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0.プロローグ/終点
Magicracy :魔法至上社会
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――――1484年 魔法国家テュモレ建国
当時のとある手記によると、それがすべての始まりだとされている。
テュモレで人は魔法という力を手にし、それからというもの世界中の幾多の人々が、火、水、風、雷、あらゆる自然現象を模倣するこの力を研究し、発展させてきた。
様々な国が競って魔法を軍事力として増強し、戦争を繰り返し、滅んでいった。テュモレもまた、時代の流れの中で消えていった。
そんな歴史の上にある現代の社会は当然魔法なしでは成り立たないものとなっている。
とは言え、現代の魔法にはかつてのようなミステリアスな響きは残されていない。
さっきボトルコーヒーを買った自販機も、今乗っているバスも、手にしているスクリーンデバイスもすべて集積魔法回路によって定められた動作を誤りなく遂行する。
通勤ラッシュにあたる今はかなりの人間が公共交通機関を利用するが、俺を含めほとんどの人間が座席にゆったり腰掛けることができている。
これはこのバスに乗れた俺たちがラッキーだったからではなく、都市全体から収集された数多のデータが統合解析され、交通量が常に調節されているからだ。
車窓から見える景色、緑と高層ビルが調和している都市風景は、人間が季節ごとに最も癒しを感じられるように、また、飽きてしまわないように、配置や色彩、面積などが制御される。
それら全てを可能にしているのが、現代の魔法なのだ。
そんなシステマティックな現代魔法にはもはや神秘も興奮も感じられるはずがない。
かつて魔法を使えるようになった人たちはさぞかし楽しかっただろう。
自身の手の平から火が出てくる。指揮をするように風を操る。人の範疇を超えた運動能力を発揮する。どんな怪我でも瞬時に治る。
まさに奇跡というべきものを自ら起こすことができる。今まで出来ないと思っていたことだって、魔法があればすぐにできるようになる。
「可能性は無限大」という言葉を誰もが心から信じていただろう。
そんな彼らに、自分たちの野心的な研究の行き着く先が、このつまらない魔法社会だと、想像できたはずがない。
何事も、決して誤り行われることのない、言わば「可能性はゼロ」な日々。
(はぁ…俺も魔法の草創期に生まれたかったなぁ…)
そんなことを考えてしまうのは月曜日の朝だから、なのだろうか。
隣の席でスクリーンデバイスをいじっているのは俺と同じ、大学生だろう。普通の理系なら、ナントカ系魔法構造学とか勉強しているんだろうけど、
俺が学んでいるのは「医学」だ。
#####
月曜の憂鬱が貼り付き、色の薄くなった顔で教室に入る。白衣を羽織ってそんな顔をしていれば亡霊などと言われても仕方がないだろう。
古くなった照明が薄暗く、薬品の香り漂う教室。ところどころへこみ、サビの目立つ金属の台車にあるのは本物の人間の遺体だ。
自分の遺体を若い学生たちの勉強に役立ててほしいと提供してくれる人たちのお陰で医学教育は成り立っている。
医学生は2年次、実際の遺体を解剖し身体の構造や機能を学ぶ機会を与えられる。4,5人が班になって1人の遺体を全身くまなく観察する。
医師になるためには解剖学に始まり生理学、病理学、薬理学など膨大な知識を頭に入れなければならない。だがそうして得られるのは厚い信頼と高い社会的地位、ではなく
不要の烙印
確実性のない医療を提供する非魔法医に存在価値はない。
それでも魔法を用いない「医学」がかろうじて生き延びているのは、必要とされる場所がほんのわずかに存在するからなのだが……
俺がいるこの教室は、この国で唯一魔法医学ではない、「医学」を学べる場所だ。いくらボロくても文句は言えない。生徒は15人。どこかで魔法社会の舞台から落っこちた15人。
ただ実際に教室にいるのは10人足らずだ。どんなに頑張ってもお先真っ暗なのだからこんなところにいるのは無駄だと考える気持ちはよくわかる。
