上 下
22 / 744

鶏ガラ玉子スープ!

しおりを挟む
「はぁぁ美味しかったー!」
「お粗末様です。」
「揚げた鶏があんなに美味しいなんて知りませんでした。」
 モリアンは大満足のようで千春も嬉しかった。

「モリアンはマヨネーズがあったら何でも美味しいんじゃないの?」
「それは言えてますね、あんまり食べ過ぎたらだめですよ。」
「はーい!わかってまーす。」
 千春もサフィーナも分かってないなと目を合わせ笑い合う。

「チハルさん、そろそろ鶏骨良い感じじゃないですか?」
 そう言ってくるのは1時間ずっと鍋を見ていたシャリーちゃんだ。

「そうだね、本当は3時間くらい煮ても良かったんだけど王様達の夕食に間に合わないだろうしちょっと味見してみましょうかー。」
 厨房に入り鍋を覗き込む。

「うん、いい感じだね、ちょっと小鍋借りますね。」
「お?出来たのか?」
 ルノアーさんが気付いて見に来た。

「うん、いい感じで出来たんじゃないかなー、だいたい鶏ガラ1匹分で1リットルくらいのダシを出す感じで水の調整しながら作ってください。」
 そして小さな器に味見用で少し、それと小鍋におたまでスープを掬い入れる、

「はい、ルノアーさんちょっと飲んでみて。」
「ありがとう・・・・・・うん、鶏の骨を煮込むだけでこれだけ風味が出るんだな。」
「ちょっと味の調節しますね、これに塩を少し入れます、あと胡椒もぱらっと入れましょうか。」
 そして軽く混ぜ小さな器にちょびっと入れ千春も飲んでみる。

「うまっ、めっちゃ味出るねこの鶏。」
 そう言ってまた少し入れた鶏ガラスープをルノアーさんに渡す。

「はい、ちょっと飲んでみて。」
 ルノアーは受け取り味見をする。

「・・・美味いな!塩と胡椒を入れるだけでこんなに味が引き立つのか!もうこれだけで十分スープで出せるな。」
「そうだよー、これ今まで捨ててたんだよー、勿体ないでしょ。」
 そう言いながら玉子を一つ器でかき混ぜ溶き卵を流し込む。

「そんでここに水溶き片栗粉を入れまーす。」
 軽く沸騰させ中華風な玉子スープを作る。

「モリアン小さい器を5個もってきてー。」
「はーい。」
 そして器に玉子スープを入れシャリーちゃんに渡す。

「はい、シャリーちゃんが1時間頑張ってアク取りしたスープの出来上がりだよ、この玉子スープは一番に飲ませてあげよ~。」
 ほいっとシャリーに渡す、シャリーはゆっくり口をつけ飲む。

「美味しい、めちゃくちゃ美味しいです!」
「がんばった甲斐が有ったでしょ、このスープをベースに色んな料理が出来るからね。」
 説明しながらルノアー、サフィーナ、モリアンの分も注ぐ。

「はい、風味付けでゴマ油を垂らすと香りも良くなるよ。」
「ゴマ油か、聞いたことは有るな商会に話して取り寄せてみるか。」
 ルノアーはそう言いながらトロミの付いたたまごスープを飲む。

「凄いな、塩と胡椒の後に玉子と片栗粉を入れるだけでまたこんなに変わるのか、勉強になるな。」
「こっちは暖かいからトロミ無しの方が飲みやすいかもね、冬はスープが冷えにくいし温まるよ、それじゃその大鍋に入ってる鶏ガラを捨てるから一回他の鍋に移そうか、中の野菜と骨は捨てちゃっていいからね。」
「分った、それじゃぁ・・・。」
「私が最後までやります!」
 ルノアーが他の人にさせようと声を掛ける前にシャリーが声を上げた。

「おう、それじゃその鍋にスープだけ移し替えてくれ。」
「はい!」
 自分が手間をかけたスープが思いの他美味しかった、それが嬉しく最後までやりたいと笑顔でルノアーに返事をする。

「ちょっと塩とか入れただけでこんなに美味しいスープが出来るのにまだ他にも作れるの?」
 サフィーナが千春に問いかける。

「うん、クリームシチューとか煮込みとか色々作れるよ。」
「食べたい!」
「今日は千春食堂店じまいでーす、帰って勉強してお風呂入って寝まーす。」
「えぇぇぇ!・・・いたっ!」
 モリアンがブーイングを出した所でサフィーナの脳天チョップが炸裂した。

「チハルも忙しいんですよ、わざわざ2品も料理を教えてくれたのに文句を言わない!」
「はーい、チハルさんごめんなさい。」
 千春は何も言わず微笑みながらモリアンがチョップされた頭をナデナデしてあげる。

