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ドラゴンが!

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「うっまぁ!」
「おいしいー!」
 千春とユラは屋台で焼き魚を食べていた。

「俺も一本貰おうか。」
「へい!殿下焼きたてですぜ!」
 屋台のおじさんは殿下とは言ってるが気さくな感じで答える。

「サフィー達も食べなよ。」
「良いんですか?」
「だってこれお昼ご飯だから食べないとお昼抜きになっちゃうよ。」
「食べます!おじさん私も一本ください!」
「はいよ!嬢ちゃん。」
 モリアンも焼き魚に齧り付く。

「まだ色々有りますから見て回りましょうか。」
「サフィー魚嫌いなの?」
 焼き魚を食べないサフィーナを見て千春が聞く。

「嫌いでは無いですが、あちらに蒸し焼きが有りますからそちらがオススメなんですよ。」
「へー、それじゃあっちも行ってみよう!」
 みんなは揃ってサフィーナのオススメがある店に行く。

「一つ下さいな。」
「はいよお嬢さん。」
 受け取ったのは木の皿に大きな葉っぱで包まれた物だった。

「おじさん、私も一つ頂戴。」
「ほい、熱いから気を付けな。」
 千春も一つ受け取る、座る所が有ったのでそこへ座りユラと2人で分ける。

「へー包み焼なんだ、ホイル焼きっぽいね。」
「すっぱい匂いするね果物?」
「そうだねレモンっぽいね。」
 パクっと口に入れると酸味と塩加減が絶妙な味だった。

「はいユラちゃん、あーん。」
「あーん。」
 口に入れて上げるともぐもぐと食べるユラ。

「素朴な感じだけど魚が美味しいなーこれなんて魚なの?」
「レイクティラという魚ですね。」
「へー、骨も綺麗に取って有って食べやすいね。」
 千春はユラの口に入れながら周りを見回す、兵士も交代で食べていた、もちろんエーデルもバクバク食べていた。

「あっちの饅頭みたいなのも気になるな。」
「チハルお姉様僕が買ってきます。」
 次男のライリーが焼き魚を食べ終わり買いに行ってくれた、三男フィンレーもてくてくと付いて行く。

「池の魔物って何が居るの?」
「レイクリザードとかクレアアリゲーターとかが居るな。」
「爬虫類系か、魚は?」
「サメとか今食ったレイクティラとかだな。」
「これ魔物なの?」
「あぁある程度のサイズになると急に狂暴になるんだ、魔物扱いだな。」
「ひぇぇ、湖で泳ぐのやめとこ・・・」
「浅瀬なら問題ないぞ、浅瀬が広いから近づいたら直ぐ分かるしちゃんと見てるからな。」
「まぁ水着持ってきてないし、次来た時でいっか。」
 話をしているとライリーとフィンレーが饅頭の様な物を買って帰って来た。

「チハルお姉さまどうぞ。」
「ありがとうライリー、フィンレーもありがとうね。」
 微笑みながら2人の頭を撫で饅頭を2つ受け取る、1つをユラに渡しもう一つに齧り付く。

「・・・・う、・・・・か・・・辛い!!!!、ユラちゃんちょっと待った!」
 大きく口を開け齧り付こうとするユラを必死で止める。

「チハルそれたまに当たりが有るんですよ、一緒に入ってる野菜が辛い時あるんです。」
「えぇぇ・・・それじゃユラちゃんのは?」
「当たれば辛いです。」
 平然と言うサフィーナは同じく饅頭に齧り付く。

「・・・・美味しいですね。」
「な・・・なんですと、それが当たりじゃん、私のハズレじゃん。」
「いえ、辛いのが当たりなんです。」
「チハルお姉さま僕のと交換しますか?」
 ライリーがオロオロしながら千春に問いかける。

「いや、大丈夫、食べれない程じゃないから、まだココサンの5辛より食べれる。」
 千春はそう言いながらユラの饅頭を半分に割り1つを食べる。

「うん、これは大丈夫、ユラちゃん食べて良いよ。」
「いただきまーす。」
 ユラはにっこりしながら齧り付く。

「まぁ慣れると食べれるなぁ。」
 そう言って当たりの饅頭を食べる千春。
 ライリーとフィンレーも普通に食べている、ハズレだった。

「・・・・からあああい!!!!!」
 モリアンも当たりを引いた。

「よし、腹ごしらえもこんな所だろう、湖畔の別荘に行くか。」
「ほーい。」
 みんなでぞろぞろと別荘に向かう。

「とうちゃーく!」
「とうちゃーく!」
「とうちゃーく!」
 ゆるい坂道を千春、ユラ、モリアンは走って門の所まで来た。

「走ると転びますよ。」
 後ろを付いてきたサフィーナは呆れたように声を掛ける。

「ハルト兄様釣りはするのですか?」
 ライリーがエンハルトに聞くとフィンレーも頷きながら見て来る。

「あぁ、釣りも準備してきたぞ、あの桟橋より向こうには行くなよ急に深くなってるからな。」
「はい!フィンレー行こう!」
「うん!ライリー兄様!」
 走る2人に兵士が4人付いて行く、魔物の監視と護衛だ。

