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第6話
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「何やってんの。」
「宗一郎!」
「そうっち!」
思いっきり襟を後ろから引かれて僕は尻餅をついた。
「どうしてここに。」
「お前、何してんだよ。」
僕は琉希に思いっきり殴られた。突然のことで理解が追いつかなかったが、ぼろぼろに涙を流す沙夏の手に、さっき僕が冬樹の墓に置いた手紙が握られていることに気がつき、やっと状況が飲み込めた。三人は僕が自殺することに気づいて、ここまで来てくれたのだと。
「何で止めたんだよ。沙夏、僕は君を追い詰めたんだ。それに冬樹を殺したのは僕だ。生きていく資格は無い。」
「ばか。」
今度は沙夏に思いっきりビンタを食らった。痛い、と思った瞬間僕は、沙夏に抱きしめられた。そして、琉希と奈波も僕を抱きしめる。
「生きてて、良かった。」
「そうっち、死んじゃったかと思って怖かったよー。」
「馬鹿野郎。もう二度とすんじゃねえぞ。」
琉希まで泣いている。僕ははっとした。失うことの恐怖だ。それはこの人たちも同じなんだ。僕は、皆にとって大事な存在になっていたんだ。そう思った瞬間、涙があふれた。初めて、生きていても良いのだと思えた。そこから、三人に抱きしめられながら、声を出して泣いた。
僕たちは、暗くなるまで泣いてた。四人とも目が真っ赤になっている。近くにあった自販機で琉希が冷たい飲み物を買ってきてくれて、それで目を冷やした。少し頭が痛い。これまでのことを洗い流すみたいに泣いたから、緊張の糸が切れたのかもしれない。あたりがだんだん暗くなってきた。皆でそこからの絶景を見た。
「綺麗~。こんなところあったんだね。」
「私とお兄ちゃんの思い出の場所。大切な人を連れてくるって決めてたから、四人でここに来られてすごく嬉しい。よくここでお兄ちゃん、宗一郎の話してたよ。すごく気の合う友達が出来たって。読書が好きで、小説を書いてて、それを読むのが楽しみだっていつも言ってた。わくわくした顔でさ、次はいつ続きが読めるのかなって。宗一郎と会えなくなってからも、私と会うたびに、あいつどのくらい続き書いたかなって独り言みたいに言ってたよ。私と会ってるのにお兄ちゃん、宗一郎のことばっかなんだもん。」
「そう、だったんだな。」
僕は、冬樹と何があったのか、三人に話した。
「冬樹からメールが来るたびに、開きたくて仕方が無かった。だが、けがをさせてしまって、怒鳴ってしまった手前、返事が書けないと思って見ることが出来なかったんだ。」
「そうっちは、冬樹さんのことが大好きだったんだね。」
「ああ。今でも、大好きだ。」
「俺らは、どうなんだよ。」
琉希が、ちょっと照れながらそう言った。
「もちろん、大好きだ。こんな僕と、友達になってくれてありがとう。」
「なんだよ。お前、そんなこというやつだったか?」
「そうっち、素直~。私も大好き~。」
「私だって。だ、大好き。」
帰り道、僕は幸せな気持ちでいっぱいだった。皆で肩を組んで帰った。途中で奈波と琉希とは駅の方向が違うため、沙夏と二人になった。
「沙夏。ごめんな。」
「もういいよ。全然、宗一郎のこと、恨んでなんかいないよ。あの日フェンスを登ってたけど、本当に飛び降りるつもりは無かったの。お兄ちゃんはいなくなっちゃったけど、可愛い弟と妹も、私に本当の子どもみたいに接してくれる両親もいる。それに、何回も言った気がするけど、皆がいるから。これ、お兄ちゃんが作ってたアルバムと日記。いつでもいいから、見てみて。」
「冬樹の・・・。そうか、ありがとう。僕は勝手に、冬樹に許されていないのだと思っていた。だが、よく考えれば、冬樹はそんなやつじゃない。僕が一番良く分かっていたはずなのに。自殺なんかしたらきっと今度は本当に絶交されるな。」
「そうだよ。お兄ちゃんの分まで、私達が生きようね。」
