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ミノタウロスビーフシチュー!
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「ルノアーさんきたよー!」
ケーキを出した次の日の朝、起きて直ぐに厨房に来た千春はいつもの声を掛ける。
「おー早いなチハルさん、朝食を作るのか?」
「いえ、昼食を作ります。」
「今からか!?」
「うん、ちょっと時間を掛けたほうが美味しい物を作るからね。」
千春はそのまま肉を保管している冷蔵庫へ足を運ぶ。
「おー、でっかいなー!ミノタウロス!」
そう、今日はミノタウロスが届いたと聞き、足を運んだのだ。
「チハルさん!何作るんですか?」
モリアンはこんな朝から気合を入れて作る料理が気になってしょうがなかった。
「今日はミノビーフシチューを作りまーす!」
「シチューって事はいつものクリームシチューにミノタウロスを入れるんだな。」
「材料はそうだね、ただ調味料は違うよ、牛乳入れないし。」
「そうなのか、必要な材料を言ってくれ準備する。」
「ほい、それじゃぁ玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジンはいつもの様に切ってね。」
言うとすぐにルノアーは指示に入る。
「チハル気合入ってるけど何かあるの?」
「そう言えば昨日サフィーは居なかったね、今日お昼前に教会の人と会うんだよ。」
「それで?教会の人にそのシチューを振舞うのかしら?」
「ちがうよー、護衛でエーデルさんに付いてもらうんだけどさ、めっちゃ美味しいお昼ご飯が出るって分かってて、話が長くなったら機嫌悪くなるだろうなーって思ってさ。」
「どういう事ですか?」
よく分からないモリアンは聞き返す。
「教会の人と話すんだけど、全て断る方向の話しか出ないと思うの、メグ様、エーデルさんに圧掛けてねって言ってるんだけど、エーデルさんって見た目は凄いけど紳士じゃん、真面目だし、だからちょーっと気合入れて貰おうと思ってね。」
「そんな事しなくてもチハルが言えば大丈夫だと思いますけれどねぇ。」
サフィーナは呆れたように千春へ言う。
「ま、半分がそれで半分はミノタウロスで美味しい料理を作りたかったのもあるよ、ただ煮込めばそれだけ美味しいからさ、朝から作るのよ。」
千春はケチャップや他の香辛料、調味料を揃えて行き寸胴鍋を準備する。
「チハルさん野菜の方はOKだ、肉も全部使っても大丈夫だ一杯作ろう。」
見ると寸胴鍋が2つ並んでいた。
「多すぎない?」
「いや、どうせなら一杯作ろう、勉強にもなるからな。」
「いいけどね、それじゃミノタウロスを切るんだけどエーデルさんが一口でギリギリ食べれそうなサイズで切ってもらえる?」
「結構デカいな、分かった。」
「切ったらそれを油で炒めて、肉はレアでいいから色が変わったくらいで赤ワインを浸るくらい入れて煮詰める、そんでワインが半分くらいになるまで煮てくれる?」
「わかった。」
横で若い料理人さんが必死でメモを取っていた、ルノアーさんから言われて一語一句メモしてるらしい。
「さぁて、それじゃ野菜の方も指示しますかね。」
野菜を切ってる料理人の方へ移動しニンニクを手にする。
「ニンニクを剥いてもらっていいですか?」
「はい!」
料理人の1人が手伝ってくれる。
「で、このニンニクを包丁の腹で押しつぶしてみじん切りにします。」
次々と微塵切りにし寄せていく。
「で、コンロに火を入れて~っと、油を入れて低温でニンニクを炒めます。」
じゅじゅじゅじゅと泡を立てニンニクが炒められる。
「色が変わって来たら玉ねぎ入れまーす。」
ざばっと玉ねぎを入れる、量が多い為千春は苦戦しているとムキムキな料理人が代わってくれた。
「あとはジャガイモと人参を入れて軽く炒めたら大鍋に入れておいてね。」
「はい!わかりました!」