「まだ時間あるけどバーベキューのセッティングだけやっとくかー。」
「そうですね、お肉なんかも切っておきたいですし。」
 千春とサフィーナはそう言うと炭火コンロやテーブル、ナイフやまな板などを次々に出していく。

「・・・便利だな、2人が居ると侍女の仕事が無くなるんじゃないか?」
「あら、ハルト様私も侍女ですよ?」
「お前は規格外だ、何をさせても失敗しないだろう。」
「そんな事はありませんよ。」
 クスクス笑いながらエンハルトにサフィーナは答える。

「モリーと足して割ると丁度いい(ボソッ)」
「チハルさん何か言いました?」
 コンロを設置し炭を出しながら呟いた千春の一言はモリアンに聞こえたらしい。

「そう言えばエーデルさんや兵士さん達はあまり食べてなかったけど足りないんじゃないの?」
「大丈夫ですよチハル様、多めに持ち帰りも買ってきましたから。」
 エーデルはそう言って後ろの兵士が持っている籠を指さす。

「おー、でも火加減見たいしちょっと火入れてみるか、ついでに何か焼くけど食べたいのある?」
「チハル様良いのですか?」
「いいよ、だってほら。」
 千春はアイテムボックスをテーブルの上で開け肉を置く。

どん!

「そのかわりこの肉切って。」
 ミノタウロスの塊肉を見せながらエーデルに言う、明らかに千春よりデカい肉の塊だ。

「チハル、これは流石に食べ切れないだろう。」
「うん、でもルノアーさんが足りないよりは良いって、あとオークとコカトリスも同じくらいあるよ。」
「持ってき過ぎだろう。」
「余ったら持って帰れば良いとも言ってた。」
「アイテムボックスを使える2人が居るから言える言葉だな。」
 千春とエンハルトが話している間に兵士とエーデルが剣を使って幾つかに切り分ける、それを侍女達が一口サイズに切り分け串に刺していく。

「それじゃその串に刺した肉をバットに並べてこれに浸けてください。」
 大きな器に入れたソースは3種類有り、甘めの玉ねぎソース、香ばしい醤油ベースソース、辛めのペッパーソースだ。

「兵士の人たちは飲むよね?辛めのソースが合うと思うからコッチは兵士さん用ねー。」
「兵士は飲まないぞ?」
「なんで?」
「護衛するだろう、飲んだら仕事にならないぞ?」
「護衛しないと危ない所なの?」
「・・・・いや、そうでは無いが仕事だからな。」
「ちっ、せっかくお酒も持ってきたのに。」
「それは俺が飲む。」
 千春が持ってきたのにと言いながら出した日本のウイスキーを見てエンハルトは即答する。

「それじゃ試し焼きしまーす。」
 良い火加減になったのを確認し3種類の肉を焼いていく。

「チハルさん、これ試食です?」
「モリーも食べる?」
「食べます!」
「他の侍女さん達もお昼少なかっただろうから一緒に食べて、もう少し焼くから。」
 千春はそう言うと炭火に3種類の串を数本また並べる。
 炭火に焼かれ肉の油とタレの焼ける匂いが充満する。

「チハルお姉さま魚釣れました!」
 ライリーが持ってきた魚は60㎝は有ろうかという鮭に似た魚だった。

「うわぁデカいな!」
 兵士が魚を持ちライリーはニコニコしながら千春に報告する。

「チハルお姉さま僕も釣れたよ!」
 フィンレーが釣った魚は小ぶりだがそれでも30㎝はあるトラウトだ。

「おーフィンレーも凄いねー、コレも焼くか。」
「そのまま焼くんですか?」
「いや?捌いてから焼くよ。」
 サフィーナにそう言ってまな板に魚を置く、トラウトは腹からナイフを入れワタを取り串に刺す、鮭に似た魚は同じく腹にナイフを入れワタを取り3枚におろす、そして皮を剥ぎ塩と胡椒を振りかける、アイテムボックスからアルミホイルを出すとホイル焼きの入れ物を作り玉ねぎを敷き魚を乗せる。