ではなぜ君はこんなところに来たんだ?と尋ねてはならないことは俺たちの間でも暗黙の了解となっている。
その社会の負け組の中のさらに負け組が俺だ。俺は留年した。2年生2周目だ。前期の解剖学は好きだったからよかったが、後期の授業がつまらなくてだんだんサボりがちになっていき、単位を落とした。
医学部は一つでも単位を落とすと即留年が確定する。これは何十年も昔から変わっていないらしい。
今や医療現場では魔法医学を修めた魔法医が当たり前となり、魔法を学んでいない医師の需要も人気も皆無に等しいのに、進級のキビしさが変わらないなんて…納得いかない。
でもやっぱり解剖学は好きだ。今まで単に「腕」や「脚」だとしか思っていなかった所が、まるで透視するかのように、いくつもの骨、筋肉の折り重なりに見えるようになる。
そして、身体を動かすとき、関節や筋肉の動きの連鎖が分かるようになる。自分の身体を自分で制御できているという安心感、日常のあらゆる動作が新鮮に感じられる。
とにかく、俺が解剖実習に参加するのは今回で2回目になる。
#####
講義が始まった。今日は大脳皮質面と水平断面の観察を行う。
脳の解剖は他の臓器より難しい。脳があまりにたくさんの機能を持っているからだ。心臓は血液を送り出す、胃は食べ物を消化する、というように臓器ごとに主な役割がある。
しかし脳の役割は、「身体のあらゆる臓器、筋肉の制御、さらに体内外からの知覚情報の処理」だ。そしてその役割に対応する部分が存在、境界線がわからない。
だから予習をしておかないと、脳の解剖実習はただの灰色の何だかよくわからないぶよぶよした物体を眺めるだけの時間になってしまう
…というのは昨年の経験から学んだことだ。
遺体にかけてあった布の頭の部分だけそっと取り去ると、現れたのは、昨年と同じようなしわがれた皮膚の老人の顔
――――ではなく、白い、若い女性の顔であった。
しばらく言葉が出なかった。解剖の遺体は普通年配の方なんだが……目の前にいる女性の肌にはかすかにつやが残っているし、生気すらも感じられる。誰かがイタズラで解剖台の上で寝ているのかと疑ってしまったくらいに。
班員たちは、案外気に留めていない様子だった。みんなこの状況を何とも思っていない、というのが二重で不思議だ。試しに隣にいる女子に尋ねてみるか。
「こんな若い人の遺体のこともあるんだな」
「昨日先生が事情を説明してくださっていましたよね?」
(…え、説明してたか?)
ここまでキッパリ言い切られたらそうなのだと思うしかない。自分が人の話を聞かないタイプなのは自分が一番知っているし、単位を落とすという結果になっても現れている。
それより、解剖に使う遺体には年齢の規定があったはずだが…遺体を提供してくれる人も少なくなってきているし、特例なのだろうか。先生の説明ちゃんと聞いておけばよかった。
それにしても、あの女子冷たすぎないか?ただの人見知りならそれでいいんだが…
と思ってもう一度その女子を見ると、ちゃんと自分以外の班員と会話していた。さっきの冷酷な雰囲気はどこへやら、ふつーの明るい女子だ。彼らはちらちらとこちらを見てきているが、決して俺を話の輪に混ぜようとはしない。
(なるほど、俺は留年生だから忌み嫌われている、と。そんな腫れ物みたいな扱いしなくてもいいだろ…)
実習初日から班員にハブられたので遠目に遺体を眺めていた。
解剖の邪魔になるので白い髪は短く切られていたが、生前は絹のような白髪ロングヘアだった、そんな気がする。
名前を呼ぶと、振り返って真っ白な頬を淡く染めて口元を緩め、少し色っぽく髪をかき上げる、風がふわりと髪を撫でる…そんな妄想。
(俺、遺体に恋してる……?)
気がつくと、勝手にありもしない思考を展開していた俺を他所に、班員たちが頭蓋をノコギリで切断し終わっていた。いよいよ脳を取り出して観察が始まろうとした時だった。
「な、なんだこれ?」
班員の男子の一人が素っ頓狂な声を上げた。他の班員たちも一斉にぱっくり割れた頭蓋の中を覗く。他の班からも何人か集まってきた。
(腫瘍でも見つけたのか?)