「ああ。」
僕は、空を見上げた。これまで、カーテンの隙間から見えていた寂しそうな月と違って、明るくて、青くて、まるで沙夏みたいだと思った。
「沙夏。好きだ。」
隣を歩く、頭上のより綺麗な月に、僕は気持ちを伝えた。
新学期、学校の玄関で琉希に思いっきり尻を蹴られた。何度食らっても慣れない。
「元気かよ。」
「ああ。」
「そうか。」
「ああ。」
「で、沙夏に気持ち伝えたのか。」
「ああ。」
「ああってお前、本当か?それで?」
「ふられたよ。」
「はあ?まじで?それでお前そんなに元気ないの?元気出せよ。俺もふられたし。ふられた物同士、今日はどこか食べに行こうぜ。じゃあ、駅前のモックな。」
僕は沙夏にふられた。まあ、上手くいくなんて思ってなかったけど、まさか逃げられるなんて。そんなに嫌だったのか。あの日は、正直ショックで何も手をつけられなかった。家に帰り着くと、親父がいた。何か哀れみの目を向けられているようでめちゃくちゃ腹が立ったから、舌打ちをして自室にこもった。
「沙夏ー、今日帰りにモック行かない?部活、休みでしょ。」
「うん。行く。私も誘おうと思ってた。ちょっと相談したいことがあって。」
「なになに?そうっちのこと?告白されたとか?」
「ばか、声大きいって。」
「え、がちで?」
奈波は、冗談で言ったはずが当たってしまい、後悔した。
「分かった。じゃあ、放課後話聞く。」
しばらくして琉希と宗一郎が教室に入ってきた。明らかにギクシャクしている二人を見て、奈波はあちゃ~と頭を抱え、琉希はそそくさと別のクラスへと逃げて行ったのだった。
「で、そうっちは何て告白したの?」
「好きだって。」
「うわー!ストレートだね。そうっちらしいわ。で、沙夏は?」
「何も言ってない。」
「え?どゆこと?」
「何も言わずに逃げた。」
「ええ~!何でそうなる。」
「だって、急に言われて、まさか私のこと好きだとは思ってなかったし。それに、緊張しちゃって。」
「ばかだね~。それ、絶対そうっちふられたと思ってるよ。」
「お前、ばかじゃねえの?それ、ふられてねえから。多分、沙夏のことだから急に告白されてびっくりして逃げたとかだろ。お前のことが嫌いで逃げたわけじゃねえって。」
「そうなのか?けど、あれから目も合わせてくれなかった。」
「だーかーら、ああもう、めんどくせえ。お前から話しかけろよ。告白したんだからうじうじしてんなよ、むっつりのくせに。」
「むっつりは関係ねえだろ。」
琉希に話を聞いてもらい、モックを出ようとしたときだった。
「え、二人とも偶然すぎ!モックいたんだ。気付かなかった~。」
奈波、空気を読め。思わず突っ込みそうになったが、もう遅い。沙夏の方を見ると、うつむいて、僕の方を見ないようにしている。
「お、おう。たまにはモックも悪くないと思ってな。」
琉希が必死に気を遣って僕を先に店から出そうとしてくれている。それなのに。
「じゃあ、私らは先行くね~。ほら、琉希、部屋の片付け手伝って。行くよ。じゃあお二人さん、ごゆっくり~。」
「え、ちょっと奈波、待ってよ。」
何てことしてくれてんだ。どうすれば良いのか分からない。とりあえず店を出た。二人で何も話さず歩いている。駅について、電車に乗っても、何も話さない。満員電車で沙夏が辛そうだったから、僕が沙夏を人の波から守る形になって、ありがとうと小声でつぶやいたくらいだ。そうだ、降りる駅同じだった。方向までも。電車を降り、沈黙に耐えられなくなった僕は沙夏に話を切り出した。
「沙夏、あの、告白のことなんだけど、返事、しなくても良いから。」
本当は今すぐ返事を聞きたかったけど、沙夏と話せなくなる方がもっときつい。
「え?」
「だから、これまで通り普通に接してほしい。」
そう言うと、なぜか沙夏は怒ってそっぽをむいた。
「何で怒ってるんだ?」
「だって、告白しておいてこれまで通り接してってずるいじゃん。」