「チハル手際いいですね、魚も捌けるんですね。」
「サフィーも出来そうだけどやんないの?」
「無理ですね。」
「あら珍しい、何でも出来るサフィーさんが。」
「・・・・すみません、私魚丸々無理なんです。」
「あー・・・、把握した。」
「切り身なら大好きなんですけどね、丸々になるとどうしても。」
「居るねそう言う人。」
 手際よくアルミホイルにバターと醤油をかけレモンを絞って包み上げる。

「ほい、結構数出来たね、どうする?今食べる?夜食べる?」
「今食べれるんですか?」
「食べれるよ、ライリーは食べたい?」
「食べたいです!」
「僕も食べたい!」
「はーいそれじゃこのまま焼きまーす。」
 あまり火が強くない横にホイル焼きを並べていく。

「しかし凄い良い匂いだな、さっき色々食べたのに腹減って来たぞ。」
 エンハルトも匂いで食欲が出てきたようで肉を見つめていた。

「チハルおねえちゃんおにくもうやけた?」
「もうすぐ焼けるよー、ユラちゃんも食べたくなった?」
「うん!おいしそう!」
「サフィー、もうちょい焼こうか、多分これ足んないわ。」
「そうですね、串はどんどん出来てますし、材料も他に有りますからね。」
 そして焼いては食べさせ、自分達も食べながらまた焼く、途中から侍女も焼くのを見て覚えたのか肉を焼いて兵士にも配りだした。

「んー辛いのもうみゃぁ。」
 千春はペッパーソースを食べながら湖を見ていると空に黒い点が見えた。

「鳥がいるね。」
「鳥くらいは居るだろ。」
 そう言いながらエンハルトも湖の上方を見る。

「結構デカいなあの鳥。」
「・・・・エーデル!」
「はっ!」
 エーデルは直ぐに剣を握り2人の前に出る。

「ド・・ドラゴン!」
「ドラゴン!?見たい!」
 千春はエーデルの横から顔を出しドラゴンを見る。

『旨そうな匂いはここか、これは美味そうじゃな。』
「おおー!喋った!」
『なんだ?娘、儂が喋るのが面白いか?』
「うん、でもちっちゃいね。」
『そうだな、この体はまだ子供だからな。』
「体?」
 言い方に何か含みが有る言い方で思わず千春は聞き返す。

『ほう?娘お前も転生・・・いや転移者か?』
「んー転移になるのかなぁ?って転生?ドラゴン君転生者なの?」
『あぁ転生して今はドラゴンじゃな。』
「地球から?」
『いや他の世界だ。』
 ドラゴンと話をしているとエーデルが千春に声を掛ける。

「チハル様、ドラゴンの言葉が分かるのですか?」
「うん、普通に話してるけど、皆はわからないの?」
「はい、全然聞き取れません。」
「あぁ俺も唸り声に擬音が混じってるようにしか聞こえん。」
 エーデルもエンハルトも同じように聞こえているようだ。

「あー、翻訳指輪のおかげかなぁ。」
『ほう、魔道具か。』
「うん、で、転生ドラゴン君は何しに来たの?」
『旨そうな匂いがしたからな、見に来たんじゃ。』
「へぇ、食べる?」
『頂こう!』
 千春はコンロから串を取りドラゴンに近づく。

「チハル様!危険です!」
「エーデルさん大丈夫っぽいよ。」
「チハルお前に何か有ったらダメだ、近づくな!」
「だーい丈夫だってぇ、ねぇドラゴン君。」
『もちろんじゃ、危害は加えん、加える意味がない。』
「ほら。」
「チハルほらって言われても何言ってるかわからんのだが。」
 エンハルトも呆れたように返す。

「ほい、熱いから気を付けてねー。」
『熱さには強いから大丈夫だ。』
 そう言うとドラゴンは器用に串を持ち肉を食べる。

『う・・・・美味い!!!!』
「そりゃよかった。」
『何百年ぶりじゃろうか!飯が美味いと思ったのは!』
「そんなにか!」
『あぁ!転生する前も美味い飯なんぞ無かったからのぅ。』
「どっから転生してきたの?」
『終末を迎えた星を捨て門を通りこの世界に来た、正確に言えば精神生命体と言う、この世界だと精霊に近いな。』
「へぇ私は門を通って地球から来た人間だよ。」
『地球、知らんな。』
「そりゃそうだ、まだ肉食べる?」
『あぁ頂こう!次はそっちの甘い匂いの串をくれ!』
 千春が独り言を言いながらドラゴンに次々と肉を与えている姿を、他の者は呆れたように、そして安心したように見つめていた。



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