「お、おねがいします。」
元気に返事をされビクッとする千春、ムキムキ料理人は声もデカかった。
「肉はこれくらいですか?」
「うん、アクを取ったらそのまま1時間くらい弱火で煮てください。」
「1時間ですか?!」
「そだよーまだそっから長いよー。」
フッフッフと言いながら変な笑い方をする千春を見てサフィーナもモリアンもクスクス笑う。
「チハル今日テンションおかしくない?」
「そう?ちょっと朝から気合入れ過ぎてる気もするけど料理は楽しく作らないとね!」
「愛情は?」
「料理人さんたちが入れてるから大丈夫。」
サフィーナのツッコミも軽く受け流し仕上げの指示をルノアーに行う。
「ルノアーさーん。」
「おー、なんだい?」
「あとはお肉を煮たのと野菜を混ぜて大鍋で煮ていくんだけど最後の仕上げを教えておくね。」
「わかった。」
「それじゃバターと小麦粉を準備します。」
「お、クリームソースか?」
「おしい!ブラウンソースです。」
「新しいソースか。」
「新しいと言うより牛乳を入れてないだけなんだけどね。」
そう言うと千春はフライパンにバターの塊を落とす。
「クリームソースと役割は一緒、とろみを付ける為の最後の仕上げね。」
バターをゆっくり溶かしていく。
「それで、バターと同量の小麦粉を投入しまーす。」
どばっと入れる小麦粉にルノアーは驚く。
「小麦粉の方が多いぞ!?」
「あ、同量って重さが同じって事ね。」
「チハルは見て分かるのか?」
「だいたいね、私の所で売ってるバターって同じ量で売ってるの、小麦粉も、料理やってるとなんとなくわかる様になるんだよねー。」
バターと小麦粉をまぜまぜしながら千春は答えていく。
「だいぶ色が変わって来たな。」
フライパンを見ながらルノアーが呟く。
「うん、これが仕上げのブラウンソースね、あとは大鍋の方に調味料を入れていくからメモしてて。」
「分った。」
千春は砂糖、ケチャップ、鶏ガラスープ、調味料を幾つか入れ説明する。
「あと水の量を見て調味料を調節していけば大丈夫だから。」
「ふむ、工程に時間は掛かるが問題は無さそうだ、ただこの量を作ると赤ワインが結構いるな。」
「そだねーこの大鍋だと50リットルくらい入りそうだよね。」
寸胴鍋を見ながら千春は、ん~~~~と言いながら計算する。
「ワインって一本にどれくらい入ってるの?」
「そうだな、酒造所にもよるがおおよそ1リットル前後だな。」
「それじゃ大鍋1つに12~3本だね。」
「結構使うな。」
「安い赤ワインで良いからね、それに煮詰めると半分になっちゃうし。」
「分った、今日の分くらいは余裕であるから大丈夫だ。」
「今日の分・・・大鍋2つだよね?」
「あぁ30本も有れば行けるだろう?」
「そんなにワインおいてんの?!」
「あるぞ?他にも白もあるし他の酒もあるからな。」
「凄いな王宮の食堂、飲み屋出来るじゃん。」
変な感心をしつつ指示を終わらせる。
「んじゃあとは料理人さん達に任せて私達は朝ご飯にしましょうかね~。」
「チハル何食べます?持ってきますよ。」
「えー?チハルさん作らないんですかー?」
「いや、もう料理人さん達が既に戦場だから今日は有るやつ貰うよ。」
厨房をチラッと見ると肉を焼いて次々と煮込みに入ったり野菜を炒める音がする、そしてベーコン玉子ドッグとポタージュスープを食べ部屋に戻る、そして時間が来るまでトランプをしながら時間を潰した。
「チハル、そろそろじゃない?」
門の部屋に掛けられた時計を見てサフィーナが声をかける、千春が便利だからと壁掛けの時計を設置したのだ。
「うん、そだね、それじゃメグ様の所に行こうか。」
千春はマルグリットの部屋に3人で向かう。
「戻りましたお母様。」
「おかえりなさいチハル。」
「チハルおねえちゃんおかえりなさい!」
ぱたぱたと走って来たユラはポフンと千春に抱き付く。
「ただいまユラちゃん、お母様そろそろですよね?」