「でも、そんな無理にしなくても良いんだ。僕が気持ちを伝えたかっただけなんだ。」
「無理してない。私も好きだから。」
「へ?」
これまで出したことの無いような間の抜けた声が出た。
「だから、告白の返事。両思いだねってこと。あの日は、びっくりして逃げちゃっただけ。あと、何て言えば良いか分からなくて恥ずかしかったの。」
こんなに耳を疑ったのは人生で二度目だ。
「気付いてなかったの、宗一郎だけだよ。琉希も知ってたもん。」
「本当か?」
「うん。そんな嘘、つくわけないじゃん。それにね、私はあの日、屋上で出会うもっと前から宗一郎のこと気になってたんだよ。」
「何で、僕?」
「実は、いっつも教室の隅で本読んでるから、何の本読んでるんだろうってのぞき見してたの。そしたら毎回、お兄ちゃんが好きな本を読んでるから、もしかしてこの人お兄ちゃんと気が合うんじゃないかって思ったのがきっかけ。それで、宗一郎のこと気になって見てたら、いつもはずっと難しい顔してるのに、本を読んでるときは時々笑ったり、ちょっと泣きそうになってたり、意外と感情が顔に出る人なんだなって分かってだんだん意識するようになって。そしたら屋上で会うし。あのときは色んな意味でびっくりしたな。」
宝物を見つけた子どもみたいに嬉しそうに話す沙夏を見て、本当なんだなと思った。
「僕は、笑った顔が好きって言ってくれたとき。」
「え、私そんなこと言ったっけ?」
「ああ。」
「え?いつ?」
「覚えていないなら、いいよ。」
「ええ、良くないよ!ねえ、いつ?教えてよ~。」
そう言って僕の腕をぶんぶん揺らす。本当に可愛くて愛おしくて抱きしめたくなる。だからこそ、沙夏にちゃんともう一度気持ちを伝えよう。
「沙夏、好きだよ。僕と付き合ってください。」
「はい!」
僕は、沙夏を優しく引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。腕の中にすっぽりと収まった沙夏は、嬉しそうに、抱きしめかえしてくれた。この明るく温かい光を僕は絶対に離さない。もう二度と失いたくないから。
「宗一郎!」
「そうっち!」
思いっきり襟を後ろから引かれて僕は尻餅をついた。
「どうしてここに。」
「お前、何してんだよ。」
僕は琉希に思いっきり殴られた。突然のことで理解が追いつかなかったが、ぼろぼろに涙を流す沙夏の手に、さっき僕が冬樹の墓に置いた手紙が握られていることに気がつき、やっと状況が飲み込めた。三人は僕が自殺することに気づいて、ここまで来てくれたのだと。
「何で止めたんだよ。沙夏、僕は君を追い詰めたんだ。それに冬樹を殺したのは僕だ。生きていく資格は無い。」
「ばか。」
今度は沙夏に思いっきりビンタを食らった。痛い、と思った瞬間僕は、沙夏に抱きしめられた。そして、琉希と奈波も僕を抱きしめる。
「生きてて、良かった。」
「そうっち、死んじゃったかと思って怖かったよー。」
「馬鹿野郎。もう二度とすんじゃねえぞ。」
琉希まで泣いている。僕ははっとした。失うことの恐怖だ。それはこの人たちも同じなんだ。僕は、皆にとって大事な存在になっていたんだ。そう思った瞬間、涙があふれた。初めて、生きていても良いのだと思えた。そこから、三人に抱きしめられながら、声を出して泣いた。
僕たちは、暗くなるまで泣いてた。四人とも目が真っ赤になっている。近くにあった自販機で琉希が冷たい飲み物を買ってきてくれて、それで目を冷やした。少し頭が痛い。これまでのことを洗い流すみたいに泣いたから、緊張の糸が切れたのかもしれない。あたりがだんだん暗くなってきた。皆でそこからの絶景を見た。
「綺麗~。こんなところあったんだね。」
「私とお兄ちゃんの思い出の場所。大切な人を連れてくるって決めてたから、四人でここに来られてすごく嬉しい。よくここでお兄ちゃん、宗一郎の話してたよ。すごく気の合う友達が出来たって。読書が好きで、小説を書いてて、それを読むのが楽しみだっていつも言ってた。わくわくした顔でさ、次はいつ続きが読めるのかなって。宗一郎と会えなくなってからも、私と会うたびに、あいつどのくらい続き書いたかなって独り言みたいに言ってたよ。私と会ってるのにお兄ちゃん、宗一郎のことばっかなんだもん。」