正直あまり興味はなかったし、また班員たちに冷たい態度を取られるのは嫌だが、ここでイキって浮いてしまうのも良くない。
他の班の人たちと一緒になって覗くと、
そこには、楕円形の翡翠があった。
透き通った緑で親指の爪より一回り大きい宝石が、脳の前方に半分ほどめり込んで、輝いている。位置的にはちょうど額の真ん中にあたる。
一同騒然となった。自分たちの解剖を中断して部屋にいた生徒全員が集まってくる。解剖学に精通している教員も困惑していた。
体内に石ができる、これ自体は珍しいことではない。膵臓や胆嚢、尿道などで生じるものがよく知られる。また色や形も様々で、白い砂つぶのようなものから水晶のように無色透明で先の尖っているものもある。
しかし、体内に翡翠ができる病なんて聞いたことがない。しかもそれは明らかに人為的に加工された宝石のように見えた。
新種の結石だ、いやどこかの金持ちが娘の体内に宝石を隠したんだ、と皆が騒ぎはじめ、収拾がつかなくなった。
ドンッ
誰かに強く押しのけられて我に返った。例の翡翠を見に来た他の班の人たちだろう。どうやら俺は翡翠に見入ってしまっていたみたいだ。
どういうわけかわからないが、既視感に似ている、しかしやはり何か違う不思議な感覚だ。ただ、この楕円の結晶に触れたいというはっきりした衝動に駆られた。
俺は解剖台の周りにいた人の間に身体を無理やりねじ込んだ。そして右手のゴム手袋を外し、その右手を、ゆっくりと伸ばし、人差し指で、翡翠に、触れ――――
カッ!!!
翡翠が突如眩く緑の閃光を放った。強い光に眼がやられ、視界は緑から白、やがて黒へと変わり、俺の意識は深い深いところへ落ちていった。
――――――――――――――――
Diary.0
そうして、魔法は廻り始めた。
当時のとある手記によると、それがすべての始まりだとされている。
テュモレで人は魔法という力を手にし、それからというもの世界中の幾多の人々が、火、水、風、雷、あらゆる自然現象を模倣するこの力を研究し、発展させてきた。
様々な国が競って魔法を軍事力として増強し、戦争を繰り返し、滅んでいった。テュモレもまた、時代の流れの中で消えていった。
そんな歴史の上にある現代の社会は当然魔法なしでは成り立たないものとなっている。
とは言え、現代の魔法にはかつてのようなミステリアスな響きは残されていない。
さっきボトルコーヒーを買った自販機も、今乗っているバスも、手にしているスクリーンデバイスもすべて集積魔法回路によって定められた動作を誤りなく遂行する。
通勤ラッシュにあたる今はかなりの人間が公共交通機関を利用するが、俺を含めほとんどの人間が座席にゆったり腰掛けることができている。
これはこのバスに乗れた俺たちがラッキーだったからではなく、都市全体から収集された数多のデータが統合解析され、交通量が常に調節されているからだ。
車窓から見える景色、緑と高層ビルが調和している都市風景は、人間が季節ごとに最も癒しを感じられるように、また、飽きてしまわないように、配置や色彩、面積などが制御される。
それら全てを可能にしているのが、現代の魔法なのだ。
そんなシステマティックな現代魔法にはもはや神秘も興奮も感じられるはずがない。
かつて魔法を使えるようになった人たちはさぞかし楽しかっただろう。
自身の手の平から火が出てくる。指揮をするように風を操る。人の範疇を超えた運動能力を発揮する。どんな怪我でも瞬時に治る。
まさに奇跡というべきものを自ら起こすことができる。今まで出来ないと思っていたことだって、魔法があればすぐにできるようになる。
「可能性は無限大」という言葉を誰もが心から信じていただろう。
そんな彼らに、自分たちの野心的な研究の行き着く先が、このつまらない魔法社会だと、想像できたはずがない。
何事も、決して誤り行われることのない、言わば「可能性はゼロ」な日々。
(はぁ…俺も魔法の草創期に生まれたかったなぁ…)
そんなことを考えてしまうのは月曜日の朝だから、なのだろうか。