「えぇ時間は大丈夫よ、エリーナ、チハルを着替えさせて頂戴。」
マルグリットがそう言うとすぐに侍女達が千春を取り囲み着替えさせた。
「なんでお母様の部屋に私の服が準備されてるんですか?」
「チハルは自分の部屋で着替えて来ないでしょう?こう言う時の為に何着かおいてるのよ、ユラのも有るわよ?」
千春はユラを見ると可愛い動きやすそうな服に着替えていた。
「もうそろそろエーデルが来るから待ってましょうか。」
そして座っているとユラの耳がピクピクっと動きドアを見る。
「エーデル様が来られました。」
侍女がお伺いをする。
「それじゃぁ行きましょうか。」
「はい、お母様。」
2人は笑みを浮かべながらドアに向かう。
モリアンとユラは一度千春の部屋に行き遊んでもらう事にしているので一緒に出る。
「エーデルさん今日はよろしくお願いします。」
「王女殿下、今日は圧を掛けろと指示が有りましたが。」
「うん、立って見つめてるだけでもエーデルさんなら圧掛かるけどね、あーそうだ今日ねすっごい美味しい料理を作ったんだよ、『ミノタウロスビーフシチュー』って言うんだけど、多分私が王国で作った料理で一番手間暇掛かって美味しい料理だから。」
「なんですと!それは楽しみですな!」
「でも今日のお昼に出るから、教会の人がダラダラと時間延ばして話してるとビーフシチュー無くなっちゃうかもね。」
「な・・・・・なんですと・・・・・。」
「多分大丈夫だよー、もう教会の人に言う事は決まってるし、すぐ終わると思うよ?」
終わらない時の為にこの時間にし、裏でも手間を掛けてるのは秘密だ。
「「・・・・・・」」
事情を知っているサフィーナとマルグリットは必死に笑いを堪えて肩を震わせていた、そしてあまり豪華ではない普通の応接室のドアを兵士が開ける、エーデルの部下で第一騎士団でも小隊長クラスの人間だ。
「お待たせしたかしら?」
しょっぱなから圧掛け気味のマルグリットが教会の人間に声を掛ける。
「い、いえ、此方から面会をお願いしたのですから問題ございません。」
教会の良いローブを着ている者が返事を返す、しかしマルグリットはワザと待たせていた、千春が戻って来た時には既に教会の者達はこの部屋に居たのだ、そして王妃が座り横に千春が座る、対面での面会だ、エーデルは千春の斜め後ろで立っている。
「それでは自己紹介を、私は北方ホウラーク教会王国支部の司教ドニーズと申します、此方が大司教デクスター様で御座います。」
「デクスターです、この度はお時間を頂き有難う御座います。」
2人は軽くお辞儀をする。
「まぁご丁寧に、この子が私の娘、第一王女のチハル・アル・ジブラロールよ。」
「チハル・アル・ジブラロールです。」
千春は頭を下げず言葉だけ返す。
「それで、私にお話しがと言う事でしたが?」
千春は茶番も面倒だと思い、さっさと話しを進める。
「は、はい、聖女様にお会い出来恐悦至極で御座います、噂をお聞きしまして是非とも教会の方へ来て頂き信者の者達へご慈悲を与えて頂けまいかとお伺いに来た次第で御座います。」
「聖女?誰がです?」
「チハル王女殿下の・・・。」
「違いますよ?私は聖女じゃ無いですから。」
ニッコリと微笑み、言葉を返す。
「しかし、聖魔法で瀕死の冒険者を回復させ、孤児院を何軒も建て無償で孤児を引き取ったりと、聖女様の所業で御座います。」
「え?それ聖女じゃなくても出来ますよね?」
何言ってんの?と言わんばかりの反応で千春は言ってみた。
「え?」
「教会にも聖魔法使える人いますよね?」
「勿論!厳しい修行を行い聖魔法を神より権限した物が居ます!」
「まぁ修行は置いといて、たまたま遊びに行った冒険者ギルドに怪我人が運ばれて、自分が治せそうな怪我だったら治しますよね?」
「そ、それは、しかし無償で怪我を治すと・・・。」
「私王女なんですよ、お金の使い道なんてそう無いんで要らないんです。」
「そ、そうで御座いますか、しかし孤児院を建てたと言う事も有りまして。」