「そう、だったんだな。」
僕は、冬樹と何があったのか、三人に話した。
「冬樹からメールが来るたびに、開きたくて仕方が無かった。だが、けがをさせてしまって、怒鳴ってしまった手前、返事が書けないと思って見ることが出来なかったんだ。」
「そうっちは、冬樹さんのことが大好きだったんだね。」
「ああ。今でも、大好きだ。」
「俺らは、どうなんだよ。」
琉希が、ちょっと照れながらそう言った。
「もちろん、大好きだ。こんな僕と、友達になってくれてありがとう。」
「なんだよ。お前、そんなこというやつだったか?」
「そうっち、素直~。私も大好き~。」
「私だって。だ、大好き。」
帰り道、僕は幸せな気持ちでいっぱいだった。皆で肩を組んで帰った。途中で奈波と琉希とは駅の方向が違うため、沙夏と二人になった。
「沙夏。ごめんな。」
「もういいよ。全然、宗一郎のこと、恨んでなんかいないよ。あの日フェンスを登ってたけど、本当に飛び降りるつもりは無かったの。お兄ちゃんはいなくなっちゃったけど、可愛い弟と妹も、私に本当の子どもみたいに接してくれる両親もいる。それに、何回も言った気がするけど、皆がいるから。これ、お兄ちゃんが作ってたアルバムと日記。いつでもいいから、見てみて。」
「冬樹の・・・。そうか、ありがとう。僕は勝手に、冬樹に許されていないのだと思っていた。だが、よく考えれば、冬樹はそんなやつじゃない。僕が一番良く分かっていたはずなのに。自殺なんかしたらきっと今度は本当に絶交されるな。」
「そうだよ。お兄ちゃんの分まで、私達が生きようね。」
「ああ。」
僕は、空を見上げた。これまで、カーテンの隙間から見えていた寂しそうな月と違って、明るくて、青くて、まるで沙夏みたいだと思った。
「沙夏。好きだ。」
隣を歩く、頭上のより綺麗な月に、僕は気持ちを伝えた。
新学期、学校の玄関で琉希に思いっきり尻を蹴られた。何度食らっても慣れない。
「元気かよ。」
「ああ。」
「そうか。」
「ああ。」
「で、沙夏に気持ち伝えたのか。」
「ああ。」
「ああってお前、本当か?それで?」
「ふられたよ。」
「はあ?まじで?それでお前そんなに元気ないの?元気出せよ。俺もふられたし。ふられた物同士、今日はどこか食べに行こうぜ。じゃあ、駅前のモックな。」
僕は沙夏にふられた。まあ、上手くいくなんて思ってなかったけど、まさか逃げられるなんて。そんなに嫌だったのか。あの日は、正直ショックで何も手をつけられなかった。家に帰り着くと、親父がいた。何か哀れみの目を向けられているようでめちゃくちゃ腹が立ったから、舌打ちをして自室にこもった。
「沙夏ー、今日帰りにモック行かない?部活、休みでしょ。」
「うん。行く。私も誘おうと思ってた。ちょっと相談したいことがあって。」
「なになに?そうっちのこと?告白されたとか?」
「ばか、声大きいって。」
「え、がちで?」
奈波は、冗談で言ったはずが当たってしまい、後悔した。
「分かった。じゃあ、放課後話聞く。」
しばらくして琉希と宗一郎が教室に入ってきた。明らかにギクシャクしている二人を見て、奈波はあちゃ~と頭を抱え、琉希はそそくさと別のクラスへと逃げて行ったのだった。
「で、そうっちは何て告白したの?」
「好きだって。」
「うわー!ストレートだね。そうっちらしいわ。で、沙夏は?」
「何も言ってない。」
「え?どゆこと?」
「何も言わずに逃げた。」
「ええ~!何でそうなる。」
「だって、急に言われて、まさか私のこと好きだとは思ってなかったし。それに、緊張しちゃって。」
「ばかだね~。それ、絶対そうっちふられたと思ってるよ。」
「お前、ばかじゃねえの?それ、ふられてねえから。多分、沙夏のことだから急に告白されてびっくりして逃げたとかだろ。お前のことが嫌いで逃げたわけじゃねえって。」
