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魔女と魔術師
ピンチは続く
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柚莉は頭痛のし始めた頭を軽く左右に振った。
それからゆっくりと瞬きをする。枷はその働きを存分に発揮しているようで、腕に付けられた時よりも体がつらく感じた。今は手足だけでなく体全体に力が入らない状態だ。
気のせいでなければ、なんだか意識も朦朧としてきている。まさかこれも枷のせいなのか。
今、意識を失ってはいけないと、なんとか意識を保つために柚莉は懸命に頭を働かせる。この男の前で意識を失うのはどうしても嫌だった。
唇を噛み締めて焦点の合っていなかった視線を目の前に広がる男の背中に定めると、少しだけ意識がはっきりしてきた。しかし同時に、胃の辺りに不快な感覚が広がるのも自覚する。
(ちょっと気持ち悪い、かも)
不自然な体勢で不規則に揺られている体はとても正直な反応を示している。転移酔いといい、こちらに来てから体調が良い時がない。
この際、我慢せずに今の体勢のまま吐いてしまおうか、と考えたものの、すぐに思い直した。
男に対し最高の嫌がらせにはなるだろうが、諸刃の剣だ。柚莉もかなりのダメージを負う気がする。
「あっ……」
そんなつまらないことを考えていたからだろうか、柚莉は出すつもりもなかった声がつい出てしまって慌てて口を閉じた。男の耳に入っていませんように、と願うがそれはやはり甘かったようだ。
無言でひたすら進んでいたはずの男の足が止まる。
柚莉は体を強ばらせた。
(ど、どうしよう……)
あまりにも迂闊だった。声を出したこともだが、どうして今まで気が付かなかったのか。
束ねてもいない髪は顔の横で体と同じように揺れている。ただし、元の黒い髪色のままで。
ーー黒目と黒髪はこの国では珍しいんだ。
トゥーレアスの言葉が思い出される。
気付かないうちにペンダントを落としてしまったのだろう。男から逃げようともがいていた時だろうか。ペンダントは革紐で首から下げていただけだから、頭を下にすれば落ちるのも無理はない。
目の色は確認できないが、髪の色が元に戻っているのだ。そちらも当然戻ってるはずである。
偽装が解けてしまった。
柚莉はこくりと唾を飲み込んだ。
男に知られてしまう。魔女だと、知られてしまう。
それからゆっくりと瞬きをする。枷はその働きを存分に発揮しているようで、腕に付けられた時よりも体がつらく感じた。今は手足だけでなく体全体に力が入らない状態だ。
気のせいでなければ、なんだか意識も朦朧としてきている。まさかこれも枷のせいなのか。
今、意識を失ってはいけないと、なんとか意識を保つために柚莉は懸命に頭を働かせる。この男の前で意識を失うのはどうしても嫌だった。
唇を噛み締めて焦点の合っていなかった視線を目の前に広がる男の背中に定めると、少しだけ意識がはっきりしてきた。しかし同時に、胃の辺りに不快な感覚が広がるのも自覚する。
(ちょっと気持ち悪い、かも)
不自然な体勢で不規則に揺られている体はとても正直な反応を示している。転移酔いといい、こちらに来てから体調が良い時がない。
この際、我慢せずに今の体勢のまま吐いてしまおうか、と考えたものの、すぐに思い直した。
男に対し最高の嫌がらせにはなるだろうが、諸刃の剣だ。柚莉もかなりのダメージを負う気がする。
「あっ……」
そんなつまらないことを考えていたからだろうか、柚莉は出すつもりもなかった声がつい出てしまって慌てて口を閉じた。男の耳に入っていませんように、と願うがそれはやはり甘かったようだ。
無言でひたすら進んでいたはずの男の足が止まる。
柚莉は体を強ばらせた。
(ど、どうしよう……)
あまりにも迂闊だった。声を出したこともだが、どうして今まで気が付かなかったのか。
束ねてもいない髪は顔の横で体と同じように揺れている。ただし、元の黒い髪色のままで。
ーー黒目と黒髪はこの国では珍しいんだ。
トゥーレアスの言葉が思い出される。
気付かないうちにペンダントを落としてしまったのだろう。男から逃げようともがいていた時だろうか。ペンダントは革紐で首から下げていただけだから、頭を下にすれば落ちるのも無理はない。
目の色は確認できないが、髪の色が元に戻っているのだ。そちらも当然戻ってるはずである。
偽装が解けてしまった。
柚莉はこくりと唾を飲み込んだ。
男に知られてしまう。魔女だと、知られてしまう。
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