「えぇ、パンの開発が上手く行きまして、孤児院の事で気になる事が有ったので自分で作っちゃいました。」
「そうです!そのご慈悲であろう行動が聖女様の証!是非とも教会に!」
必死に話す大司教。
「そんな大げさに言われてますけど、知己になった子を安心出来る所に入れたかっただけです。」
「そう、そうですか、しかしその行い自体がその、聖女様として相応しく・・・。」
「そうです!それに教会に来て頂ければ何不自由なく過ごしていただけますので!」
王国支部の司祭も参戦して会話に入って来た。
「あの、私王女なんですよ?不自由有ると思います?優しいお父様とお母様、何か有れば直ぐに駆け付けてくれるお兄様、そして愛らしい弟と妹、欲しい物も税金では無く自分のお金で手に入れる事も出来ます。」
「「・・・・・・」」
「それに何度も言いますけど私は聖女じゃありませんから、王宮魔術師団長が言ってました、『勇者と聖女には特有のスキルが有る』と、教会の文献にも載ってるんじゃないですか?」
「そ、それでは一度で宜しいので教会に足を運んで頂く事は出来ませんでしょうか?信者も王女殿下に会いたがっております。」
必死に言葉を探し教会に来てもらうネタを探している大司教だったが。
「信者が会いたいから来てくれって王族に言って、ハイ分かりましたって行く物なんですか?」
千春はそんな事は無いでしょと分かったうえでマルグリットに問いかける。
「そんな事有る訳無いでしょう?それに立場こそ違いますけど大司教、あなた片田舎の村民が来てくれって言ったら行きますの?」
「い・・行くかもしれません・・・・。」
「あら、腰が軽いのね尊敬するわ。」
「は・・はい、有難う御座います。」
マルグリットの睨みを聞かせた返答は完全に大司教の心をへし折った、そして同じような問答が繰り返され、いい加減マルグリットに青筋が立とうと言う頃千春は話をぶった斬ることにした。
「それでは、私は聖女じゃありません、そして教会にも行きません、話は以上ですね。」
「そ、そうでは・・・。」
言葉を出そうとした時。
ドン!
千春の傍に立っていたエーデルが床を踏み鳴らした。
「大司教殿がお帰りだ!」
エーデルが声を出すと扉の前にいた兵士がドアを開ける、するとドアの前には執事長のセバスと侍女が立っていた、サフィーナも一緒にお辞儀をしている。
「マルグリット王妃殿下、チハル王女殿下、どうぞこちらへ、国王陛下がお待ちになっております。」
「あらあら、陛下をお待たせしてはいけませんね、チハル、行きましょうか。」
ニッコリと千春に笑いかけながら促す。
「はいお母様、急いで行きましょう、エーデル付いてきてくれるかしら?」
「はっ!」
そう言って3人は部屋を退出し教会の人間は置いて行かれた、そして丁重に王城から追い出される。
「はー、言ってくる事が分かってたので思ったより楽でしたね、エーデルさんもナイスタイミング!」
「はっ!有難う御座います。」
「それでは食卓に向かいましょうか。」
「はーい、エーデルさん今日の料理はエーデルさんの為に作った料理だから遅くなってもちゃんと取ってあるの、意地悪言ってごめんね。」
「はっはっは!一本取られておりましたか!有難く頂きます!」
そしてエーデルは食堂に向かう廊下で別れマルグリットと千春は王家の食卓に向かった、食卓の部屋に入ると国王陛下がすぐに声を掛けてきた。
「穏便に済ませたか!?」
「ばっちりですお父様!」
サムズアップしながら満面の笑みで千春は返す。
「何も問題無かったわね、もう教会も言って来る事は無いんじゃないかしら?まさか本国から教皇が来る事はないでしょうし、来ても同じことですけどね。」
クスクス笑いながらマルグリットも席に着く。
「ただいまユラちゃん。」
「おかえりなさいチハルおねえちゃん」
ユラの横に座り頭を撫でる。
「それでは食事にしよう、頂こうか!」
「「「「「「いただきます。」」」」」」
