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たんじょうび
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「で、付き合ったんですか?」
「そうなっちゃうよね」
「先輩まじでそいつヤバイ」
「分かってるけどね、昔からストーカーみたいにずっとついて回ってきてたし。でも、メンタル弱いから逆に危ないことにはならないんじゃないかな」
ざっくり事情を話したあとみちこは出会ってから今までで一番渋い顔をした。
けれども、わたしのために顔まで変えてきた男を突き放せるほどわたしは強くないし、タカノリ君ならブランクがあるとはいえ長年の付き合いがあるぶん扱いやすいと思う。
「そのうち刺されますって、やばいですって」
「わたしを刺すより自分が死ぬほうを選ぶと思うよ」
「それもやばい」
「でもそういう定番のことは言ったことないなあ。死ぬとか」
「言い出したら即別れましょう」
「みちこ、心配してくれてるの?」
「当たり前ですよ」
ほんとにもう先輩は天然なんだから、などと言いながらぷりぷり怒っているみちこを見るとタカノリ君に対するわたしもあんな感じなんだろうかと思ってしまう。
頼りない先輩でごめんね、本当。
でもタカノリ君が強硬手段に出るなんてことはないから安心して――などと考えていたら、その日はすぐにやってきた。
「結子、好きだよ。愛してる。世界で一番大好きだよ。俺のこと好き?愛してる?」
付き合うことになってからすぐにうちに転がり込んできたタカノリ君は、わたしの家のことを全部しながら家賃も光熱費も払ってくれる。
仕事はしているらしいけれども完全に専業主夫みたいになってきていた。
夜はソファで寝てくれていたのだけれど、どうしてか今日はベッドに入り込んでいる。
「どうどうタカノリ君、落ち着こうか」
「嫌だ。だいすき。愛してる。たべたいくらい」
「はいごめんねーわたしこの歳でまだ処女なのーそういう経験ないのー」
「知ってる」
真っ暗な部屋でちゅ、ちゅ、と音を立てつつ頭のてっぺんから全部にキスを落としていく。
タカノリ君の背中を叩きながら行動を中断させようとしてみるも、止まる気はないらしい。
「今日は言うこと聞いてくれないね?」
「……結子」
「はーい」
「今日、俺、誕生日」
「あっ」
しょうがない、それはちょっとしょうがないぞわたし。
今まで誕生日プレゼントあげたことないしな、ちょうどいいかもな、もう結構いい歳にもなってきたし、うん。したくない訳じゃないし、何となく――恥ずかしかっただけで。
誕生日なんて言われたら、特別なことをしなくちゃいけない気にもなる。
自分にそう言い聞かせて、わざとらしく溜息を吐いて、余裕そうなテンションで、彼の期待に応えてみせよう。
「よろしい、お食べなさい」
羞恥でいっぱいの顔が暗闇でどうか紛れますように――。
「そうなっちゃうよね」
「先輩まじでそいつヤバイ」
「分かってるけどね、昔からストーカーみたいにずっとついて回ってきてたし。でも、メンタル弱いから逆に危ないことにはならないんじゃないかな」
ざっくり事情を話したあとみちこは出会ってから今までで一番渋い顔をした。
けれども、わたしのために顔まで変えてきた男を突き放せるほどわたしは強くないし、タカノリ君ならブランクがあるとはいえ長年の付き合いがあるぶん扱いやすいと思う。
「そのうち刺されますって、やばいですって」
「わたしを刺すより自分が死ぬほうを選ぶと思うよ」
「それもやばい」
「でもそういう定番のことは言ったことないなあ。死ぬとか」
「言い出したら即別れましょう」
「みちこ、心配してくれてるの?」
「当たり前ですよ」
ほんとにもう先輩は天然なんだから、などと言いながらぷりぷり怒っているみちこを見るとタカノリ君に対するわたしもあんな感じなんだろうかと思ってしまう。
頼りない先輩でごめんね、本当。
でもタカノリ君が強硬手段に出るなんてことはないから安心して――などと考えていたら、その日はすぐにやってきた。
「結子、好きだよ。愛してる。世界で一番大好きだよ。俺のこと好き?愛してる?」
付き合うことになってからすぐにうちに転がり込んできたタカノリ君は、わたしの家のことを全部しながら家賃も光熱費も払ってくれる。
仕事はしているらしいけれども完全に専業主夫みたいになってきていた。
夜はソファで寝てくれていたのだけれど、どうしてか今日はベッドに入り込んでいる。
「どうどうタカノリ君、落ち着こうか」
「嫌だ。だいすき。愛してる。たべたいくらい」
「はいごめんねーわたしこの歳でまだ処女なのーそういう経験ないのー」
「知ってる」
真っ暗な部屋でちゅ、ちゅ、と音を立てつつ頭のてっぺんから全部にキスを落としていく。
タカノリ君の背中を叩きながら行動を中断させようとしてみるも、止まる気はないらしい。
「今日は言うこと聞いてくれないね?」
「……結子」
「はーい」
「今日、俺、誕生日」
「あっ」
しょうがない、それはちょっとしょうがないぞわたし。
今まで誕生日プレゼントあげたことないしな、ちょうどいいかもな、もう結構いい歳にもなってきたし、うん。したくない訳じゃないし、何となく――恥ずかしかっただけで。
誕生日なんて言われたら、特別なことをしなくちゃいけない気にもなる。
自分にそう言い聞かせて、わざとらしく溜息を吐いて、余裕そうなテンションで、彼の期待に応えてみせよう。
「よろしい、お食べなさい」
羞恥でいっぱいの顔が暗闇でどうか紛れますように――。
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