隣の席でスクリーンデバイスをいじっているのは俺と同じ、大学生だろう。普通の理系なら、ナントカ系魔法構造学とか勉強しているんだろうけど、
俺が学んでいるのは「医学」だ。
#####
月曜の憂鬱が貼り付き、色の薄くなった顔で教室に入る。白衣を羽織ってそんな顔をしていれば亡霊などと言われても仕方がないだろう。
古くなった照明が薄暗く、薬品の香り漂う教室。ところどころへこみ、サビの目立つ金属の台車にあるのは本物の人間の遺体だ。
自分の遺体を若い学生たちの勉強に役立ててほしいと提供してくれる人たちのお陰で医学教育は成り立っている。
医学生は2年次、実際の遺体を解剖し身体の構造や機能を学ぶ機会を与えられる。4,5人が班になって1人の遺体を全身くまなく観察する。
医師になるためには解剖学に始まり生理学、病理学、薬理学など膨大な知識を頭に入れなければならない。だがそうして得られるのは厚い信頼と高い社会的地位、ではなく
不要の烙印
確実性のない医療を提供する非魔法医に存在価値はない。
それでも魔法を用いない「医学」がかろうじて生き延びているのは、必要とされる場所がほんのわずかに存在するからなのだが……
俺がいるこの教室は、この国で唯一魔法医学ではない、「医学」を学べる場所だ。いくらボロくても文句は言えない。生徒は15人。どこかで魔法社会の舞台から落っこちた15人。
ただ実際に教室にいるのは10人足らずだ。どんなに頑張ってもお先真っ暗なのだからこんなところにいるのは無駄だと考える気持ちはよくわかる。
ではなぜ君はこんなところに来たんだ?と尋ねてはならないことは俺たちの間でも暗黙の了解となっている。
その社会の負け組の中のさらに負け組が俺だ。俺は留年した。2年生2周目だ。前期の解剖学は好きだったからよかったが、後期の授業がつまらなくてだんだんサボりがちになっていき、単位を落とした。
医学部は一つでも単位を落とすと即留年が確定する。これは何十年も昔から変わっていないらしい。
今や医療現場では魔法医学を修めた魔法医が当たり前となり、魔法を学んでいない医師の需要も人気も皆無に等しいのに、進級のキビしさが変わらないなんて…納得いかない。
でもやっぱり解剖学は好きだ。今まで単に「腕」や「脚」だとしか思っていなかった所が、まるで透視するかのように、いくつもの骨、筋肉の折り重なりに見えるようになる。
そして、身体を動かすとき、関節や筋肉の動きの連鎖が分かるようになる。自分の身体を自分で制御できているという安心感、日常のあらゆる動作が新鮮に感じられる。
とにかく、俺が解剖実習に参加するのは今回で2回目になる。
#####
講義が始まった。今日は大脳皮質面と水平断面の観察を行う。
脳の解剖は他の臓器より難しい。脳があまりにたくさんの機能を持っているからだ。心臓は血液を送り出す、胃は食べ物を消化する、というように臓器ごとに主な役割がある。
しかし脳の役割は、「身体のあらゆる臓器、筋肉の制御、さらに体内外からの知覚情報の処理」だ。そしてその役割に対応する部分が存在、境界線がわからない。
だから予習をしておかないと、脳の解剖実習はただの灰色の何だかよくわからないぶよぶよした物体を眺めるだけの時間になってしまう
…というのは昨年の経験から学んだことだ。
遺体にかけてあった布の頭の部分だけそっと取り去ると、現れたのは、昨年と同じようなしわがれた皮膚の老人の顔
――――ではなく、白い、若い女性の顔であった。
しばらく言葉が出なかった。解剖の遺体は普通年配の方なんだが……目の前にいる女性の肌にはかすかにつやが残っているし、生気すらも感じられる。誰かがイタズラで解剖台の上で寝ているのかと疑ってしまったくらいに。
班員たちは、案外気に留めていない様子だった。みんなこの状況を何とも思っていない、というのが二重で不思議だ。試しに隣にいる女子に尋ねてみるか。
「こんな若い人の遺体のこともあるんだな」
「昨日先生が事情を説明してくださっていましたよね?」
(…え、説明してたか?)