王族全員が食事の挨拶をし、ミノタウロスビーフシチューを食べる
王家の食卓をどんどん変えていく千春だった。
ケーキを出した次の日の朝、起きて直ぐに厨房に来た千春はいつもの声を掛ける。
「おー早いなチハルさん、朝食を作るのか?」
「いえ、昼食を作ります。」
「今からか!?」
「うん、ちょっと時間を掛けたほうが美味しい物を作るからね。」
千春はそのまま肉を保管している冷蔵庫へ足を運ぶ。
「おー、でっかいなー!ミノタウロス!」
そう、今日はミノタウロスが届いたと聞き、足を運んだのだ。
「チハルさん!何作るんですか?」
モリアンはこんな朝から気合を入れて作る料理が気になってしょうがなかった。
「今日はミノビーフシチューを作りまーす!」
「シチューって事はいつものクリームシチューにミノタウロスを入れるんだな。」
「材料はそうだね、ただ調味料は違うよ、牛乳入れないし。」
「そうなのか、必要な材料を言ってくれ準備する。」
「ほい、それじゃぁ玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジンはいつもの様に切ってね。」
言うとすぐにルノアーは指示に入る。
「チハル気合入ってるけど何かあるの?」
「そう言えば昨日サフィーは居なかったね、今日お昼前に教会の人と会うんだよ。」
「それで?教会の人にそのシチューを振舞うのかしら?」
「ちがうよー、護衛でエーデルさんに付いてもらうんだけどさ、めっちゃ美味しいお昼ご飯が出るって分かってて、話が長くなったら機嫌悪くなるだろうなーって思ってさ。」
「どういう事ですか?」
よく分からないモリアンは聞き返す。
「教会の人と話すんだけど、全て断る方向の話しか出ないと思うの、メグ様、エーデルさんに圧掛けてねって言ってるんだけど、エーデルさんって見た目は凄いけど紳士じゃん、真面目だし、だからちょーっと気合入れて貰おうと思ってね。」
「そんな事しなくてもチハルが言えば大丈夫だと思いますけれどねぇ。」
サフィーナは呆れたように千春へ言う。
「ま、半分がそれで半分はミノタウロスで美味しい料理を作りたかったのもあるよ、ただ煮込めばそれだけ美味しいからさ、朝から作るのよ。」
千春はケチャップや他の香辛料、調味料を揃えて行き寸胴鍋を準備する。
「チハルさん野菜の方はOKだ、肉も全部使っても大丈夫だ一杯作ろう。」
見ると寸胴鍋が2つ並んでいた。
「多すぎない?」
「いや、どうせなら一杯作ろう、勉強にもなるからな。」
「いいけどね、それじゃミノタウロスを切るんだけどエーデルさんが一口でギリギリ食べれそうなサイズで切ってもらえる?」
「結構デカいな、分かった。」
「切ったらそれを油で炒めて、肉はレアでいいから色が変わったくらいで赤ワインを浸るくらい入れて煮詰める、そんでワインが半分くらいになるまで煮てくれる?」
「わかった。」
横で若い料理人さんが必死でメモを取っていた、ルノアーさんから言われて一語一句メモしてるらしい。
「さぁて、それじゃ野菜の方も指示しますかね。」
野菜を切ってる料理人の方へ移動しニンニクを手にする。
「ニンニクを剥いてもらっていいですか?」
「はい!」
料理人の1人が手伝ってくれる。
「で、このニンニクを包丁の腹で押しつぶしてみじん切りにします。」
次々と微塵切りにし寄せていく。
「で、コンロに火を入れて~っと、油を入れて低温でニンニクを炒めます。」
じゅじゅじゅじゅと泡を立てニンニクが炒められる。
「色が変わって来たら玉ねぎ入れまーす。」
ざばっと玉ねぎを入れる、量が多い為千春は苦戦しているとムキムキな料理人が代わってくれた。
「あとはジャガイモと人参を入れて軽く炒めたら大鍋に入れておいてね。」
「はい!わかりました!」
「お、おねがいします。」
元気に返事をされビクッとする千春、ムキムキ料理人は声もデカかった。
「肉はこれくらいですか?」
「うん、アクを取ったらそのまま1時間くらい弱火で煮てください。」