「そうなのか?けど、あれから目も合わせてくれなかった。」
「だーかーら、ああもう、めんどくせえ。お前から話しかけろよ。告白したんだからうじうじしてんなよ、むっつりのくせに。」
「むっつりは関係ねえだろ。」
琉希に話を聞いてもらい、モックを出ようとしたときだった。
「え、二人とも偶然すぎ!モックいたんだ。気付かなかった~。」
奈波、空気を読め。思わず突っ込みそうになったが、もう遅い。沙夏の方を見ると、うつむいて、僕の方を見ないようにしている。
「お、おう。たまにはモックも悪くないと思ってな。」
琉希が必死に気を遣って僕を先に店から出そうとしてくれている。それなのに。
「じゃあ、私らは先行くね~。ほら、琉希、部屋の片付け手伝って。行くよ。じゃあお二人さん、ごゆっくり~。」
「え、ちょっと奈波、待ってよ。」
何てことしてくれてんだ。どうすれば良いのか分からない。とりあえず店を出た。二人で何も話さず歩いている。駅について、電車に乗っても、何も話さない。満員電車で沙夏が辛そうだったから、僕が沙夏を人の波から守る形になって、ありがとうと小声でつぶやいたくらいだ。そうだ、降りる駅同じだった。方向までも。電車を降り、沈黙に耐えられなくなった僕は沙夏に話を切り出した。
「沙夏、あの、告白のことなんだけど、返事、しなくても良いから。」
本当は今すぐ返事を聞きたかったけど、沙夏と話せなくなる方がもっときつい。
「え?」
「だから、これまで通り普通に接してほしい。」
そう言うと、なぜか沙夏は怒ってそっぽをむいた。
「何で怒ってるんだ?」
「だって、告白しておいてこれまで通り接してってずるいじゃん。」
「でも、そんな無理にしなくても良いんだ。僕が気持ちを伝えたかっただけなんだ。」
「無理してない。私も好きだから。」
「へ?」
これまで出したことの無いような間の抜けた声が出た。
「だから、告白の返事。両思いだねってこと。あの日は、びっくりして逃げちゃっただけ。あと、何て言えば良いか分からなくて恥ずかしかったの。」
こんなに耳を疑ったのは人生で二度目だ。
「気付いてなかったの、宗一郎だけだよ。琉希も知ってたもん。」
「本当か?」
「うん。そんな嘘、つくわけないじゃん。それにね、私はあの日、屋上で出会うもっと前から宗一郎のこと気になってたんだよ。」
「何で、僕?」
「実は、いっつも教室の隅で本読んでるから、何の本読んでるんだろうってのぞき見してたの。そしたら毎回、お兄ちゃんが好きな本を読んでるから、もしかしてこの人お兄ちゃんと気が合うんじゃないかって思ったのがきっかけ。それで、宗一郎のこと気になって見てたら、いつもはずっと難しい顔してるのに、本を読んでるときは時々笑ったり、ちょっと泣きそうになってたり、意外と感情が顔に出る人なんだなって分かってだんだん意識するようになって。そしたら屋上で会うし。あのときは色んな意味でびっくりしたな。」
宝物を見つけた子どもみたいに嬉しそうに話す沙夏を見て、本当なんだなと思った。
「僕は、笑った顔が好きって言ってくれたとき。」
「え、私そんなこと言ったっけ?」
「ああ。」
「え?いつ?」
「覚えていないなら、いいよ。」
「ええ、良くないよ!ねえ、いつ?教えてよ~。」
そう言って僕の腕をぶんぶん揺らす。本当に可愛くて愛おしくて抱きしめたくなる。だからこそ、沙夏にちゃんともう一度気持ちを伝えよう。
「沙夏、好きだよ。僕と付き合ってください。」
「はい!」
僕は、沙夏を優しく引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。腕の中にすっぽりと収まった沙夏は、嬉しそうに、抱きしめかえしてくれた。この明るく温かい光を僕は絶対に離さない。もう二度と失いたくないから。
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