ここまでキッパリ言い切られたらそうなのだと思うしかない。自分が人の話を聞かないタイプなのは自分が一番知っているし、単位を落とすという結果になっても現れている。
それより、解剖に使う遺体には年齢の規定があったはずだが…遺体を提供してくれる人も少なくなってきているし、特例なのだろうか。先生の説明ちゃんと聞いておけばよかった。
それにしても、あの女子冷たすぎないか?ただの人見知りならそれでいいんだが…
と思ってもう一度その女子を見ると、ちゃんと自分以外の班員と会話していた。さっきの冷酷な雰囲気はどこへやら、ふつーの明るい女子だ。彼らはちらちらとこちらを見てきているが、決して俺を話の輪に混ぜようとはしない。
(なるほど、俺は留年生だから忌み嫌われている、と。そんな腫れ物みたいな扱いしなくてもいいだろ…)
実習初日から班員にハブられたので遠目に遺体を眺めていた。
解剖の邪魔になるので白い髪は短く切られていたが、生前は絹のような白髪ロングヘアだった、そんな気がする。
名前を呼ぶと、振り返って真っ白な頬を淡く染めて口元を緩め、少し色っぽく髪をかき上げる、風がふわりと髪を撫でる…そんな妄想。
(俺、遺体に恋してる……?)
気がつくと、勝手にありもしない思考を展開していた俺を他所に、班員たちが頭蓋をノコギリで切断し終わっていた。いよいよ脳を取り出して観察が始まろうとした時だった。
「な、なんだこれ?」
班員の男子の一人が素っ頓狂な声を上げた。他の班員たちも一斉にぱっくり割れた頭蓋の中を覗く。他の班からも何人か集まってきた。
(腫瘍でも見つけたのか?)
正直あまり興味はなかったし、また班員たちに冷たい態度を取られるのは嫌だが、ここでイキって浮いてしまうのも良くない。
他の班の人たちと一緒になって覗くと、
そこには、楕円形の翡翠があった。
透き通った緑で親指の爪より一回り大きい宝石が、脳の前方に半分ほどめり込んで、輝いている。位置的にはちょうど額の真ん中にあたる。
一同騒然となった。自分たちの解剖を中断して部屋にいた生徒全員が集まってくる。解剖学に精通している教員も困惑していた。
体内に石ができる、これ自体は珍しいことではない。膵臓や胆嚢、尿道などで生じるものがよく知られる。また色や形も様々で、白い砂つぶのようなものから水晶のように無色透明で先の尖っているものもある。
しかし、体内に翡翠ができる病なんて聞いたことがない。しかもそれは明らかに人為的に加工された宝石のように見えた。
新種の結石だ、いやどこかの金持ちが娘の体内に宝石を隠したんだ、と皆が騒ぎはじめ、収拾がつかなくなった。
ドンッ
誰かに強く押しのけられて我に返った。例の翡翠を見に来た他の班の人たちだろう。どうやら俺は翡翠に見入ってしまっていたみたいだ。
どういうわけかわからないが、既視感に似ている、しかしやはり何か違う不思議な感覚だ。ただ、この楕円の結晶に触れたいというはっきりした衝動に駆られた。
俺は解剖台の周りにいた人の間に身体を無理やりねじ込んだ。そして右手のゴム手袋を外し、その右手を、ゆっくりと伸ばし、人差し指で、翡翠に、触れ――――
カッ!!!
翡翠が突如眩く緑の閃光を放った。強い光に眼がやられ、視界は緑から白、やがて黒へと変わり、俺の意識は深い深いところへ落ちていった。
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そうして、魔法は廻り始めた。
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