「1時間ですか?!」
「そだよーまだそっから長いよー。」
フッフッフと言いながら変な笑い方をする千春を見てサフィーナもモリアンもクスクス笑う。
「チハル今日テンションおかしくない?」
「そう?ちょっと朝から気合入れ過ぎてる気もするけど料理は楽しく作らないとね!」
「愛情は?」
「料理人さんたちが入れてるから大丈夫。」
サフィーナのツッコミも軽く受け流し仕上げの指示をルノアーに行う。
「ルノアーさーん。」
「おー、なんだい?」
「あとはお肉を煮たのと野菜を混ぜて大鍋で煮ていくんだけど最後の仕上げを教えておくね。」
「わかった。」
「それじゃバターと小麦粉を準備します。」
「お、クリームソースか?」
「おしい!ブラウンソースです。」
「新しいソースか。」
「新しいと言うより牛乳を入れてないだけなんだけどね。」
そう言うと千春はフライパンにバターの塊を落とす。
「クリームソースと役割は一緒、とろみを付ける為の最後の仕上げね。」
バターをゆっくり溶かしていく。
「それで、バターと同量の小麦粉を投入しまーす。」
どばっと入れる小麦粉にルノアーは驚く。
「小麦粉の方が多いぞ!?」
「あ、同量って重さが同じって事ね。」
「チハルは見て分かるのか?」
「だいたいね、私の所で売ってるバターって同じ量で売ってるの、小麦粉も、料理やってるとなんとなくわかる様になるんだよねー。」
バターと小麦粉をまぜまぜしながら千春は答えていく。
「だいぶ色が変わって来たな。」
フライパンを見ながらルノアーが呟く。
「うん、これが仕上げのブラウンソースね、あとは大鍋の方に調味料を入れていくからメモしてて。」
「分った。」
千春は砂糖、ケチャップ、鶏ガラスープ、調味料を幾つか入れ説明する。
「あと水の量を見て調味料を調節していけば大丈夫だから。」
「ふむ、工程に時間は掛かるが問題は無さそうだ、ただこの量を作ると赤ワインが結構いるな。」
「そだねーこの大鍋だと50リットルくらい入りそうだよね。」
寸胴鍋を見ながら千春は、ん~~~~と言いながら計算する。
「ワインって一本にどれくらい入ってるの?」
「そうだな、酒造所にもよるがおおよそ1リットル前後だな。」
「それじゃ大鍋1つに12~3本だね。」
「結構使うな。」
「安い赤ワインで良いからね、それに煮詰めると半分になっちゃうし。」
「分った、今日の分くらいは余裕であるから大丈夫だ。」
「今日の分・・・大鍋2つだよね?」
「あぁ30本も有れば行けるだろう?」
「そんなにワインおいてんの?!」
「あるぞ?他にも白もあるし他の酒もあるからな。」
「凄いな王宮の食堂、飲み屋出来るじゃん。」
変な感心をしつつ指示を終わらせる。
「んじゃあとは料理人さん達に任せて私達は朝ご飯にしましょうかね~。」
「チハル何食べます?持ってきますよ。」
「えー?チハルさん作らないんですかー?」
「いや、もう料理人さん達が既に戦場だから今日は有るやつ貰うよ。」
厨房をチラッと見ると肉を焼いて次々と煮込みに入ったり野菜を炒める音がする、そしてベーコン玉子ドッグとポタージュスープを食べ部屋に戻る、そして時間が来るまでトランプをしながら時間を潰した。
「チハル、そろそろじゃない?」
門の部屋に掛けられた時計を見てサフィーナが声をかける、千春が便利だからと壁掛けの時計を設置したのだ。
「うん、そだね、それじゃメグ様の所に行こうか。」
千春はマルグリットの部屋に3人で向かう。
「戻りましたお母様。」
「おかえりなさいチハル。」
「チハルおねえちゃんおかえりなさい!」
ぱたぱたと走って来たユラはポフンと千春に抱き付く。
「ただいまユラちゃん、お母様そろそろですよね?」
「えぇ時間は大丈夫よ、エリーナ、チハルを着替えさせて頂戴。」
マルグリットがそう言うとすぐに侍女達が千春を取り囲み着替えさせた。
「なんでお母様の部屋に私の服が準備されてるんですか?」
