2 / 2
お貴族様は判っていない。
しおりを挟む
馬鹿殿下が喚いてたけど、学園の規則では他人に暴力を働いた学生は半日間、反省房に入ると決まっている。
そしてこの学園では、王子であっても反省房入りは免除されない。
他の場所では、王子をお諫めできなかった側近が処分を受けて、王子本人は軽く注意されるだけで済ます、というのが良くあることらしいんだけど、この学園だと王子本人が罰せられる。
平民としては、ざまぁとしか言いようがないよね、これ。自分が悪さしたんだから、自分で罰を受けなさいってもんよ。
でも学園長は、ざまぁなんて言ってられないらしくって。
「入学早々、さっそくやらかしてくれたわね」
学園長にしてみたら、ため息しか出ませんよね。
「馬鹿の行動は計算通りだったけど、あなたに囮を頼んじゃって、ごめんなさいね」
学園長のユーフェミア師は、ため息をついた後でそう、謝罪してくれた。
「他の人には堂々と手を出さないだろうし、仕方ないです」
怖かったけど。
「あなたが怖い思いをした分も含めて、支払わせますから」
「お願いします」
支払い交渉します、では無くて『支払わせる』って言ったよこの人。
「それと、三日ほどは完治させずにおくけれど、勘弁して頂戴ね」
「証拠として保存、ということですよね?」
馬鹿殿下が乱暴な真似をする、という証拠の一つとして、取っておくらしい。
ただし、見た目だけ。痛みはもうすっかり消してくれてる。見た目は派手にアザになってるけど。
「ええ」
「それは構いませんが、交換条件を出させていただいても?」
入学早々のトラブルだから、怪我したままでいるのもデメリットが大きい。
「平民の分際で交渉ですって!?なんと不敬な!」
ユーフェミア師の隣に座っていたテオドシア師が声を上げたのを、ユーフェミア師が片手を上げて遮った。
「理由を聞いてもいいかしら?」
「今の時期に殿下にケガさせられて、しかも治しても貰えない下民扱いされると、友達が作れません」
平民が通う学校だと、友達を作るのは入学直後が重要になる。
その大切な時期に、身分の高い奴にケガさせられて、治療もしてもらえない子の相手なんか、みんなしたくない。
身分の高い奴が、傷つけて良い相手だと宣言して、こいつは治さなくて良いぞと見世物にしてる、ってことなんだから。
そんな弄られ役と友達になったら、この先も絶対、嫌がらせや暴力沙汰に巻き込まれるもの。誰だってそんな子と仲良くなんかしたくない。
そして身分の高い人は、もっときびしい。
あの人たちに『あ、こいつは身分制度の外の奴だ』と思われたら、存在さえ無視される。普通の平民でもスルーされることがあるのに、平民以下だと思われたらそれより酷いことになる。
だからこのままだと、私は四年間ボッチ確定だ。
もちろん、ユーフェミア師はそれを判ってたんだけど。
「え?」
絶対分かって無かったよね、テオドシア師。
テオドシア師は貴婦人らしくない、変な声を出した。
「貴族の方は、ご存じないことかもしれませんね」
ユーフェミア師とは打ち合わせが済んでるくらいだから、貴族でも普通知ってると思うけど、テオドシア師のプライドに傷つけないようにしないとね。
この人、めんどくさいらしいから。
「でも、後から治療すれば良いでしょう、それだけのことを下民だなんて、そんな」
「ある程度の平民相手なら、お偉方は暴行の証拠を消します。暴行のあとをこれ見よがしに残すのは、住まいもない貧民相手の行為です」
ため息交じりに説明してくれたのは、ユーフェミア師だった。
「テオドシア、わたくしたちは、この子の将来を潰しかねない依頼をしたのですよ。弁えなさい」
「しかしユーフェミア師、わたくしは」
「おだまり」
ユーフェミア師はぴしゃっと言ってのけた。
「ここからは計画を変えましょう。テオドシア、あなたは十日間ほど出張です。メイベル、あなたはわたくしの家に下宿なさい。寮母にはこちらから伝えておきます」
「かしこまりました」
私が聞いてた通りで計画変更なんかしてないんだけど、頷いておく。
テオドシア師は別の話を聞かされてたはずだから。
「ユーフェミア師、どうして!?」
そしてやっぱり、テオドシア師はいらいらした声を上げたし。
「あなたには、平民の子女への気配りを期待できないからです。あなたは何ということもない話をしたつもりで、メイベルの名誉を損なうことを喋るかもしれません。そうなれば、メイベルの将来が昏くなるのですよ」
「わたくしはいつだって気遣っております!」
ヒステリックに反論してるテオドシア師は、ユーフェミア師の掌の上ですね。
ちらっと隣に視線を向けると、同じソファに腰をおろしているアデライン様が、お二方に見えない角度でふっと笑った。
そしてこの学園では、王子であっても反省房入りは免除されない。
