言う。

「千春こっちはもう煮込むだけだよ、何かする事ある?」
「んー私もあと焼くだけ。」
「ミオ、レナどう?」
「うん、あとは煮込むだけ。」
「よし、ソラ達手伝うか。」
 千春達は青空を手伝い、肉を切り分けていった。


--------------------------


「ギルマス・・・どうします?コレ。」
 冒険者ギルドの解体主任は、冒険者ギルドマスターのレオに問いかける。

「・・・解体するしかないんだが、氷魔法を使える冒険者は居るか?」
 5頭のワイバーンを見ながらレオは呟く。

「ワイバーンをですか・・・厳しいですね。」
「ワイバーンの解体が出来る人も願いします。」
「そうだな、コイツを出荷するまで解体となると1日仕事だからなぁ。」
「ギルマス!!!狼の牙が戻ってきました!!!」
「なに!?ユーリンは居るか!?」
「はい!居ました!」
「すぐに行く!」
 レオはすぐに受付まで行くと、狼の牙が受付と話しをしていた。

「どうしたんっすか?ギルマス。」
「そうっすよー、仕事はやめてくださいよー、俺たち帰って来たばっかですぜ?」
「すまん、ユーリンに用事があってな。」
「へ!?私?」
「あぁちょっとついて来てくれ。」
 レオはそう言うと中庭に連れて行く。

「ユーリン、コイツを収納出来るか?」
「げぇ!?ワイバーン!?」
「あぁ、何頭でも構わんのだが。」
「ん~今入ってる魔物を出せば3頭入るかなぁ。」
「それで構わん、今入ってるのは優先で解体させて色付けるから頼む。」
「りょ~かい、パトリス良いんだよね?」
「もちろん、それで、コイツはいつまでユーリンが預かるんで?」
「解体が終わればすぐに出してもらう、2~3日頼む。」
「あー、その間仕事できねぇなぁ。」
 パトリスは含みの有る言い方をする。

「・・・わかっとるわ、ワイバーンの売却1割をお前らに渡す。」
「へ!?良いんですかい?!」
「構わん、もともとタダだからな。」
「えー!ギルマスこのワイバーンもらったの!?」
「ロイロ殿が好きにしろって置いてったんだよ。」
「おぉーふとっぱら~♪」
「了解!それじゃ出しますねー。」
 ユーリンは自分達が狩った魔物や魔獣を出すと、シャルルが氷魔法で冷凍する、そしてそのままユーリンはアイテムボックスにワイバーンを収納する。

「助かった、受付に行って報酬を受け取ってくれ、ワイバーンの保管はギルド依頼として別報酬を出しておくからな。」
「おっしゃ!確定依頼じゃん!やったね!」
「パトリス飲みに行こう!」
「そうだな、予定外の収入だし、良い物食べに行こうぜ!」
 ロイロのお陰で思わぬ報酬が手に入る事になった狼の牙は、ウキウキで街に繰り出した。




 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...