「チハルは自分の部屋で着替えて来ないでしょう?こう言う時の為に何着かおいてるのよ、ユラのも有るわよ?」
千春はユラを見ると可愛い動きやすそうな服に着替えていた。
「もうそろそろエーデルが来るから待ってましょうか。」
そして座っているとユラの耳がピクピクっと動きドアを見る。
「エーデル様が来られました。」
侍女がお伺いをする。
「それじゃぁ行きましょうか。」
「はい、お母様。」
2人は笑みを浮かべながらドアに向かう。
モリアンとユラは一度千春の部屋に行き遊んでもらう事にしているので一緒に出る。
「エーデルさん今日はよろしくお願いします。」
「王女殿下、今日は圧を掛けろと指示が有りましたが。」
「うん、立って見つめてるだけでもエーデルさんなら圧掛かるけどね、あーそうだ今日ねすっごい美味しい料理を作ったんだよ、『ミノタウロスビーフシチュー』って言うんだけど、多分私が王国で作った料理で一番手間暇掛かって美味しい料理だから。」
「なんですと!それは楽しみですな!」
「でも今日のお昼に出るから、教会の人がダラダラと時間延ばして話してるとビーフシチュー無くなっちゃうかもね。」
「な・・・・・なんですと・・・・・。」
「多分大丈夫だよー、もう教会の人に言う事は決まってるし、すぐ終わると思うよ?」
終わらない時の為にこの時間にし、裏でも手間を掛けてるのは秘密だ。
「「・・・・・・」」
事情を知っているサフィーナとマルグリットは必死に笑いを堪えて肩を震わせていた、そしてあまり豪華ではない普通の応接室のドアを兵士が開ける、エーデルの部下で第一騎士団でも小隊長クラスの人間だ。
「お待たせしたかしら?」
しょっぱなから圧掛け気味のマルグリットが教会の人間に声を掛ける。
「い、いえ、此方から面会をお願いしたのですから問題ございません。」
教会の良いローブを着ている者が返事を返す、しかしマルグリットはワザと待たせていた、千春が戻って来た時には既に教会の者達はこの部屋に居たのだ、そして王妃が座り横に千春が座る、対面での面会だ、エーデルは千春の斜め後ろで立っている。
「それでは自己紹介を、私は北方ホウラーク教会王国支部の司教ドニーズと申します、此方が大司教デクスター様で御座います。」
「デクスターです、この度はお時間を頂き有難う御座います。」
2人は軽くお辞儀をする。
「まぁご丁寧に、この子が私の娘、第一王女のチハル・アル・ジブラロールよ。」
「チハル・アル・ジブラロールです。」
千春は頭を下げず言葉だけ返す。
「それで、私にお話しがと言う事でしたが?」
千春は茶番も面倒だと思い、さっさと話しを進める。
「は、はい、聖女様にお会い出来恐悦至極で御座います、噂をお聞きしまして是非とも教会の方へ来て頂き信者の者達へご慈悲を与えて頂けまいかとお伺いに来た次第で御座います。」
「聖女?誰がです?」
「チハル王女殿下の・・・。」
「違いますよ?私は聖女じゃ無いですから。」
ニッコリと微笑み、言葉を返す。
「しかし、聖魔法で瀕死の冒険者を回復させ、孤児院を何軒も建て無償で孤児を引き取ったりと、聖女様の所業で御座います。」
「え?それ聖女じゃなくても出来ますよね?」
何言ってんの?と言わんばかりの反応で千春は言ってみた。
「え?」
「教会にも聖魔法使える人いますよね?」
「勿論!厳しい修行を行い聖魔法を神より権限した物が居ます!」
「まぁ修行は置いといて、たまたま遊びに行った冒険者ギルドに怪我人が運ばれて、自分が治せそうな怪我だったら治しますよね?」
「そ、それは、しかし無償で怪我を治すと・・・。」
「私王女なんですよ、お金の使い道なんてそう無いんで要らないんです。」
「そ、そうで御座いますか、しかし孤児院を建てたと言う事も有りまして。」
「えぇ、パンの開発が上手く行きまして、孤児院の事で気になる事が有ったので自分で作っちゃいました。」
「そうです!そのご慈悲であろう行動が聖女様の証!是非とも教会に!」
必死に話す大司教。