他の場所では、王子をお諫めできなかった側近が処分を受けて、王子本人は軽く注意されるだけで済ます、というのが良くあることらしいんだけど、この学園だと王子本人が罰せられる。
平民としては、ざまぁとしか言いようがないよね、これ。自分が悪さしたんだから、自分で罰を受けなさいってもんよ。
でも学園長は、ざまぁなんて言ってられないらしくって。
「入学早々、さっそくやらかしてくれたわね」
学園長にしてみたら、ため息しか出ませんよね。
「馬鹿の行動は計算通りだったけど、あなたに囮を頼んじゃって、ごめんなさいね」
学園長のユーフェミア師は、ため息をついた後でそう、謝罪してくれた。
「他の人には堂々と手を出さないだろうし、仕方ないです」
怖かったけど。
「あなたが怖い思いをした分も含めて、支払わせますから」
「お願いします」
支払い交渉します、では無くて『支払わせる』って言ったよこの人。
「それと、三日ほどは完治させずにおくけれど、勘弁して頂戴ね」
「証拠として保存、ということですよね?」
馬鹿殿下が乱暴な真似をする、という証拠の一つとして、取っておくらしい。
ただし、見た目だけ。痛みはもうすっかり消してくれてる。見た目は派手にアザになってるけど。
「ええ」
「それは構いませんが、交換条件を出させていただいても?」
入学早々のトラブルだから、怪我したままでいるのもデメリットが大きい。
「平民の分際で交渉ですって!?なんと不敬な!」
ユーフェミア師の隣に座っていたテオドシア師が声を上げたのを、ユーフェミア師が片手を上げて遮った。
「理由を聞いてもいいかしら?」
「今の時期に殿下にケガさせられて、しかも治しても貰えない下民扱いされると、友達が作れません」
平民が通う学校だと、友達を作るのは入学直後が重要になる。
その大切な時期に、身分の高い奴にケガさせられて、治療もしてもらえない子の相手なんか、みんなしたくない。
身分の高い奴が、傷つけて良い相手だと宣言して、こいつは治さなくて良いぞと見世物にしてる、ってことなんだから。
そんな弄られ役と友達になったら、この先も絶対、嫌がらせや暴力沙汰に巻き込まれるもの。誰だってそんな子と仲良くなんかしたくない。
そして身分の高い人は、もっときびしい。
あの人たちに『あ、こいつは身分制度の外の奴だ』と思われたら、存在さえ無視される。普通の平民でもスルーされることがあるのに、平民以下だと思われたらそれより酷いことになる。
だからこのままだと、私は四年間ボッチ確定だ。
もちろん、ユーフェミア師はそれを判ってたんだけど。
「え?」
絶対分かって無かったよね、テオドシア師。
テオドシア師は貴婦人らしくない、変な声を出した。
「貴族の方は、ご存じないことかもしれませんね」
ユーフェミア師とは打ち合わせが済んでるくらいだから、貴族でも普通知ってると思うけど、テオドシア師のプライドに傷つけないようにしないとね。
この人、めんどくさいらしいから。
「でも、後から治療すれば良いでしょう、それだけのことを下民だなんて、そんな」
「ある程度の平民相手なら、お偉方は暴行の証拠を消します。暴行のあとをこれ見よがしに残すのは、住まいもない貧民相手の行為です」
ため息交じりに説明してくれたのは、ユーフェミア師だった。
「テオドシア、わたくしたちは、この子の将来を潰しかねない依頼をしたのですよ。弁えなさい」
「しかしユーフェミア師、わたくしは」
「おだまり」
ユーフェミア師はぴしゃっと言ってのけた。
「ここからは計画を変えましょう。テオドシア、あなたは十日間ほど出張です。メイベル、あなたはわたくしの家に下宿なさい。寮母にはこちらから伝えておきます」
「かしこまりました」
私が聞いてた通りで計画変更なんかしてないんだけど、頷いておく。
テオドシア師は別の話を聞かされてたはずだから。
「ユーフェミア師、どうして!?」
そしてやっぱり、テオドシア師はいらいらした声を上げたし。
「あなたには、平民の子女への気配りを期待できないからです。あなたは何ということもない話をしたつもりで、メイベルの名誉を損なうことを喋るかもしれません。そうなれば、メイベルの将来が昏くなるのですよ」
「わたくしはいつだって気遣っております!」
ヒステリックに反論してるテオドシア師は、ユーフェミア師の掌の上ですね。
ちらっと隣に視線を向けると、同じソファに腰をおろしているアデライン様が、お二方に見えない角度でふっと笑った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
この作品は感想を受け付けておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる