上 下
16 / 16

部活顧問な勇者

しおりを挟む
 ベッドに横たわって泣いている少年と、そのすぐそばで立ち尽くす勇者。

「下倉、そんなに気を落とすな。失敗ってのは、誰にだってあるんだ。」
「勇者コーチ・・・。でも、もう、あの高校の推薦は取れないんですよね?」
「うん。絶対に無理だね。」
「軽いな! 即答かよ! そこは無理は承知で、もっと間を取ってよ!」

「無理なものは無理だって。もう少し大人になったらわかる。俺だって、今までいろんなものをあきらめてきたんだ。」
「・・・例えば?」
「一番、残念だったのはあれだな、この間の合コンで、」
「合コン?」
「かなり気に入った子がいたんだけど、どうしてもって言うから、その子の隣の席を、数学の山下先生に譲ったら、10分くらいで即お持ち帰りされちゃってな・・・。しかも次の日、二人でベッドで寝転んでる写真とか見せびらかされたんだぞ。ふざけんなよ、山下。」
「おい! それは失意の教え子に対して言うことか? あと俺からの質問と趣旨が変わってんだけど!」
「え? 『あきらめた話あるある』だろ? 合コンのときに一番座りたかった席をあきらめたっていう、」
「違うよ、馬鹿! もうちょっと、何かこうあるだろ!」
「え、何が?」
「わかんないのかよ! だから人生においてどうしても努力したけど、勝てなかったライバルとか怪我での挫折とかないの? 勇者なんでしょ!?」
「ん~。お前が何を言いたいのかが、理解できん。」
「何でだよ? 何か間違ったこと聞いてるか、俺!?」

「本格的な挫折ってのがよくわかんないんだよな。ここまで何となく勇者ということで、ずっと生きてきたから。」
「負けたことはないってこと?」
「元々が誰とも勝負してないしな。初めから戦いにならなければ負けないだろ?」
「部活は?」
「部活っていうか、もともとが勇者だしな。」
「それで何で今、バスケ部のコーチをやってるの?」
「そうそう! そこだよ! 俺も嫌なんだよ。でも非常勤講師には、顧問の選択権が無いっていうからさ。俺だって女子バスケの顧問とかがよかったよ。」

「何で?」
「そりゃあ女子中学生は生きてるだけで、男子中学生の200倍くらい、尊い生き物だからな。」
「どういうことだよ、それ?」
「男子中学生のほうが好きなのは、うちの中学だと、教頭先生くらいかな。」
「教頭っておっさんじゃん!」
「愛には、色々な形があるから・・・。」
「かっこつけんなよ。」

「これはみんなには秘密にしておいてほしいんだけど・・・。実はいまだにバスケのルールもよく理解できてないし。」
「それだけは覚えとけよ! 割と試合中に指示出してたじゃん。」
「あれは適当にだな、試合相手の監督のリアクションを真似てただけだ。」
「・・・そうなの?」
「そうだよ。だってほら、俺は『速攻』か『じっくり』しか指示してないもの。」
「他にも色々と叫んでなかった?」
「ほら、雰囲気だけでね。」
「何てやつだ・・・。」

「これは覚えておいた方がいい。空気が読めるのは大事だ。」
「・・・それについては了解。」
「お前もこれからは高校受験に向けて、がんばって勉強しないといけないしな。さぼってる暇はないぞ。お前の戦いはこれからだ!」
「一巻で打ち切り!?」

「・・・やっぱりバスケで推薦はもらえないかな?」
「・・・ダメだろ。だってうちのチームは万年一回戦負けだし、お前はその中でも万年補欠じゃん。しかも無駄に、怪我してるし。」
「無駄って!」
「スポドリを取りに行かせたら、階段から落ちてるんだもん。」
「・・・。」
「無駄だろ?」

「・・・俺は補欠じゃないです。」
「補欠じゃん!」
「今風に、シックスマンと言ってください。」
「それはうちには部員が6人しかいないからだろ? もっといたらお前、エイトマンとかになってたかもしれないし。あはは。」
「もうちょっと、身長があったら俺はレギュラーになれたよ、きっと。」
「お前、身長だけはチームで一番高いじゃん! でも補欠なんだから現実を見ろ! 地に足をつけて生きろって。」
「お前にだけは言われたくない!」

 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

量産型英雄伝

止まり木
ファンタジー
 勇者召喚されたら、何を間違ったのか勇者じゃない僕も何故かプラス1名として召喚された。  えっ?何で僕が勇者じゃないって分かるのかって?  この世界の勇者は神霊機って言う超強力な力を持った人型巨大ロボットを召喚し操る事が出来るんだそうな。  んで、僕はその神霊機は召喚出来なかった。だから勇者じゃない。そういう事だよ。  別なのは召喚出来たんだけどね。  えっ?何が召喚出来たかって?  量産型ギアソルジャーGS-06Bザム。  何それって?  まるでアニメに出てくるやられ役の様な18m級の素晴らしい巨大ロボットだよ。  でも、勇者の召喚する神霊機は僕の召喚出来るザムと比べると月とスッポン。僕の召喚するザムは神霊機には手も足も出ない。  その程度の力じゃアポリオンには勝てないって言われたよ。  アポリオンは、僕らを召喚した大陸に侵攻してきている化け物の総称だよ。  お陰で僕らを召喚した人達からは冷遇されるけど、なんとか死なないように生きて行く事にするよ。量産型ロボットのザムと一緒に。 現在ストック切れ&見直しの為、のんびり更新になります。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

僕たちは正義の味方

八洲博士
ファンタジー
都内のお手軽な行楽スポット、天狗山。そこで僕たちは神様から「義を正すための力」を託される。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

魔法武士・種子島時堯

克全
ファンタジー
100回以上の転生を繰り返す大魔導師が今回転生したのは、戦国時代の日本に限りなく近い多元宇宙だった。体内には無尽蔵の莫大な魔力が秘められているものの、この世界自体には極僅かな魔素しか存在せず、体外に魔法を発生させるのは難しかった。しかも空間魔法で莫大な量の物資を異世界間各所に蓄えていたが、今回はそこまで魔力が届かず利用することが出来ない。体内の魔力だけこの世界を征服できるのか、今また戦いが開始された。

処理中です...