「そんな大げさに言われてますけど、知己になった子を安心出来る所に入れたかっただけです。」
「そう、そうですか、しかしその行い自体がその、聖女様として相応しく・・・。」
「そうです!それに教会に来て頂ければ何不自由なく過ごしていただけますので!」
王国支部の司祭も参戦して会話に入って来た。
「あの、私王女なんですよ?不自由有ると思います?優しいお父様とお母様、何か有れば直ぐに駆け付けてくれるお兄様、そして愛らしい弟と妹、欲しい物も税金では無く自分のお金で手に入れる事も出来ます。」
「「・・・・・・」」
「それに何度も言いますけど私は聖女じゃありませんから、王宮魔術師団長が言ってました、『勇者と聖女には特有のスキルが有る』と、教会の文献にも載ってるんじゃないですか?」
「そ、それでは一度で宜しいので教会に足を運んで頂く事は出来ませんでしょうか?信者も王女殿下に会いたがっております。」
必死に言葉を探し教会に来てもらうネタを探している大司教だったが。
「信者が会いたいから来てくれって王族に言って、ハイ分かりましたって行く物なんですか?」
千春はそんな事は無いでしょと分かったうえでマルグリットに問いかける。
「そんな事有る訳無いでしょう?それに立場こそ違いますけど大司教、あなた片田舎の村民が来てくれって言ったら行きますの?」
「い・・行くかもしれません・・・・。」
「あら、腰が軽いのね尊敬するわ。」
「は・・はい、有難う御座います。」
マルグリットの睨みを聞かせた返答は完全に大司教の心をへし折った、そして同じような問答が繰り返され、いい加減マルグリットに青筋が立とうと言う頃千春は話をぶった斬ることにした。
「それでは、私は聖女じゃありません、そして教会にも行きません、話は以上ですね。」
「そ、そうでは・・・。」
言葉を出そうとした時。
ドン!
千春の傍に立っていたエーデルが床を踏み鳴らした。
「大司教殿がお帰りだ!」
エーデルが声を出すと扉の前にいた兵士がドアを開ける、するとドアの前には執事長のセバスと侍女が立っていた、サフィーナも一緒にお辞儀をしている。
「マルグリット王妃殿下、チハル王女殿下、どうぞこちらへ、国王陛下がお待ちになっております。」
「あらあら、陛下をお待たせしてはいけませんね、チハル、行きましょうか。」
ニッコリと千春に笑いかけながら促す。
「はいお母様、急いで行きましょう、エーデル付いてきてくれるかしら?」
「はっ!」
そう言って3人は部屋を退出し教会の人間は置いて行かれた、そして丁重に王城から追い出される。
「はー、言ってくる事が分かってたので思ったより楽でしたね、エーデルさんもナイスタイミング!」
「はっ!有難う御座います。」
「それでは食卓に向かいましょうか。」
「はーい、エーデルさん今日の料理はエーデルさんの為に作った料理だから遅くなってもちゃんと取ってあるの、意地悪言ってごめんね。」
「はっはっは!一本取られておりましたか!有難く頂きます!」
そしてエーデルは食堂に向かう廊下で別れマルグリットと千春は王家の食卓に向かった、食卓の部屋に入ると国王陛下がすぐに声を掛けてきた。
「穏便に済ませたか!?」
「ばっちりですお父様!」
サムズアップしながら満面の笑みで千春は返す。
「何も問題無かったわね、もう教会も言って来る事は無いんじゃないかしら?まさか本国から教皇が来る事はないでしょうし、来ても同じことですけどね。」
クスクス笑いながらマルグリットも席に着く。
「ただいまユラちゃん。」
「おかえりなさいチハルおねえちゃん」
ユラの横に座り頭を撫でる。
「それでは食事にしよう、頂こうか!」
「「「「「「いただきます。」」」」」」
王族全員が食事の挨拶をし、ミノタウロスビーフシチューを食べる
王家の食卓をどんどん変えていく千春だった。
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