「モリアンが美味しそうに食べてくれるのを見るのも楽しいし、また何か作ってあげるよ、今日は帰るけどね。」
「チハルさん、このスープは王族に今日出してもいいか?」
「いいよー、そのつもりで簡単な料理にしたからね、ちょっと時間掛かってもいいなら色々作れるんだけど今日はちょっと買い物して遅くなったから、明日は早めに来て手の込んだ料理作ってみる?」
「良いのか?それじゃ明日は鶏ガラスープってのを早めに作ってこの状態にしておくから宜しく頼む。」
「おっけー!冷蔵庫に入れてたら2~3日は持つけど作れるなら使い切っても良いからね。」
「ああ、兵士や侍女の夕食にも出してやるとするよ。」
 そう返事をし食器を片付けようと思ったらサフィーナがもう片付けていた、さすが侍女、気が利く、モリアンはスープを濾しながら移し替えているシャリーを見ていた、「働けよお前」と思いながら苦笑いをしつつ帰る準備をする。

「チハル様。」
「うわぁ!!!・・・・な、なんですか?エリーナさん。」
 後ろに王妃の侍女エリーナが立っていた。

「後ろから申し訳ありません、王妃殿下がお呼びですが如何致しますか?」
「それは任意でしょうか・・・強制でしょうか・・・・。」
「『何故こちらに来てるのに顔を出さないのかしら、呼んできて。』との事です。」
(もう強制じゃん・・・)チラッとサフィーナを見るとスンっとしたすまし顔で目を瞑っていた。
 明らかにこっちに振るなと言わんばかりに、モリアンも斜め上を見ながらすました顔をしていた。

「・・・・はい、お伺いします。」
「では。」
 そう言うとエリーナは千春を連れ厨房を出る、サフィーナとモリアンも付いてきた。
 数分ほど歩き見覚えのある扉に辿り着いた、もちろんマルグリット王妃の自室である。

「チハル様を御連れしました。」
 扉の前に着くと声を掛け返答を待たず扉を開く。

「いらっしゃいチハル。」
 口元は笑っているが目が笑っていない、コレは結構怒ってるなー・・・と千春は考える、どう切り抜けるか!そして言いたくは無いが、まだ早いからと自重している言葉をかけた。

「ただいまかえりました・・・オカアサマ」
「!!!あらあらあらあら、お帰りチハル、こっちに来てるって聞いたのに顔を出してくれないから寂しかったじゃない!」
 効果大!クリティカルヒットであった。

「あの、来週から試験で平日は勉強しないといけないので夕食を取ったらすぐ帰る予定なんです。」
「そうなの?そう言う事なら言ってくれたらよかったのに、夕食は一緒に食べるの?」
「今日はもう食堂で頂きまして、少しですが料理長に新しいレシピをお教えしましたので今日のスープは美味しいですよ。」
 マルグリットの機嫌も直りホッとしながら今日のスープの話で誤魔化す、笑顔は忘れない。

「それじゃぁ試験が終わるまでは私も我慢するわ、でも7日に一度お休みは有るのでしょう?その時はおいでなさい、『おかあさま』と一緒に過ごしましょうね。」
 ニッコリと微笑みながら言っているが千春はかなりの圧を感じていた、少なくとも今断ったらまた眉間に皺がよるだろうな・・・と。

「・・・・はい、土曜・・・5日後にお伺いします。」
「待ってるわ、それじゃ夕食は楽しみね、フフッ」
「それでは失礼いたします。」
 ペコリと頭を下げ扉に向かう、扉の所で後ろからそっと抱きしめられる。

「メグ様?」
「あら、お母様じゃないの?でも呼んでくれて嬉しかったわ、こちらに来た時は出来たら顔を見せて欲しいの、またいらっしゃいね。」
「はい。」
 そういって開放される、千春も抱きしめられ暖かくなり笑顔で返事をする、そしてマルグリットの部屋を出てサフィーナとモリアンを連れ門の部屋まで帰り着いた。

「生きた心地しませんでした。」
 モリアンはそう言いながらブルっと震えた。

「そりゃちょっと怖かったけど何とか切り抜けれたから良かったわ、今度から怒られそうな時はあれで逃げよう。」
「チハル、何度も使うと効果ないわよ?」
 サフィーナはまったく・・・と言わんばかりに千春を見る。

「あれが氷の魔女・・・片鱗を見ました・・(ボソッ)」
「モーリーアーンー。」
 モリアンが小さく呟くとサフィーナが脳天チョップをかました。

「痛ーい!サフィーナのチョップ痛い!」
「貴女がいらない事を言うからでしょう、不敬で罰せられますよ?」
 サフィーナがモリアンを窘める。

「で、氷の魔女ってなに?」
 千春が突っ込む。

「「・・・・」」
 侍女2人は黙る。

「うん、言えないのね、んじゃ誰に聞いたら不敬じゃなく教えてもらえそう?」
「ローレル魔導士団長ですかね?」
 自分の失言も棚に上げさらっと言うモリアン。

「おっけー、なんとなく聞かなくても想像出来るけど聞けそうな時聞いてみよっと、それじゃ今日は帰るから、お仕事お疲れ様!明日は学校終わったらすぐ帰るから6時くらいには来るね!」
「はい、午後2鐘頃ですね、了解致しました、それではお休みなさいチハル。」
「チハルさんまた明日!お休みなさーい。」
 3人は笑いながら手を振り千春はクローゼットを閉める。

「はー、メグ様怒らせたらヤバいって事は良く分かったわー、さーて試験勉強しますかね!」
 そう言いつつも後ろからハグしてもらった事を思いだしニヤニヤしながら机に向かった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...